37話
美夜古には彼女の言葉すべてが本人の発するものとは思えなかった。彼女にとって今の鎌足霞は別人に近かった。ある意味、理想の鎌足霞の姿ではあった。だからこそ根底からひっくり返っているような彼女の表情、思考、行動の不安定さがそれを結論付ける。
「分かった。もういいよ。」
美夜古は右腕の砲身を軽く上げた。銃口の矛先は鎌足霞。そこに容赦はなく、躊躇いもなかった。ただ、こうなってしまった彼女とそして影に言葉を放つ。
「え?」
鎌足霞にはやはり分からなかった。全ては彼女を救う為の行動であったはずなのに。全ては彼女を満たすためであったのに。衣笠大という悪魔を祓えば、祓いさえするばよかったのに。そこで思考が止まる。なぜ、衣笠大は悪魔なのだろうか。”蒼炎”という奇怪な神秘を使うからなのか、それを講師が教えてくれたからなのか。思考にノイズが走る。
「違う、違う、違う、…違う!」
思考に入り込んでいるノイズを取り除こうと別のものが脳内で働く。まるで自分の魂に別の魂がとりついているような感覚だった。そこで何となく分かった気がした。
「何が違うのかなんて知らない。邪魔する奴は消すしかないの。
私は私にとって都合のいい仲間しか見ない。あとは全部いらないの。」
「わた…し…は?」
「前はそうだった。今は違う。だから、もう要らない。」
鎌足霞にはその瞬間、美夜古が身に纏う魂が変質して見えた。同時に彼女が身を包むように来ていた黒のロングコートも”蒼炎”に焼かれところどころから青白い炎が舞いだし始めた。
「影!どうせ仲間を集めて見ているんでしょう?
出てきたらどう?」
笑い声が講堂を一瞬で満たし、机すべてに学生が黒の正装を身に纏い並んでいた。美夜古はここに来る前にある部屋に閉じ込めて、足を潰した影の少女が鎌足霞の少し後ろに立っているのに気が付いた。
「お前たちに言っておいてやる。」
「何をですか?」
「我々の妨害をするのなら容赦はしない。手を引くことを進めるよ。」
「ではこちらは宣戦布告だ。お前たちの目論見はすべて、衣笠大が殲滅する。
彼が通った後には何も残らない。魂も神秘も可能性も、すべて彼が消す。」
「歓迎するよ。パーティーが楽しみだね。」
両者は互いに警告した。探り合いを行う必要はなく、ただ両者を排除すべき弱者ととらえた。主催者は弱者を歓迎し、参加者は弱者を狩るために布告した。




