27話
「生きた魔法使いの肉体、そして魂をそのままの状態、生きている状態で出品する。
それが、パーティーで開かれる催しだ。」
信じられなかった。要するにそれは人身売買。
旧時代に横行した蛮行そのものをやろうとしているのか、しかも数の少ない同族同士で。
「目的は幾つかある。
自身の変えを用意する為、欲望を満たす為、敵を作る為、希望を見つける為。
色々ある。だが彼らには彼らの目的、目標があり贄を必要とする。」
「それが魔法使いの”淘汰”に繋がるのか?」
「ある意味ではな。これ以上は私が言うより自分の目で確かめるのが一番だ。
君は残された3カ月間の間によくこの町を視るんだ。
主観と客観、より多くの視点から多くのものを見定めろ。
そして自分で決めなさい。
話は終わりだ。」
深山錦はパチンっと指を鳴らした。瞬間、周囲の空間がねじ曲がったように錯覚する。
自分と美夜古の身体だけがねじ曲がっていくような妙な不快感のある映像が脳内に散乱する。情報が拡散し、処理できなくなり、霧散する。
俺と美夜古はある喫茶店の前に立っていた。見覚えのない空間、場所、時間。周囲を見渡すと看板があった。この場所の事を指しているのは分かったが覚えのある地図と場所が一致しなかった。
「ここは中区。藍央学園のある町の中心に位置する場所。
家から追い出されましたね。」
「学園がある場所なんだったらそうとしか思えない。
案内頼めるか?」
美夜古は俺の言葉を流し、ついて来いと言わんばかりに早歩きで町の中の道を進んでいった
時刻は午後10時を回っていた。月の光に町は包まれ、秒針の針が進む度に町が得体の知れないものに浸食されていくように静寂が不気味に際立つ。ただ蒼白な光が心を幻惑する。外的要因を排除し、内的要因がすべてを満たさんとする。全ての街灯が不規則に点滅する。その光に身を隠し、蠢く無数の魂が衣笠大の瞳は捉えていた。
「パーティーで行われるオークションと同時並行で行われる会合。
その内容を話していなかったので教えておきます。」
美夜古は振り返らずに前だけを向いて歩みを止めなかった。
「そちらで行われるのは彼らが目論む計画の作戦会議です。
計画内容は、”学生同士”の殺し合い。
ただ一人の生存者のみを許し、他の一切を許容しない。」
「なんだよ、それ。
普通の人にはできないことが出来る癖に!何でそんなことを!」
「彼らの選択です。誰にもそれは否定できない。」
「お前はそれに参加するのか?」
「私は参加権を剥奪されました。だから、救えないし、止められない。
作戦会議とは言っても名ばかりで、実際は開始の狼煙なんですよ。」
「なんでそんなに冷静でいられる?」
「3カ月です。深山錦、あの男があなたに与えた猶予だ。」
「猶予?」
「参加するのか、しないのか。あなたは覚悟を問われているんですよ。
術は私が渡します。使い道はあなたが決めろ。」
松前美夜古や深山錦、彼らのような神秘を扱う者達にとって人の言葉はまやかしでしかなかった。人は簡単に嘘をつく。真実を誤魔化し、捻じ曲げ、踏みつぶす。行動こそが最大の信頼であり信用たる証。だが彼らはそれだけでは動かされない。同時に彼らは神秘の行使を絶えず仲間に要求する。真実の証明の為、正義の真偽を図る為、魂の軌跡を辿る為。




