悪役令嬢になって婚約破棄してみせます(番外編)(マリア編)
こちらは「悪役令嬢になって婚約破棄してみせます」の番外編ステラの親友のマリア視点となっております。まだ読んでいない方は、本編、クライブ殿下編を読んでからこの話を読んでいただくと、より楽しめると思います。拙い文章ですが、楽しんでくれると嬉しいです。
「マリア聞いて!とても良い作戦を思いついたの。」
ある日私の親友のステラが唐突に息を切らしながらこんなことを言ってきた。
私はマリア・ローレン。ステラと同じで私も侯爵令嬢だ。
そして私は第一王子のアルト殿下の婚約者である。私とステラはお互い王子の婚約者という立場があり、自然と仲良くなった。
ステラは前から唐突に何かを思いつくと、実行に移す前にまず私のところに必ず来た。この興奮度合いからみて今回もまたいつもと同じようになにかを実行する前に私のところに相談しにきたのだろう。
誰にも言ったことはないが、ステラが私のところに持ってくる話はすべて面白い。実際今も内心ステラがどんなことを言うのか楽しみでしょうがなかった。でもステラの前では落ち着いていて頼れる親友でいたいので一旦落ち着くために飲んでいた紅茶を一口飲む。
「ステラ。落ち着きなさいよ。話は聞いてあげるから。」
正直早く話してほしい。とりあえずステラをテーブルを挟んだ私の向かいに座らせて話を聞く。
「名付けて、『婚約破棄されて殿下をしあわせにしよう』作戦よ!マリア」
ステラが興奮しながらも話を進め、ステラが思いついた作戦の概要が分かっていくにつれ、私の口角もどんどん上がっていく。今回は今までとは比べものにならないほどおもしろい!
「ステラが本の虫で殿下のことを好きではないってことは知っていたけれど、まさかこんなことを考えるなんて。ほんとにいいの?」
「いいのよ!私は殿下に幸せになってもらいたいの。あの殿下がオリビア様の前で笑っていたのよ。あれはきっとオリビア様のことを愛しているの。殿下はやさしいからきっと私に婚約破棄を言い出せずにいるのよ。」
どうやらステラは婚約者であるクライブ殿下が最近学園に編入してきた男爵令嬢のオリビア・テイラーに恋していると思っているらしく、自分とは婚約破棄をしてクライブ殿下とオリビア・テイラーをくっつけたいらしい。ステラはそれがクライブ殿下の幸せになると思っているようだ。
私はそのステラの考え方が見当違いであることを知っている。
私と私の婚約者であるアルト殿下とその弟でステラの婚約者であるクライブ殿下は小さいころからの関係で、いわゆる幼馴染で兄弟のような関係性だ。だからお互いのことはかなり知っている。もちろんクライブ殿下がステラに一目ぼれした日のことも知っているし、婚約を認めてもらうために必死に努力してきたことも知っている。
そしてクライブ殿下が怖いほどステラのことを溺愛しているのも知っている。
昨日も私とアルト殿下にどれだけステラが素晴らしいかというのを語ってきやがった。クライブ殿下よりはステラと出会ったのは遅かったが、私だってステラのことが大好きだし、忙しいクライブ殿下より一緒にいる時間が長い私だってステラのことは知っているつもりだ。
クライブ殿下の「俺だけがステラを知っている」という感じのスタンスがかなりムカつく。クライブ殿下が私にステラについて語ってきたときは、私もクライブ殿下にステラについて語り返したりする。その時のクライブ殿下の悔しそうな顔を見るのが楽しかったりする。
クライブ殿下がステラを好きではないというステラの考えも見当違いだが、クライブ殿下があのオリビア・テイラーを好きだというのはもっと見当違いだと思う。
詳しいことは聞いていないが、最近クライブ殿下がオリビア・テイラーに接近しているのは知っている。何かの調査なのだろうと思う。クライブ殿下はこういう仕事をよく引き受けているからだ。
きっとステラはその場面を見て勘違いしたのだろう。ステラは本の虫であまり周りに興味がないので知らなかったようだが、オリビア・テイラーはかなり有名だ。悪い意味で。
オリビア・テイラーは、最近家が事業に成功して男爵の地位をもらったことで、貴族が集まるこの学園に編入してきた。しかし彼女は貴族のマナーや礼儀が全然なっていなかった。最初のうちは周りも庶民から貴族に突然なってまだ慣れていないのだと、目をつぶっていたが、彼女はいつまでたっても覚えようと努力しようとすることはなかった。
