45話
結局、後先の事を考えずにただ与えられた命令通りに動いている。それが今の俺だった。
他人なんか正直どうでもよかったのかもしれない。思い出せもしない記憶、なのに何か起きれば少しずつ断片的に記憶は戻ってくる。それも望んでもいない場所、時間でだ。一体どうすればいいのか答えが欲しい。だがそれでは何も変わらない。求めて与えられた答えを鵜吞みにして従うだけなのはもう耐えられなかった。
俺は藤宮美琴との会話を投げ出し、山を駆け下りた。何も考えずに向かった先は自分の元居た町。故郷ともいえる場所だった。風を切って、土に跡を残し、人の中を駆けた。自分を取り巻いていた不快感は拭えない。何を見ても違和感しかなかった。元居た場所のはずなのに何も思い出せなかった。
藤宮美琴は衣笠大が去った後もその場を動かずに静かにじっと町を見下ろしていた。彼女が使う魔法には望遠鏡に似た遠い場所を見るものがあった。それを使ってただ衣笠大の動きを観察していた。
そんな彼女の背後からある老人がやってきた。深山錦だった。彼は彼女に彼の様子はどうかと聞く。天気が変わり、曇域が怪しく変わる。多くの水が雫となって老人と少女の肩を濡らし始める。
「彼には荷が重すぎたようです。
あなたはこうなることが分かっていたのではないですか?深山錦。」
「人の意思の力は強い。奴の行動には他人から与えられた意思しかなかった。
時間はまだある。衣笠大の行動に奴自身の意思が宿るのか宿らないのか見ものだ。」
藍央学園が開くパーティーまで残り約3カ月。衣笠大の本来の目的は記憶を取り戻し、5年前の真相を暴く事。しかし、現状この一件を処理して衣笠大の望みを叶えることに繋がる可能性が低いことを藤宮美琴と深山錦は知っていた。幼馴染であり、生前の記憶を保持し続けている藤宮美琴にとってその事実は心苦しいものがあった。
「やはり私もパーティーに参加します。
こちらの下準備に衣笠大は間に合わない。」
任されていた町の調査と衣笠大の監視任務という仕事に、藍央学園に対する攻撃の下準備の事を考えると、学園に対する攻撃に参加させてもらえなかったことに藤宮美琴は焦りを感じていた。
「お前が参加してどうする。
馴染んでもいないその身体でどうする気だ?
お前は私達の後方支援に徹しろ。」
深山錦は彼女の提案をひと蹴りした。彼の言葉に藤宮美琴は返す言葉がなかった。




