19話 鎌足市4区
「あんた、八重と同じなんだろ。」
「……そうだ。私は”彼”との誓いを果たす。
私の役割はお前えにこの世界がどのようなものか”伝える”ことだ。」
右腕に持っていた刀を俺の腹をめがけて投げ飛ばしてきた。刃は俺の体に串刺しにした。じわじわと痛みが腹部から広がっていく。そして、不思議なことに刃はゆっくりと俺の体に溶けていった。
「その刀は元々お前のものだ。返す。
痛みもいずれ癒える。」
男はゆっくりと寄ってくる。何処から持ち出したのか男の左腕には杖が握られていた。
カツカツと音が近づいてくる。
「衣笠、お前は魔法をなんだと思う。」
男の問には何か深い意味が込められているようだった。
「つい最近までは子どもを喜ばせる手品だと思っていたよ。
魔法は狂気的で、猟奇的、人殺しの道具だ。」
ここに来るまでの短い時間で魔法から体験した素直な気持ちだった。
「20点だ。魔法は確かに超常的な現象を引き起こす。
その本質は世界を殺すものだ。」
「世界を殺す?」
「人の世で魔法が認知されているか?
いいか、元々魔法などこの世には存在しなかったのだ。
それがいまではお前や私は既にあったものと認知してしまっている。
まるで人の体内で密かに育つ癌であるようにな。
そんなものが世界にあり続けるとどうなるのだろうな?」
男の言葉には重みがあった。世界に存在する魔法という病。それがあり続けるということは滅びを意味するのではないかと思えた。
「鎌足市は東区糸括、西区大沢、南区奥丁、北区雨情の4区に分けられる。
それぞれには特徴的な部分がある。
東区糸括は魔法使いにとっての毒素が高濃度で散布されている。
その為、住民がほとんどいない過疎地域となっている。
西区大沢は一般人と魔法使いの共存エリア。
南区奥丁は藍央学園に反感を抱くレジスタンスの巣窟でスラムに近い。
北区雨情は魔法使いがいない一般市民のみが住まうエリアだ。」
4つに区分けされるにしては異質さを隠しきれない様子が町に広がっているのではないかと思わされる。
「藍央学園はこれら4区の中心に位置する。
奴らはこの町全体を実験場としながら、魔法を消し去ろうと日々研鑽を積んでいる。
そんなことを許せるわけがないと、抵抗するレジスタンス。
そんな両者の存在など知らず生活する一般人。
これがこの世界、鎌足市の全貌だ。」
「いくつか聞きたいことがある。
東区の糸括には俺を殺そうと襲ってきた怪物がいた。
ああいうのは他のエリアにもいるのか?」
「ああ、いる。
あれは魔法使いの慣れの果てと言われている。
誕生経緯は不明だが、底知れぬ能力や法則性のない動きからレジスタンスと藍央学園から厄介者という扱いを受けている。
いずれ、お前の仕事はそれらの処分となるだろう。」
「随分と人使いが荒い。
人を勝手に改造して、野蛮な獣と契約、町の問題解決?
付き合っていられない。」
「なら、実力をもって己が定めた障害を排除して見せろ。
今のお前ではそこらの蛇にも殺されよう。」




