2話
干し柿...
静寂の湖の畔に彼女は座っていた。
森に囲まれたここは、まるで絵本の中のように登場人物以外の介入を許そうとしない場所。
衣笠大はいつもより早い時間に待ち合わせをしていた場所についたつもりだった。
高木八重、町に蔓延る正体不明の悪魔を狩る衣笠大の仲間。
そんな彼女が悪魔の正体の真相に迫った。
仲間の誰もが求めた吉報だった。
他にいる仲間の誰だってここ数年、誰も手掛かりさえつかむことは叶わなかったというのに。
どうやら一足遅かったようだ。彼女に手を振る。彼女は笑って笑顔を返してくれた。
胸が高鳴る。足の進む速度が増し、気づけば地面を思いきり蹴っていた。
「遅いよ。待ちくたびれた。」
「ごめん。」
「覚悟はできたの?」
「もう十分悩んだ。その結果出した答えだから。
みんなも納得してくれる。」
「そっか...。」
高木八重が衣笠大に真相を話す為には条件を提示した。
衣笠大が彼女から預かっていた腕輪を返却すること。
それが何を意味するのか、衣笠大にはわかっていた。
俺は右腕の手首につけていた腕輪をとって、彼女に渡した。
「ありがとう。」
彼女は涙を流しながら微笑んで受け取った腕輪を左腕につけた。
「これで、呪いはお終い。ようやく…」
彼女は目の前から姿を消した。突然だった。思考が止まる。
次の瞬間には地面から白い見たこともない花で湖を覆った。風が吹く。花弁が散る。
まるで何かが起こる前兆のようだった。散った花弁が湖の中を揺らぐ。湖は朱色に染まった。
心臓のような鼓動が空気を振動させる。
体全体に響いたそれは俺の体を湖の方へ向きを変えさせる。ゆっくりと影が凶器を持ってやってくる。
影は彼女の姿をしていた。面影があった。だからこそ、信頼し心を許した相手、思った相手だからこそだった。
「八重…?」
最後の思いが全部のって声になる。
急に視界がゆがんだ。感覚で分かった。そうか、花園に倒れたのか。
右側の感覚がない、ような気がした。意識がよくわからないものに飲み込まれていく感じがする。
何なんだろうか、これ。そうか、多分これは…。