50話
俺は傘を持ち直し、ある人物の元へ向かうことにした。
屋敷の前の古い門をくぐり屋敷へ入るドアを鳴らす。ドアは木製で古びていた。軋む音を鳴らし、待ち人である老人は家の中でただ立って待っていた。
「色々見てきた顔だな。何を見てきた?」
深山錦は笑みを浮かべ、俺の恰好と顔を眺める。全身は雨に打たれ、服は汚れ不格好さが滲み出ていたのだろう。髪の先から落ちる水が何度も玄関の石を叩く。
「町を見てきた。町を眺める奴、町に潜んでるやつ。
あんたらが見ている魔法に関わる奴らがいる世界の事を少しは知れた。」
深山錦は黒いロングコートに近い装束を渡してきた。それを着たら以前話した場所である広間の奥にある部屋に来いと言い残して深山錦はその場を立ち去った。
着替えを済ませ、深山錦が待っていると言う部屋の襖を開く。部屋全体は木製の床であり広さもそれなりにあった。学校の体育館と同じくらいだろうか。屋敷のサイズに合わない広さの部屋。空間に小細工でもしているのかと疑う。
「空間操作なんぞに見とれとる場合は無いぞ?」
深山錦は以前渡した長物の太刀の剣先をこちらに向け、そこから火球を放ってきた。
危機察知が間一髪間に合った。俺の着ていた装束の脇腹部分に焦げ跡を残し、火球は背後で爆炎と業火をまき散らす。
「こちら側の、魔法界を覗く覚悟をしてきたと思ったが勘違いか?」
深山錦は殺気に満ちた嫌気で俺に圧力をかけてきた。
「あんたを選んで正解だったと思いたい。
加減は無しだ!」
衣笠大は蒼炎の爆炎を足元から発生させ、深山錦の魂を捉えようとした。だが深山錦の魂ははっきりと捉えられなかった。霧のような靄か何かに包まれ見えないようにされているようだった。
「派手なだけで考えなしの見習い小僧に私の魂が見えるわけがなかろうよ。
旧時代ならいざ知らず。時代は現代、隠し、偽り、騙す。それが現代戦よ。」
深山錦は長物の太刀を衣笠大の喉元めがけて投げ飛ばす。衣笠大には靄の中から急に大きな獲物が飛んできたようにしか見えなかった。回避はまたもギリギリだった。衣笠大の喉元をかすめた刃は彼の背後で燃え広がる炎に飲み込まれた。
「魂くらい偽って見せろ。派手な力に無駄に余力を出しおって。
燃料切れで死ぬぞ?」
深山錦は思いきりの蹴りを衣笠大の腹部にねじ込み、背後の炎の中へと放り込んだ。
「ほら、どうした?
自慢の青い炎、防御にくらい使って見せんか。」




