28話
「着きました。ここが藍央学園です。」
歩き続けて30分程のところに不思議な校舎が現れた。レンガで壁は作られ、その間から無数の枝分かれした植物が根を張り校舎を守っているようだった。そのあり方はまさしく西洋ファンタジーに登場する魔法学校そのもののように見える。この町の中でこの建造物は異色を放ち、相容れぬ文化同士が衝突しているように思えた。
「あなたは魂を視ることが出来るようになった。だからこの校舎のありのままの姿を見ることが出来る。」
美夜古の言葉から、どうやら一般人からすればこの校舎は別物に見えるようだ。日本のどこにでも存在する高等学校にでも見えるのだろうか。
「私は校舎に忘れたものをとりに行ってきます。あなたは校舎を見回っておいて下さい。
地図と通信機を渡しておきます。」
美夜古は校舎の地図をポケットから取り出し、渡した。そこまではよかった。その次に彼女は何処から取り出したのか、右手に握っていた鳥の羽のようなものを俺の頭に刺した。激痛が頭に走る。羽を抜こうとしたがとれることは無かった。
「何しやがる!」
「あなたは何処にものを落とすかわかりません。頭に刺して抜けないようにしておけば心配はいらないでしょう。」
俺は美夜古の胸ぐらをつかんで羽を抜くように言った瞬間、彼女は呪文のようなものを唱えるとまた脳裏に激痛が走った。
「遊んでいる時間はないんですよ。
ここはあなたが思っているよりもずっと怖い場所なんですよ。
その羽はそのための保険でもあります。
何かあったらすぐに私の名前を読んで下さい。いいですね?」
そう言って彼女は霧のような靄に包まれ消えていった。俺のはらわたは煮えくり返っていたが怒っていても仕方がない。俺は地図を開いた。すると何やら赤く印がされている場所が数か所あった。場所の名前は第一魔法資料保管室、元魔法研究第9特異科研究室、第一講堂。位置的に一番近いのは第一魔法資料保管室だった。
校舎の中をゆっくりと進んでいく。夜の静けさが校舎内に浸透し夢と現実を曖昧にしようとする。外見は西洋の魔法学校に見えたが中身は日本の学校と混ぜ合わされたような構造になっており、内装もめちゃくちゃだった。不気味な気配が漂い、進む足を重くする。いくら魂が見え、道に迷わないといっても酷いものだった。視界が徐々に霞んでいくのを感じる。使いすぎなのだろうか。予想以上に目にかかっている負担が大きいようだ。俺は一瞬だけ気を抜き、目を休ませた。