見兼ねた周りの人々は親切にも注意やアドバイスをしたのだが、彼女は話をまともに聞かずに無視し、反抗的な態度までとってきた。
さらにはこの出来事を自分は元庶民だからいじめられている。だから助けてほしいと言って男性に媚びるのだ。それが婚約者のいる男性ばかりを狙うからたちが悪い。
そして彼女は顔のつくりだけはかなり上位に入る。顔に騙されて彼女の味方をする殿方も少数ではあるが、いるのだ。その男性の婚約者からしたらたまったものではない。
オリビア・テイラーは今回クライブ殿下を狙ったようで、クライブ殿下は調査のためにこの機会を利用しているらしい。
もし仮に、ありえないけれどクライブ殿下がオリビア・テイラーを好きだとしたら私はクライブ殿下の趣味を疑う。
こういう理由でステラの考え方は見当違いであることは間違いないのだが、ステラの興奮度合いを見るに本気でそうだと信じているようだ。
それにステラは自分では気づいていないが、きっとステラはクライブ殿下のことが好きだ。
あの本の虫で有名なステラが、クライブ殿下がステラのところに来ると本が読みかけでもその本を閉じて嬉しそうにクライブ殿下と話すのだ。
クライブ殿下以外の殿方がステラと仲良くなりたくて近づいてきても本から目を離すことがないあのステラが、だ。
私はステラの作戦に協力することにした。ステラが自分の気持ちを自覚するきっかけになるだろうし、クライブ殿下が焦る未来が見える。
クライブ殿下にこの作戦を伝えるというのを一瞬考えたが、すぐに伝えないことを決めた。
私の大好きなステラと将来の結婚が約束されているのだ。少しくらい意地悪したっていいわよね。
クライブ殿下、自分の力でしっかりステラを捕まえなさい。
ステラには自分が悪役令嬢としてオリビア・テイラーをいじめるからそのフォローをしてほしいと頼まれた。
悪役令嬢としていじめるのと同時に彼女を立派な淑女に育てたいらしい。今更そんなことをしたところで地の底まで下がった彼女の評判がどうにかなるわけはないと思うが、ステラが楽しそうに言うので協力することにした。
「ありがとう。マリア!」
ステラが私に抱きつく。
「はあ。殿下がかわいそう。まあ、いい機会よね。」
思わずつぶやいてしまったが、ステラには全然とどいていないようだった。
その日からステラのいじめもどきが始まった。
いじめというより、熱心に指導しているように見える。あいかわらずオリビア・テイラーは全然話を聞かず、この出来事をいじめられたといってクライブ殿下に報告していたようだった。
毎日クライブ殿下からステラ自慢を聞かされていたが、日が経つにつれ、そこにオリビア・テイラーの愚痴が入ってくるようになった。どうやらステラのことをオリビア・テイラーは相当悪く言っているらしく、かなり怒り心頭な様子だった。
「殿下、私はいつでも婚約破棄OKですからね。」
ステラがクライブ殿下に笑顔でこう言われたクライブ殿下の様子といったら、それはもう傑作だった。
去り際にクライブ殿下の肩にやさしい笑顔でそっと手を置いたが、体は石化しているのに口がひくついていた。これは面白がっているのがばれたな。やさしい笑顔を作っていたはずなのに。
私の婚約者のアルト殿下とは毎日昼に二人だけでお茶をする。
その時にステラがあの作戦を実行に移し、クライブ殿下をいい感じに振り回していると話すと、大爆笑していた。
「さすが、ステラ嬢。最近クライブの元気がないと思っていたら、そんなことが行われていたのか。そりゃあ、クライブも魂抜けているんじゃないかと思うくらい元気なくすよな。」
「ステラが気持ちを自覚するのにも、二人の関係が進展するのにもいい機会だと思いまして。」
「楽しそうだなあ。マリア。」
「楽しいですよ。」
正直に答えると、アルト殿下はいつのまにか持っていたはずのティーカップを置いていて、私の手を握っていた。
「でも嫉妬しちゃうなあ。マリアが俺に関係ないところで楽しんでいるなんて。もっと俺だけに夢中になればいいのに。」
そう言うとアルト殿下は私の手を自分の口元に持っていき、やさしく私の手の甲にキスを落とした。
反射的にアルト殿下の腹にこぶしで一発お見舞いしてしまった。
「ぐへえ」
「な、なにするのですか!こんな人がいっぱいいるような場所で。」
