49話
魔法使いにそんな一面があるとは思わなかった。魔法使いが生活に必要とする力に魔力が必要なのは知っていた。それを生み出す為に必要なものとして魂という概念を用いることも。魂を喰う。その感覚は確かに妙なものだった。何もない中に温かいものが入ってくるような感覚。だがあの行為は食人ではなかった。
「後天的であれ先天的であれ素質を持ってしまえばまず初めに魂を喰うための訓練を受ける。
でもそれは教えてくれる人がいればの話。
それがいないノットは徐々に不自由になっていく身体に耐えながら本能に抗う術を失っていく。
心の弱いものは自決。精神を病んで自暴自棄。見境なく人を襲う殺人鬼。
そんな人達を殺そうとして何が悪いの?」
彼女の言っていることはある意味正しい言葉だった。
人に害を及ぼすものを人は悪として定義する。それはいつも悪を悪と定めた裁定者によって決められ、その言葉を信じて人は行動を起こす。そう思ったからこそ俺は見なければならないと思った。そしてそこに踏み込むための力もまた必要だ。
「人に害を与えるから、害を与える前に殺す。
お前にとっては間違っていないのかもしれない。
でもやっぱり俺から見ればお前もノットも悪者、同類だ。
だから俺を納得させろ。お前が正しいっていう事を。
俺に見せろ。」
「そこまで言うなら見せてあげる。
でもまだ見せられない。
あんたが今の状態で私が見せられるノットに接触すれば確実に死ぬ。」
「そんなの…」
喉元に一筋の光が一瞬だけ喉を照らし刃となって突き刺さるような感覚が襲う。
俺は右手に持っていた傘を地面に落とし、両足の膝をついて地面に伏しかけた。
「今のあんたじゃ近付くことさえ無理なの。絶対にね。
覚悟ができたらまたうちに来なよ。」
会津茜はそのまま、雨に濡れ続ける町の中へ消えていった。




