9話
2015年11月25日、5日間の準備を経て俺と美夜古は洋館の外へと出た。
「世話になった。」
「いえいえ、美夜古君と仲良くして下さいね。それとここへはもう戻ってこないことを祈っていますよ」
斬院はにこりと笑って洋館の中へ入っていった。斬院は最後言った言葉通り、俺はこの場所や斬院達が関わっている世界にはもう近寄るつもりはなかった。
俺は先に歩いて行ってしまった美夜古を走って追いかける。走って追い付く際にいくつか気づいた事があった。洋館の周りは森で囲まれており、少し標高の高いところに今自分はいるようだ。そして今いる森は言葉では上手く言い表せないがとても嫌な感覚のある場所だった。なるべく早くこの場を離れた方が良いような、この場から逃げたくなるようなそんな感覚。
美夜古は森の中の、道とは言えない道をなんの困難さも見せず進んでいく。地面の状態が悪く、泥に足を持っていかれ何度も転びそうになったり、毒蛇に遭遇したりと散々な目にあう。そして目的地のバス停へ到着した。
「遅いですよ」
「大自然を満喫してたんだよ」
「感想は?」
「最悪だ!」
バスに乗って1時間。ひたすら山を下る道を通り、ようやく町が見えてきた。見覚えのある懐かしい感覚にさせてくれる町。
「鎌足市、人口約110万人。東西南北の区があり、北区には半径約50キロの湖があることで有名。多くの民謡が残り、受け継がれる城下町と近代的な街並みが混在する歴史的価値のある場所。」
「これから住む場所の調査か?熱心だな」
「あなたの貧弱な能がどれだけの事を覚えているかの確認です」
記憶の中にはぼんやりとだが過去に住んでいた場所の光景、関わった人物に関しては徐々に思い出せてきた。ただどうしても5年前、魔法使いの世界に足を踏み入れてからの記憶だけが思い出せなかった。
バスに揺られて、1時間半ほどたった頃だ。徐々に近づく記憶の片隅にある町、記憶とのズレが生じ始める。5年たった故郷の変化は大きかった。大きな高層ビルやマンション。昔よく入り浸った店は形を残さず、新しい建築物に塗り替えられいた。新しい街並みが視界に流れる。知らない町ではないはずなのに、知らない町に入った気分だ。この町で、世界で、俺はもうこの世にいないことになっていて、俺の分かってくれる人ももういない。生まれ変わった気分とはこういうものだろうか。それにしては少し寂しいような...。