52話
深山錦は当然衣笠大の攻撃を容易に見切った。衣笠大は渾身の力で刃を振るった。深山錦は下へ潜り込み、瞬時に背後へ回り込み衣笠大の心臓を手刀により貫く構えをとる。衣笠大は太刀を振るった遠心力を強引に抑え込み、深山錦と思われる靄が自身の背後に回り込んだのを捉える。
鋭い刃が俺の心臓を貫こうと肉をえぐったのが分かった。何か知らぬ手段で俺は今日この男に殺される。そんな予感はあった。初めて美夜古とこの男を訪ねた時に殺気を感じ取っていたからだ。あの後、八重の残した魂、鎌足霞と出会って本当によかったと思う。でなければこんなこと思い付きもしなかったからだ。
「余命いくばくとない老い耄れに、つまらんものを見せてくれるものだ。」
深山錦は自身の懐に突き刺さった太刀を眺めてつまらなさそうに呟いた。
「ご丁寧に俺の足を使い物にならなくした奴がよく言うな。」
衣笠大は右足の関節部を深山錦によっておかしな方向へ曲げられていた。
両者はそのまま倒れ込んだ。深山錦は懐から刃を抜き取り、出血を始めた腹部を見ながら自らの魔法を使って止血を開始した。しかし、衣笠大はそうはできなかった。彼の腹部には太刀が突き刺さったままだったからだ。古風に言うところの切腹を攻撃に転用した自決。自身が助かる手段を持ち合わせていないにも関わらずその選択をとった衣笠大に深山錦は呆れた。
「よくもそんな選択をしたものだ。至近距離でのあの選択。
くだらない最後だ。」
衣笠大は左足の膝をまげ座るような姿勢でゆっくりと起き上がる。
「俺は死ぬんじゃない。ようやく分かったんだ。
俺の魂の在処が。」
衣笠大は腹部から太刀を思いきり抜き取る。負傷していた腹部、右脚部が蒼炎によって包み込まれていった。
「自動修復。やはり奇怪な魔法だな。」
深山錦は奇妙なものを見るように目を細め、少し血の気が引いていた。
直後、衣笠大の全身を覆うように黒く薄い膜のようなものが出現した。そして今度はその中から黒い幕を青白い光が包んで黒い幕を飲み込む。
「これで、あいこだ。」
衣笠大は立ち上がって右腕に持っていた太刀を深山錦に投げ渡した。
「お前、自分の体がどういう状態だったのか知っていたのか。」
深山錦は不思議な顔一つせずに衣笠大に問うた。
「きっかけは藍央学園。気づいたのは町へ出てあの黒い魂を視たときだ。」
衣笠大は知っているような様子を始めた深山錦の態度が気に入らず、少し攻撃的に低めの声色でそういった。
「やっぱ知ってたんだな。俺の体に黒い魂が混じってるのを。
それが俺の魂を捕食して強制的にうまく力を使えなくしてたのも!」
「しかし今お前は自分の魂と黒い魂のバラストを逆転させた。」
「ああ。
黒い魂を町で腐るほど見てから、自分の大部分が黒い魂が形を持ったもんだって気づいたからな」




