42話
「なん…で…?」
「ここからは私が引き継ぐ役なの。」
「引継ぎ?」
「そう。この5年後たった世界、この町の変化をあなたに教える。
さぁ、行こう。」
俺は言われるがままに藤宮美琴に手を引かれて外へ出た。藤宮美琴、5年以上前から知り合いの同級生であり、幼馴染。脳内に溢れてくる情報には心地よさがあった。だが肝心の5年前に関することは一切情報が溢れてこなかった。
「私が気になる?」
藤宮美琴は振り返って聞いてくる。
「当たり前だ。」
彼女はくすっと笑って前を向いて歩き始める。まるでこのまま歩いて進んで話を続ければわかると言っているようだった。
「大が目を覚ます前にあなたに魔法使い達は封印を施したの。
一つは記憶。一つは力。一つは魂。
理由はみんな大の事が怖かったから。」
彼女の言うことはおかしな点が多かった。俺を恐れて封印した理由もだが、そうであるならなぜ今着実にすべてを取り戻させようとしてくるのか分からなかった。
「不思議だよね。どうして封印したものを今度はわざわざ解こうとするのか。
そこは私も疑問だった。
理由を聞いた時はびっくりするくらいのエゴだった。」
「エゴ?」
「魔法使い達にとって必要だと思われたから。
大の力は誰でも使えるけど、あなたが使えば性質が変わっちゃう。」
「なんで俺が使うと違うものになるんだ?」
「それは私も分からない。でもこのまま大が進んでいくなら分かると思う。」
藤宮美琴は衣笠大を近くにある山へ連れていく。道中の道は松前斬院のいる館からこの町へ来る際になっていた道の状態に似ていた。一歩間違えれば足が地面に飲み込まれそうなくらい、浅く深い土。自然の香りは上へ行くほどに変質を始める。ところどころに小さな鳥かごのようなものが投げ捨てられており、人為的な仕掛けを匂わせていた。
「聞いてもいいか?」
俺は藤宮美琴にずっと聞きたかったことを聞こうと思った。
「何が聞きたいの?」
彼女は歩みを止めずに前を向いて言葉を返してくる。
「なんで美琴はあの頃のままなんだ?」
「それはね、私がもう死んでいるから。」
彼女の言う言葉に嘘は感じられなかった。だが同時に信じることもできんかった。死者が目の間を堂々と歩き、足跡もしっかり地に残し、影を落とし、人と交流をしている。それは少なくとも生者の条件に当てはまる。
「松前の禁術で何とか残ってるの。仕組みを言ってもいいけどそれを私が言うと呪いで私は二度とこっちに戻ってこれないし、留まれない。松前の禁術は美夜古と仲が良くなったら聞いてみて。」
「美夜古に?」
「あの子にはお世話になったの。だから私の事も少しは知ってる。」
「よくわからない。そこまでしてなんでこっち残ったんだ?」
「いくつかあるけど今言えるのは一つ。あなたを守る為。」




