43話
山を1時間程上っていると少し開けた場所に出た。ズボンは泥だらけで、汗が額から流れ落ちる。日光が頭上から降り注ぎ、炎天下での肉体の疲労がじわじわ全身に広がっていく。
藤宮美琴は傍にあった高台の上に立ちただ何かを眺めていた。俺もその場に立ち、爽快な街並みの見える景色が視界を覆った。
「大にはこの町がどう見える?」
彼女は寂しそうにそんなことを聞いてきた。俺の目には普通の街並みが瞳に映って見えていた。だから今度はもう一つの瞳で、魂を知覚する目でそれを除いた。
大きな一つの瞳が下界を見下ろしている。正体が分からなった。その瞳の上には雲がかかっているように見える。だが俺の瞳には上空にある瞳は光の線に繋がっているように思えた。どういう仕組みで何に繋がって、そもそも繋がっているのか。何にどこまで伸びているのかすら分からなかった。そして下界では得体の知れない魂たちが蠢いているように見えた。
「空から私達を見下ろす瞳。町に潜んでる正体不明の魂。どっちも見えた?」
彼女はどうやら見えたそれについて知っているようだった。
「あのデカい目玉と街にいる魂は何なんだ?」
異質であまりにも巨大な眼球。直径は50kmといったところだろうか。しかも若干だが動いているようにも見える。ただそれはじっと町を見つめているだけなのに誰もその存在に気づいているようには見えない。
地上にいる得体の知れない魂は明らかに他の人の持つ魂と違った。通常の魂は俺には白く見える。だが異質なそれらの魂は真っ黒だった。まるで黒い炎を揺らしながら災害をもたらそうとする予兆のようにも受け取れる。
「いつからあんなものがこの町にあるんだ…?
俺はあんなの知らないぞ!」
「出てきたのは7年前かな。当時の魔法関係者は全員驚いてたよ。
私や美夜古、八重に大もね。」
「俺も?」
「八重が大の前に現れたのが多分8年前。その約一年後にあれが出てきた。
調査結果は正体不明の物体と現象の発生。」
「なんでお前がそんなことを知ってる」
「私は当時あれの捜査隊の一員だったの。この国所属の魔法組織のね。
そしてその3年後にセブンスロストが発生。
私はその後死んで、大は瀕死。八重は失踪。」
「結局5年前なんだな。」
「最終的にはそこに行きつくんだと思う。
状況が5年前から変化してなければよかったんだけどね。」
「どういうことだ?」
「2、3年前から地上にある正体不明の魂が増え始めてる。」




