13話 星空の下で
2015年という現代において、やはりこの鎌足市の街並みは異質さを感じさせる。
黒染松月は魔法使いとの会話を終え、藍央学園の屋上から町を静かに見渡していた。
これまでに発見された”衣笠大”たち、そして自分自身が遭遇した衣笠大の付き人。そのうちの一人、松前美夜古。彼女も恐らくこの町に張り巡らされた陰謀に絡みつかれた虫のいっぴき。
「あら?ナンバー2がこんなところでいったい何を?」
聞き覚えのある女の声がした。校舎の屋上に入るドアがギィっと悲鳴を上げる。
黒染松月にとって女の声、ドアの叫びは深い極まりないものだった。
屋上に入ってきた女の名前は鎌足霞。今年で17歳の高校2年生。そして藍央学園が育て上げた魔法使い。藍央学園の魔法使いとして育成された者には番号が与えられる。数が小さくなるほど優秀とされ、学園内でもその地位、権限が強くなっていく。
鎌足霞はナンバー5。彼女の年齢でナンバー5に届いたものはいない。そして、その地位と権限が彼女の人間性を歪ませていた。傲慢で強欲、そして陰湿な性格というのが学園内の生徒から彼女に対する評価だった。
つまり、鎌足霞も黒染松月と同じで人でなしだった。
「松月先輩、勝負しましょーよ。」
「地位と権力を振りかざし、自分よりも格下の学生を虐げ、圧制を敷く。
そういうの楽しいよな、霞。」
「私は、いままでされてきたことを同じ方法でやり返してるだけです。
間違っていますか、松月先輩?」
藍央学園に通う学生で鎌足霞のような境遇の生徒は少なくない。学園内では個々の能力を向上させることに最も力をいれている。だが、人間性や道徳心を養う教育は行っていなかった。当然、学園内では貴族社会に似た風紀が生まれる。
学園から与えられる地位にはナンバーのほかに土地、食料、多額の金が与えらる。
そしてさらに、使用人。この使用人という制度が学生の道徳心を狂わせる要因の一つだった。使用人はつまるところ奴隷そのものだったからだ。使用人をどう扱うかは自由。学園の生徒はみな被害者であり加害者だった。
かつて自分を奴隷として扱った人間を奴隷として扱える。鎌足霞にとってはこの上なく魅力的な制度だった。ナンバー持ちがナンバー持ちを下す。下されたものは当然勝者の使用人となり、ナンバーも入れ替わる。
黒染松月は立ち上がり、主従を結んだ精霊を呼び出す。名前は白雪姫。人々から生み出された幻想が意思を持ち、形を持った存在。
「今は衣笠大の件が最優先のはずだが?」
現在、黒染松月を含めたナンバー持ちには衣笠大の暗殺命令が出ていた。
「黒染先輩、私はねファーストの地位が欲しいんですよ。
それが私の最優先なんです。
でも、肝心のファーストは行方不明。
なら先にセカンドの先輩を倒すしかないんですよ。」
深夜の虚空に二人の魔法使いが舞う。前者は力を求めて。後者は戯れの為に。夜空の中で地球の引力を振りほどいた二人の人間。しかし、魂は引力にひかれ続け、内に秘めた欲求を振りほどくことはできずにいる。
両者の戦いは朝まで続いた。結果は黒染松月の圧勝。鎌足霞は体を地表に打ち付けられ動くことさえままならなかった。
「私の、力で、あの子たちを……。」
彼女が最後に発した言葉は黒染松月の耳に届いていた。その言葉の意味も。
「霞、お前はあますぎる。」