32話
塵や埃が舞台へ舞い散る。贈られた場は古びれた空間となった終着予定地点である行動。
鎌足霞は躊躇なく、50メートルはある高さをもろともせずに自由落下し綺麗に着地する。
手負いの獲物を追い詰める狩人。覆ることのない劣勢条件を叩きつけられた手負いの獣。
その場に立ち合い人が一人。それをただ黙認し、目で追う影は立ち合い人に手出しを許されず月を眺めつぶやく。
「どうでもいいよ。どっちも死んじゃえー。」
松前美夜古はその言葉を聞き逃さず、遠隔で人知れず影の足を圧し折った。立ち合い人たる彼女の魔法にただの影であるそれは抗う術を知らない。握られた彼女の右手からは血が流れ、地に落ちる。狩人と獣にとってそれは開戦の狼煙となった。
鎌足霞は両腕で拳銃を構える。牽制射撃、発砲段数は6、手ごたえはない。視界を妨害する視界の悪さだが、徐々に両者の視界は修復されていく。銃を構える彼女はその中で獲物が逃げ惑う様を捉える。その様子を見て、彼女の獲物を追う高揚感が高まらなくなっていたことを彼女自身、自覚した。だが自身から仕掛けたこの狩りは自身の手で幕を引かなければならないという使命感にも苛まれていた。
「馬鹿が…」
それを見守る立ち合い人としてその場にいた松前美夜古は鎌足霞の言動を見て、呆れた。
理由は単純だった。狩人となった彼女の選択が松前美夜古には苦しさを紛らわそうとする少女に見えたからだ。
衣笠大は腹部を右腕で抑え、左腕でアタッシュケースを盾変わりにするようにして障害物の裏に隠れる。暗闇の空間に目が慣れてきて、この空間がどのようになっているのかをゆっくりと把握する。天井には明かりが灯るのを待つ大型のシャンデリア。空間の中央にはおよそ半径10メートルほどの円形状となった台。その周りを囲むように段数を積み重ねるように木製の机や椅子が配置されている。そしてあることに気づく。
「なんであいつあんなところに!?」
ゆっくりとこちらに迫る鎌足霞の後方にある机の上に座ってこちらを眺める少女の影が美夜古であることに気づき驚きが隠せなかった。視線が美夜古とあっているような気がした瞬間だった。脳内に美夜古の声が響く。
「助けましょうか?」




