21話
蛇は、自らの肉体に喰らいつき放そうとしない人間に興味を覚え始めていた。
毒が回り、普通なら動けないはずなのに。
この人間には自分達を凌駕する何かを宿している生命なのではないかという期待がそこにはあった
蛇にとってこんなにも奇怪な人間など心当たりが少なかった。
そして、蛇は思った。
この人間を知ってみたいと。決断は即座に下された。
太古からこの大地を知る支配者の席を預かるものとして、蛇は衣笠大の魂をまる飲みにした。
「お前という人間を知りたい。
少しの間だが魂をお前に預ける。
お前がつまらないものであれば私はお前を殺す。
この世界、お前が変わらねば窮屈で退屈だぞ?」
目の前にぽつんと一匹現れた蛇はそう言った。
その姿はあまりに小さく、小枝のように細く、もろそうだった。
色は白銀で薄く体表は薄く輝いている。
「俺は、俺のことを知りたい。」
咄嗟にでた思いだった。
今までずっと押し殺してきた気持ち。
どいつもこいつも俺という人間を利用して、目的を果たそうとする。
俺がどんな気持ちでここまで来ていたか、知ろうともしない。
なら、俺も好きにやらせてもらう。
「蛇野郎、俺の魂を無駄遣いしたら承知しねぇぞ!!!!!」
池にたどり着いた狩人は目を疑った。
「なんと、……醜い……。」
心臓を一突きだった。
手負いの獣が握っていたのは狩人が右手に握っていたものと瓜二つの刃。
長く、鋭いその刀身は鮮やかに狩人の鮮血を夜空に散らせる。
狩人はその場に崩れ落ちた。
彼の敗因はたった一つ。変わり果てた狙いの獣の姿に見入ってしまったからだ。
衣笠大は狩人を倒したことに実感を覚えられなかった。
そのまま、のらりくらりと池の水面を覗き込み自身の変わり果てた姿を見て目を疑う。
髪は白銀に染まり腰まで伸びていた。着ていた服も白銀の装束に変わっていた。
何より驚いたのは顔だった。その顔立ちが先ほどの自分とはまるで別人に変わっていたことだった。
「こんなのもの、俺じゃ、……。」
お前のような貧弱な肉体で魔法使いを倒せるとでも思ったのか。
これでようやく奴と同じ土俵に立てたというところだ。
何の努力もせず、いきなり大きなものを求めようとするからこんなことになるのだ。
蛇の声が脳内に響く。
「じゃあ、この顔は?」
昔、私の首を落とした女だ。
戦闘時のみ、この体を使え。多少はまともになるはずだ。
「その体、作り替えられた。っと見るべきか。」
覚えのある声が背後から聞こえた。
ヒュッっという音と共に俺の左腕は切り落とされた。
直後、俺の体は池の中へ蹴り落された。
「神秘とは油断がならぬな。容易に信用するものではない。
侮りも驕りも。人生とは内省すべきことの多さよ。」
俺はなんとか池の中から這い上がり、出血が止まらない左腕を右手で抑える。
“なんという体たらく。やむを得ん、お前に私を流し込んでやる。”
「は?!おい蛇野郎それはどうっ?!」




