53話
止血を終え、太刀を右腕に握り深山錦は衣笠大の言葉をそのまま聞き続けた。
「斬院に美夜古。あの二人は全て教えてくれなかった。
だがあんたや藤宮美琴は俺に全部を見せようとしてくる。」
衣笠大は修復を終えた体全体に力を入れる。
「何が言いたいんだ?小僧」
「まだ隠してることがあるんだろう。」
衣笠大の真剣な視線に深山錦は真向から向かい彼の純粋な意思に応えることを決めた。
それがある少女との契約だったからだ。
「お前の脳は現在何重もの封印がかけられた状態にある。
我々側の人間との接点を増やし、魔法を交わらせることでそれは解除されていく。
その度にお前という人間に綻びが生じる。」
「綻び…?」
「衣笠大は5年前に”きちんと死んでるんだよ”。」
俺は無意識に右腕を左胸にあて、心臓の鼓動があることを確認していた。鼓動が加速する。
深山錦の言った言葉の意味は分かる。だがそれ以上は聞いてはいけないと本能が訴えかけてくる。だが同時に覚悟を決めた自分もいることをこの時は強めて、踏みとどまるしかなかった。
「今のお前は衣笠大のレプリカ。模造品ということになる。
5年前に死んだ奴の肉体、そして魂の一部と黒い魂を接合し新しい生命体へと完成させた。」
「俺が衣笠大の模造品?
けど記憶がある!魔法も使える!
思い出せないだけでいつも!」
「高木八重の事を思っている。違うか?」
「なっ」
冷たい瞳で深山錦が俺を見てくる。瞳の奥に炎を灯し、俺の崩れる感情を映し出す。
「生前のお前。本体の方はそれを思って逝った。
その感情、我々は不要だと判断し、削除を試みたが魂がそれを拒絶した。
だから藍央学園襲撃の計画は大幅に遅れることになった。
そして不要な感情は他に必要な機能に負荷をかけバグが発生。
だからお前は現状美夜古に頼らねば魔法が使えぬし、自由に力が使えぬのだ。」




