20話
男の歩みが止まる。左手に握っていた杖の形状が徐々に変化し、大物の刀となった。その刀には見覚えがあった。
「大蛇……。」
目の前の男の正体がようやく分かった。
「私の名は、ミヤマニシキ。
5年前の姿を残し、継承の儀を執り行うもの。」
深山錦は大蛇を俺の頭めがけて振り下ろした。
「っ……!」
咄嗟に右へよけ、深山錦の攻撃を躱す。そう、できていたらどれほどよかっただろう。
俺の左腕は攻撃を躱せず、その場に残されていた。
「その心の臓を穿たせていただく。」
俺は左腕を抑えながら傍に会った森へ逃げ込んだ。
「クソっ!あの爺ぃ……!」
とにかく今はミヤマに対抗するために武器がいる。黒染松月の時のように何もせずに逃げ回るなんてごめんだ。だが、どうしようにも武器になりそうなものすらない。
周囲には草木に花、枝が落ちているだけで、このままでは受け身を取ることすら不可能だ。
数十分、俺はただ逃げ続けた。
何回蛇に足や腕を噛まれる。右足の感覚がなくなった。
ズ……、ズズ……。右足を引きずりながら、地べたを這いずり回り、小さな溜池にでた。
出迎えてくれた小さな溜池には、小さな緑色の光が付いたり、消えたりしている。
ゆっくりと無数の蛇たちが俺を囲うようによって来る。
目の前を待っていた光も怯えるように、その場から消えていく。
積みだった。
動き回って、体に毒が回ってしまったのだろう。
視界が徐々に暗くなっていく。指先の感覚も薄い。
蛇が俺の体を這い、締め上げてくる。不快な感覚なのに、痛みすら感じない。
ここまで俺はなんのために頑張ってきたのだろうか。
ある異変に気付く。奇妙な感触が口の中に広がっていく。
薄れる意識の中でその事実はあまりにも理解が追い付かないものだった。
俺の体は俺の意識を無視して、ただひたすらに蛇に噛みついていた。
生きるために、純粋に足掻き、生存競争に負けんと肉体は最後の抵抗運動を始める。
何の為に、誰の為に、戦い、生きるのか。
その答えを俺の肉体は知っているようだ。
なら俺も、それについて行って、最後まで足掻いて見せないとな……!




