38話
「了解した。覚悟を抱いて挑んでくるといい。
我々は君たちの挑戦を無下にはしない。」
影たちの笑い声がやむ。
残った笑みを浮かべた一人の影だけがその場に残り、じっと鎌足霞を見つめる。
「霞を助けるの?」
美夜古は影のすることが何となく予想できていたが、彼女とのこれまでの時間という積み重ねの結果なのか無心で影に問うた。
「まさか。それに彼女は終わっている。私の知った事ではないよ。」
鎌足霞は首を傾げた。まるで恐怖から逃げるような、脅威から退こうとするような仕草だった。美夜古と影はそんな彼女を見つめた。
「美夜古…?助け…え?」
鎌足霞の体の内側からゆっくりと青白い炎が浮かび上がり始める。彼女はそれに気づいた途端、悶え苦しみ始めた。美夜古と影はその理由を知っていた。衣笠大の最後の一撃は彼女を飲み込んでいた。発生するのこそ遅かったが、確かにその一撃は彼女の魔力とそれを生み出す炉心に着火した。
魔法使いは魔力を常に魂へ喰わせ神秘への変換を行う。彼ら、彼女らの私生活を補う為の魔法もそこに含まれる。青い炎はその行使を良しとせず、ただ鎌足霞の炉心を燃やし彼女から魔法使いとしての器を燃やし尽くそうと燃焼を続ける。
「鎌足霞、ご苦労だったね。彼の魔法の危険性は証明された。
後はゆっくり休むといい。誇っていい、君は期待に応えてくれた。」
「おま…え達!私は、…!」
「まだ喋るのか、もう聞き飽きたよ。」
影は指を鳴らした。天井にあった蒼炎を灯したシャンデリアが鎌足霞の頭上に降り注ぐ。
彼女に回避する手段もなく、薄れる意識の中で彼女は生にしがみつきにいった。
「よかったの?」
美夜古は影に疑問を投げた。
「元々それは手に余った。”ああ” なって少しは楽になるかと思ったんだがな。
壊れたおもちゃを直す元気がなかったよ。
だが今回は予想外だった。予定は早まり、成果もあげた。」
「そう。」
「そちらにも都合があろう?もう遅い、欲しいものはくれてやった。
痛み分けとこう。良い出来レースだった。
おっとこれは当事者にのみ通じる言葉だったか。」




