4話
目が覚める。ベッドから起き上がり、鳥の囀りが部屋に響く。
部屋というには語弊がありすぎるか。
正確にはサンルームのような場所。
室内のあちらこちらに見たことがない植物や木々が置かれていたり、植えられている。
ベッドの傍に用意されていたスリッパをはき、植物に水をやっていた人物がいたので声をかける。
「おはよう」
傍で何かしていた同居人の影を見たのでそちらへ挨拶をする。
「おはようございます。昨夜はよく寝られましたか?」
冷たい氷のような声が返ってくる。
同居人はこちらの事等まるで興味がないようだった。
振り返ってくれるなどなく、行っていた作業を続ける。
「ああ、よく寝られたよ」
俺はそんな同居人の対応になれてしまっていることを気にしつつ、返事をする。
植物に水をやっていたのは同じ宿に住んでいる同居人は松前美夜古。
今いる宿の宿主である松前斬院の養子ということになっている。印象的な黒い髪は腰まであり、後ろで束ねており、黒い装束のようなものに身を包みこみさながら魔法使いのようだ。というのが周囲の感想である。
視力が0.1以下の俺にはそんな彼女がどんな顔をしているのかよくわからないのが少し残念だ。
「斬院のところへ行きますか?」
「いるのか?なら行く。」
5年前、衣笠大は殺された。そこに偶然、本人曰く必然らしいが、松前斬院は美夜古と共に現れ死にかけの俺を回収。魔法使いだったらしく、魔法で俺を再生させ、救ってくれた。その際に色々混ぜ合わせ、元の俺を復元する為に異物を、衣笠大を形どるパーツの一つとして馴染ませる必要があったらしい。その為に馴染ませる期間として要したのが俺の眠っていた5年間という時間になると説明を受けた。
正直未だに受け入れがたい事実だ。そんなの言われたところで誰も信じられるわけがない。
目が覚めて5カ月ほど経つが現実離れした話に中々脳が追い付かない。
「私たちの事、未だに信じられませんか?」
「斬院が魔法使い。お前が見習い魔法使いって話か?」
「信じたくないだけだ。」
「嘘が下手くそ。しかも動揺もある。」
「感がいいんだな」
「強がって」
俺の行動を読んだのか、感がいいのか、それとも魔法とやらを使ったのか。
彼女は俺の喉元に何かを突き立ててきた。
何か鋭利なものが喉元をかすめる感覚が俺の神経を逆なでする。
「流石は手品師だ。次の講演会の場所は決まってるのかな?」
「見えないというのも、幸せですね。」
美夜古は俺の喉元に向けていたものを何処かへしまい、暗い通路を先に歩いて進んでいった。
俺は彼女の後に続いて目的の斬院のいる部屋を目指した。