3話
記憶が滲んでいく。涙を流しているからだろうか。
なぜ流していたのかあやふやだ。
最後に残った記憶が再生される。
「衣笠大って君?」
「あんたは?」
「高木八重。君の1つ上でお姉さん。」
彼女は俺のことを分かってくれる理想の人だった。だから怖かった。
その時は気づかなかった。
「八重さん…この腕輪は?」
「誕生日プレゼント。私の思いが詰まってるよ。」
彼女の言葉は常に俺を包むように甘い感じだった。
満たされた。
「八重、凄いよ。夢みたいだ。これで俺は…●●●る。」
「それで大はもう自由だよ。家に帰らなくてもいい。
怖い悪魔とも戦わなくていい。ただ自由に、これで……」
何故彼女は俺の望む事を叶えてくれるんだろうか、不思議だった。
でも聞くのが怖かった。
この時間が終わるのは嫌だった。辛いのはもう嫌だった。
俺は逃げたかった。でも戦うしかなくて。でもその理由が分からなかった。
両親の呪縛から逃げられない。ただあるから殺せと。
悪い悪だから消せと。言われるがままに従って役割をただこなす。
そして本当にその後、俺は逃げ出した。
報いがくる。
「八重…?」
「私はあれから逃げて来たの。一人は怖かった。だからどうしても仲間が欲しかった。」
今までに見たことがない黒い悪魔との戦いが高木八重と衣笠大が共闘する理由となった。
ある意味すべてはそこから始まったのかもしれない。
その時の彼女の顔だけは鮮明に衣笠大の中に焼き付けられた。
彼に彼女は正義というものを信じてさせてしまった。
なのに…。もう何もしたくなくて、何もかもがどうでもよくなった。でも獅子は奮迅を続ける。
広がる白銀の花園。そこには顔をえぐられ、腕を千切られ地に伏す衣笠大がいた。
そしてもう一つ。影があった。
朱色の鎧に身を包み、鎧の隙間から流血を花園に滲ませる紅いの騎士。
騎士は衣笠大の傍に近づき、残された彼の体を捕食し始める。
獣のように容赦なく、肉も骨も噛み千切り、砕く。
捕食する様は周囲のもの全てを振るいあがらせる程のプレッシャーを放った。
騎士は食事を終えるとその場に数秒立ち尽くした。
「ヴォ"ォ"ォ"ォ"……」
騎士は産声を上げた。
その数秒後、その場は焦土と化した。