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獅子奮迅  作者: げんぶ
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25話 私のたった一人の姉 part1


 水平線に沈む赤日。川面を渡る涼やかな風がなびく。

 何かが私に訴えかけてくるようだった。

 夜の帳が静かに降りる。


 暗澹とした空の下を私は一人、ぽつぽつと進んでいく。

 向かう先は藍央学園。現在、私達レジスタンスが敵対している者たちの総本山。

 そんな場所へ向かう理由はたった一つ。私物の回収だ。

 告白してしまうと、私は5年前まで藍央学園の生徒だったのだ。

 つまり、学園側からすれば私は許されない裏切者ということになる。

 普通に行けば無事ではすまないだろう。

 だが、今日だけは事情が違った。

 今日は私にとって藍央学園の警備が甘い。

 

 鎌足市の中心の方まで来ると市内に住む住民たちの数が増えてくる。

 もう深夜の1時になるというのに、大人、子どもに老人、よりどりみどり。


 「また北区の方で魔法使いが殺人事件を起こしたんだって!」

 「本当?!すげー!いいなー!俺も魔法使いになりてー!」

 「馬鹿!そんなこと言うんじゃねーよ。で、何人死んだの?」

 「50人くらいらしいよ。」

 「なーんだ。いつもより少ないね。

  それで?犯人の魔法使いはどうなったの?」

 「殺されたに決まってるじゃん。

  魔法使いは生きてちゃいけないんだから。存在そのものが犯罪なんだし。」

 「どうして学園の人は力があるのにさっさと魔法使いをみんな殺してくれないんだろうな」


 町の住人の他愛ない声が耳に雑音として自然と入ってくる。

 魔法使いという存在はこの世界にとって異物として扱われている。

 清く美しい心を持った少年、少女たちにとって魔法そのものは魅力的に映るのだろう。

 しかし、社会はそれを良しとしていない。魔法使いは倒すべき、悪なのだ。

 

 町の中、細い路地に入り薄汚れた上着を何枚も着込んだ老人の横に立つ。


 「行くなら今だな。

  あまり派手にやるな?

  チャンスと言っても、精鋭部隊の何人かはいつでもあの檻の中で飼われてんだ。」


 老人はレジスタンスの協力者だった。

 私は彼に報酬の金が入った包を渡す。


 「善処します。」


 私はそう言って、藍央学園の門を叩いた。

 開戦の狼煙が上がる。


 戦闘の音が鳴り響く。


 「とんだじゃじゃ馬娘だ。

  故人が残す記憶とは罪深いものだ。

  飲まれずに、精進しなや美夜古の嬢ちゃん。」


 私が校内のグラウンドへ侵入した時点で、校舎の見張りをしていた何人かの魔法使いが一斉に襲ってくる。私はそんな彼らの相手をする暇はないので分身を作り出す。もう一人の私が彼らと戦い時間を稼ぐ。私は校舎に侵入する。


 下駄箱にあった鎌足霞という生徒の上履きを取り出して足をいれる。

 いい履き心地だった。恐らく、走りだせばそれなりに速度が出るような仕掛けでもしてあるのだろう。


 グラウンドでは賑やかな音が奏でられている。その音は校内をすっと流れていく。

 校舎の明かりはつかない。夜の暗がりは魔法を強める効果があるからだろう。

 コツ、コツ、コツ。薄暗い廊下をゆっくりと私は進んでいく。


 私がここへ来た理由は死んだ姉の遺品を取り返すため。

 姉は私を育ててくれた、私の母親代わりのような人だった。

 あの人はいつも明るく振る舞って、人として正しく生きるような倫理観を大切にしていた。

 私たち姉妹は元々この鎌足市出身の魔法使いではない。

 ある日突然この町に連れてこられた誘拐事件の被害者というわけだ。


 連れてこられてから私たちは藍央学園で育てられ、魔法使いに”させられた”。

 学園に所属する学生の年層は大体5歳から20歳といったところだろうか。

 魔法使いは若ければ若いほど神秘との適合率が高い。魔法使いになりやすいのだ。


 私たちがここに来たのは7歳くらい。姉はその時14歳。

 何をどうされて私が神秘と契約できたのかはもう忘れた。

 学園内で学ぶことは基本的に魔法使いを殺す為の訓練。

 私は特別その力があったらしい。


 「何なんだよ、このドアは?!

  一体どこがっ?!ぐっぅ“ぅ”……。」


 私は連れてこられたその年、人生で初めて殺人という罪を犯した。

 一つ、二つとドアを出して相手の心臓を貫く。

 簡単な作業だった。

 でもその後、何かにとりつかれたようだった。

 寒気がずっと私の体を包み込み、震えが止まらなかった。おまけに、真っ赤に染まった手を何度洗っても血が落ちない。その度に私はその怖さを忘れるために姉の所へ走った。


 「ねーちゃん!!」


 私は訓練が終わった後も必ず姉の元へ走って向かっていた。

 その度に姉は優しく私をぎゅっと抱きしめてくれた。

 とても、暖かった。

 そして姉はいつも血に汚れた私を見て悲しそうにする。


 「おかえり、美夜古。」


 姉はいつも倉庫整理をやっていたらしい。神秘との契約がうまくいかず、与えられた仕事が倉庫整理しかなかったんだとか。

 そんな姉を学園は何度も、何度も無理やり姉を魔法使いにしようとした。

 毎週、毎週、その実験は行われる。

 姉の体に増える傷跡が日に日に増えていることが幼かった私でも気づくことはできた。


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