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獅子奮迅  作者: げんぶ
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55話


 自身を包み込む空気が一瞬、変わった気がした。間違いではない。火傷までして暑さに耐えていた空間が真逆の冷気を帯びた氷雪空間へと一変していた。環境の急激な変化に俺の肉体は異常な反応を示していた。頭痛に目眩、だが膝をつくわけにはいかなかった。今ここで俺が深山錦の期待に応えられなければ俺という人間もどきはお終いだ。


 「魔法使いは神秘を行使する際に必ず魔道具を使用する。

  私ならこの空間、そしてこの刀だ。」


 深山錦は握っていた太刀、そして今いる空間を眺める。


 「魔道具には必ず使用者の魂もしくは魔力を貯蔵することができる。

  貯蔵するものの選択は所有者による。

  何故ものに魔力を貯蔵するかわかるか?」

 「有限だから…か?」

 「おおよそ正解だ。

  魔法使いといえど無限に魔法なんぞ使えん。

魂、魔力量は有限であり、所有者の持ち得る量には差が生じる。

そして魔法界において同族はほぼ敵。

自身の能力増強、拡張、補強、理由はそれぞれだ。

魔法使いは基本的には魔道具を主体に使い、最終手段として自身の能力を使う。

魔道具を使えば相手が何を得意とするのか不得手とするのか隠せるからな。」


 現在の魔法戦は魔道具が主体であり、自身の魔法は奥の手として隠し持つもの。魔道具とは自身の力の貯蔵庫。所有者であることを認められれば貯蔵しておける量は変動する。深山錦は刀、そして戦闘を行っているこの空間。衣笠大が現在所有している魔道具は。


 「お前の刃は高木八重の残した魔道具の一つ。”縁”だ。」

 「”縁”?」

 「貯蔵量は約無限と言われるほどの魔道具の一つだ。

  この世に10もないと言われるほどの貴重な骨董品。」

 「つまり、これまで俺が魔法が使えていたのは。」

 「そうだ。高木八重が残した魂を無意識に喰い、使っていたからということになる。

  まぁ、

もっともどういう訳か変幻自在と言われた”縁”を使いこなせるとは思っていないがね。」

 「変幻自在?」

 「それは今どうでもよいことだ。

  それよりもお前という存在の曖昧さを先に言っておく。

  お前は現在、魔法行使のエネルギー源を”縁”。

  それに食らいつくお前の魂。

  それに絡みつく黒い魂。さらにその上から包むように美夜古の魂が覆っている。」

 「なんで美夜古の魂が俺を包んでるんだ?」

 「能力情報の譲渡の為だ。

  魔法使いは精神と肉体に魂を宿す。精神はお前の本体と言ってもいい。

  肉体に宿る魂はお前の肉体そのものに刻まれた刻印を精神の魂に直結させている。

  刻印の接続により魔法行使に関する情報体を精神の魂が読み込み、機動させるという仕組みだ。」


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