56話
限界だった。身体のあらゆる場所が悲鳴を上げている。何度目だろうか。思い出す度、精神が擦り切れ、衣笠大という自分自身が消えていくようか感覚。
「もういいんじゃない?」
聞きたかった彼女の声が響く。優しく、包み込んでくれるような高木八重の声。俺が知っていた声。俺だったやつが親しんだ声。その声は優しすぎて、許してしまいそうになる。決定権を彼女の声に委ねる。声は否定しなかった。ただそれでもいいと言ってくれた。
衣笠大の肉体は、精神は、黒い魂にまる飲みされた。黒い消炎が衣笠大の身体から浮かび上がる。傷ついた肉体は腐敗を加速させていく。蓄積されていた情報体からの解放、それは多くの魔法使いが経験し後悔した最果ての旅路の終着点。導き手は招く。優しい声ですべてを許し、すべてを愛す。
「最後の砦だ、衣笠大。扉を開けるか、それとも引き返すのか。
多くの見習いや成り損ないのノットがこれに敗北する。」
深山錦は朽ちた衣笠大の肉体を見てそう言った。
白い空間で目が覚める。真っ白で何もない空間。そう思った。だがそうでもなかった。聞いたことのないオルゴール音色が空間全体に響き渡っている。足元には散乱した黒い本の山。そして目の前で座って本を一人で静かに読み続ける少女、高木八重がそこにいた。
嬉しさのあまり立ち上がり、彼女に声をかけようとした。
「なんだ、起きたのか?」
彼女とは思えない言葉遣いだった。顔は間違いなく高木八重本人。いや、瓜二つなだけで別人なのだろうかと疑う。
「ここは”揺り籠”。肉体を捨てた魔法使いに席を置いた者の終着点だ。
この姿はお前の魂に最も縁の深い生命をモデルとしている。
その方が話しやすいからな。
どうだ、死んだ気分というのは?気持ちよかったか?」




