11話
「今現在魔法使いの数は減っています。でも魔法使いの見習いとその成り損ないの数は数十年前から増えているんです。」
「だから何なんだ。」
「見習いと成り損ない達は力の使い方がわからないまま生きていくしかない。」
「なら、そんなのやめちまえばいいだけの話だろう」
「諦めきれないんです。私たちは魂を食べなければ力を自然に失う。師を持たない成り損ないなら、たった数日の夢物語。けど、師を持ち多少の知識がついた見習いはそうはならない。諦めた例は確かにありますが、大多数は諦めずにああやって道具に頼って力を保とうとする。」
「なんで師匠の魔法使いはそれを止めないんだ。」
「捨てたからですよ。魔法使いだっていい人間ばかりじゃないんです。」
「随分と身勝手な理由だな。」
「反抗するより、従順で扱いやすいペットの方が良いに決まっているでしょう。」
それから暫く会話はなかった。美夜古についていきながら、細い小道や、雑木林、古い屋敷の前、様々な場所を歩いてくぐって、通り抜けた。なんの変哲もないただの町。そんな町に蔓延る魔法使いの弟子達。そう思うと奇妙で奇怪で、とても普通の生活に戻れるとは思えない。普通の生活とはなんなのだろうか。そんな変なことを考えてしまっていることを自覚しながら道を進んでいく。
1時間ほど歩いたころだった。雑木林に囲まれた1つの一軒家が目の前に現れた。
「あれか。」
「荷物は届いているそうです。早く行きましょう。」
家の傍まで来るとどのような家なのかがなんとなく分かった。正面に古びた門。その門に絡みつく木々の根のようなもの。奥に見えたのがこれから生活する家。ちょっとした坂を上り、ようやく到着した。木造建築であり、本当に昔からあったものに一切手を加えず、そのままにされた家。
「これ、本当に家なのか?」
「ええ、これから生活する場所です。及第点をあげます。見えないはずの目でよくそこまで視たものです。」
「このバンドのお陰なんだろ?便利なもんだな、これ。」
森の洋館を出る準備期間の間に斬院から渡されたヘアバンド。これを巻いておけば一定時間は物体に宿る魂から周囲の情報を多少吸い上げるのだとか。吸い上げられた魂の情報は脳に自動で伝達され知覚を可能にする。便利な道具だ。
家の中へ入っていくと玄関には荷物と食料が床に投げてあった。中は思っていたよりも綺麗で電気も通っており、ガス等も使えるようになっていると美夜古が教えてくれた。それからは送られた荷物を分け、各自で自室を決めることになった。6~8畳はあろう部屋が5つ、そして2階には5畳以下の部屋が6つほどあり、物置になっている部屋ばかりだった。
1階の部屋を見回っていると北側へ向かう通路を歩いていると大きな池があった。池の周囲には小さな竹が生えており、意味ありげな雰囲気を醸し出して神秘的だと思ってしまう。
その数分後問題が発生した。
「ここは、私の部屋です。」
「おい、先にこの部屋を見つけたのは俺だぞ。」
ある部屋に元々おかれていた古びれた本棚を手前にどかすと、4畳ほどの1人寝る程度には住みやすそうな小さな部屋が隠しドアから現れた。その部屋は物置として使われていた様子で唯一の洋間だった。そのことを美夜古に報告するとこうなってしまった。
「あの部屋は魔法使いである、私向きの部屋です。」
「嘘つくんじゃねーよ!見習いが!」
「あなたにはこの部屋の価値が分かっていません!一般人は黙って畳の上で寝てください!」
「こちとら目が覚めれば5年で体は魔法使いの純正品だぞ!?」
「あら、魔法が嫌いな様子だった癖に、その辺は随分と受け入れが良いようではないですか」
口論は2時間に渡り行われた。最終的に俺は美夜古が制御している半身の制御を奪われ畳の上に倒れ込み、ヘアバンドを奪われ意識を失った。察してはいたがヘアバンドのような便利アイテムにデメリットが無いわけがなく、蓄積された脳に与えられていた負荷が相当のものだったようだ。
ここに、部屋の争奪戦の勝敗が決する。勝者、松前美夜古。敗者、衣笠大。勝者に贈られるは極楽浄土の洋間。敗者に贈られるは慈悲なき畳に終わった。