「ふーん。じゃあ、二人だけの時ならいいんだね?」
アルト殿下はにやにやして私の顔をのぞいていた。
クライブ殿下やステラをからかうのは好きだが、婚約者であるアルト殿下には敵わない。
アルト殿下はよく私をからかう。恥ずかしくて正直になれないが、私はアルト殿下のことが昔から大好きだ。からかわれても嬉しいと思ってしまう自分がさらに恥ずかしい。
「かわいいなあ。」
アルト殿下がそう呟いていたのは、パニックになっている私の耳には届いていなかった。
そんなこんなでダンスパーティーの日になった。
結局オリビア・テイラーが改心することはなかったし、クライブ殿下がオリビア・テイラーに恋をした様子もない。むしろ嫌悪感を抱くまで来ている。
話を聞くと、今日は証人が多くいる状態でテイラー男爵を断罪するとクライブ殿下から聞いた。ステラは今日婚約破棄されると信じて疑っていないようだが。
私はアルト殿下にエスコートされてステラより早く会場に入った。
「今日は一段ときれいだ。この会場でマリアが一番輝いているよ。」
アルト殿下に手を引かれて会場に入ったとき、アルト殿下がいつも通り恥ずかしい言葉を言ってきたが今日はパーティーだからかするりと正直な気持ちが言えた。
「アルト殿下もとてもかっこいいです。」
アルト殿下の足が止まる。どうしたのかとアルト殿下の顔を見るが、私と手をつないでいないほうの手で隠すようにして顔を覆っていたので、どんな表情をしていたのかわからなかった。
「不意打ちはずるいよ。」
意味が分からないことを言っていたが、そのあとアルト殿下がいつもよりご機嫌な様子だったから、よかったと思う。
しばらくしてステラが会場に入ってくると、テイラー男爵の断罪が行われた。
ステラは最初自信満々な様子だったのに思っていた方向とは全然違う方向に話が進んでいくことで混乱し、最終的には放心状態になっていた。
ステラの作戦は失敗した。わかっていたことだが。
「改めてここで発表する。私クライブ・アスターは婚約者のステラ・ミラー嬢と結婚し、一生添い遂げることを誓おう。騒がせてしまってすまない。引き続きパーティーを楽しんでくれ。」
クライブ殿下はこう言い放ち、会場を盛り上げると、放心するステラを連れテラスに出て行った。きっとステラはクライブ殿下に重すぎる愛をぶつけられるのだろう。
さすがにステラも自覚すると思う。あのクライブ殿下に大好きなステラをとられるのは癪だが、明日会ったときに恥ずかしそうだけれど嬉しそうに笑うステラを想像して明日話を聞くのがすごく楽しみになった。
騒がしくなった会場のせいですぐには気づけなかったが、アルト殿下が私の隣に来ていた。
「いやあ、俺の弟もなかなかやるね。」
「そうですね。まあでも大好きなステラをクライブ殿下にとられるのは悔しいですわ。でもステラが幸せになるのなら嬉しいです。」
「そんなにマリアに大切に思われるステラ嬢が羨ましいよ。嫉妬しちゃうなあ。まあ、わかっているんだけどね。ステラ嬢のことがマリアにとって本当に大切な親友だってことは。」
アルト殿下が複雑そうな顔をして、はあっとため息をつく。
「ステラのことはもちろん大切ですけど…。アルト殿下のことはもっと大切です。」
今日はおかしい。いつもなら口にしないようなことがすっと言葉にできてしまう。これはきっとパーティー効果だ。いつもと違う環境だから。
「本当に、君には敵わない。」
アルト殿下の顔が急に私の顔に近づいたかと思うと、柔らかい何かが私の頬に触れた。
状況を理解するのに時間はかからなかった。
アルト殿下が私の頬にキスをしたのだ。
「で、殿下!」
どんどん顔が熱くなるのが自分でもわかった。
「愛しているよ。俺はマリアのことを一生幸せにする。これからもっと、マリアが俺のことしか考えられないようにしてあげるからね。」
大好きなアルト殿下が今までで1番幸せそうな顔で私のことをみつめるから、私は何も言い返すことができなかった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。マリアにフォーカスした話のリクエストがあったので書かせていただきました。私が好きな世界を全力で書かせていただきました。
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