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第7話 マリアンネ・ゼーニック ー①ー

 やあやあ、はじめまして。

 僕の名前はマリアンネ・ゼーニック。

 ゼーニック一門の宗主ガラルド・ゼーニックの次女だ。

 次女とはいっても父は正室だけでなく側室もいるので、父の子は全員で8男5女もいるんだ。

 とても子沢山だよね!

 

 さてこの13人のうち、正室の子、つまり有力な後継ぎと目されているのは3人。

 即ち長男のミハイルに4男のケリー、そして次女の僕だ。

 ただしあくまで有力候補というわけで、必ずしも正室から後継が選ばれるというわけじゃないんだ。


 ここでユニークなのは、ゼーニック一門の宗主はゼーニック流の総師範も兼ねるって事。

 偉大なる初代様は冒険者として武名を馳せ、終には300年以上続く流派まで立ち上げたんだ。

 だからこそゼーニックは武を尊び、ゼーニックの象徴であり信仰の対象ともいえる流派の総師範となる者が一門を束ねるんだ。

 武の一門らしい変わった掟だよね。

 

 ここで問題となるのが、総師範の決め方。

 流派の代表たる者、己が強さだけではなく弟子の育成も巧みでならなければならない。

 開催時期はいつかわからないけど決闘の儀にて、自分と弟子と助っ人を含めた5名での勝ち抜き戦を制したものこそが次代の総師範に選ばれるんだ。

 先程正室の子供が有利っていったのは、助っ人を1名決闘の儀に参加させられるからなんだ。

 しかも助っ人は、他流派でも魔法使いでもなんでもありという優遇具合!

 名目上は側室の子でも総師範の可能性はあるんだけど、やっぱり正室の誰かから時代の長は選ばれてほしいという事なのだろうね。


 僕としたら宗主の方は全く興味がないけど、ゼーニック流を嗜む者として、いや、武を志す一個の戦士として総師範の座と勇名は、正直欲しい。欲しくてたまらないんだ。

 それが幼き頃より唯只管に修行に励んできた自分への最高の栄誉となる。

 そう僕は信じているのさ!

 だからこそ冒険者として塔に挑み実力をつけると共に、日夜弟子の発掘と育成に励んでいるんだ!!




 今日も日課の朝稽古を終えると、有望な弟子の発見を目指し道場に赴いたんだ。

 そこで・・・慶一けいいちと出会った。


 正直に言おう。

 最初の印象は良くなかった。

 いや、はっきりいうと最悪、歯牙にも掛けない、掛けれないというのが初見での評価だった。

 考えてもみてごらんよ?

 自分よりも遥かに年上。

 そのくせ剣術の経験がなく、全身に醜いぜい肉をこれでもかとまとっていたんだから!

 これは外れを引いたな、っと僕でなくても思ったんじゃないかな。


 だけど、その予想は直ぐに改めさせられた。

 彼ほどの天才に出会った事がなかったからだ。

 僕はこれでも名高きゼーニック流に連なる者だ。

 多くの才ある者達が門戸を叩き、修行に励む様を毎日目にしてきた。

 その中には、今では自分のがギルドを立ち上げ、最上位トップクラスの冒険者として活躍する者だっている。

 その中には、他国の騎士や将軍にまで登りつめた者さえもいるんだ。

 そして何より、父をはじめとしたゼーニックの一族の研鑽を、僕は童女の頃から自分の血肉にするために目を皿にして見続けてきたんだ。

 だからこそ断言できる。

 武に生き、武を見続けてきた僕だからこそ違いがわかる!

 

 彼こそが真の天才だと!!


 彼は覚えが早すぎた。

 最初に冒険者カードを見せてもらったから間違いないはずなんだけど、初めて習うはずなのに、まるで知っていた、あるいは思い出したと思えるほど短時間で、見せた技を次々に身につけてしまったんだ。


 習熟の度合いも異常なほどで、成長が目に見えてわかるといえば、彼の才の一端でも理解してもらえるんじゃないかな。

 僕が手本を見せると、一振り二振りと木刀を振る度に鋭さを増していき、ちょっとすれば一端の戦士の様で、しばらくすれば僕の動きと瓜二つになっていたんだ。

 そう、あれは僕の剣だ!

 武術だけではなく多くの事は先ず師から習う事から始める、つまり先達の技の模倣からはいるのだけど、あそこまで完璧に真似られたのは本当に初めてだった。


 そして、何といっても極めつけは一を聞いて十を知るではないけど、技を見せればその応用や発展系を教えずとも、()()は自分で考え導きだしてきたんだ!

 あの時受けた衝撃と胸に去来した思いを、僕は生涯忘ることはないだろう。

 それほどまでに彼の才は突出していたんだ。


 興奮冷めやらぬ僕は、けいを昼食に誘った。

 今思い返せば僕から弟子を誘うなんて初めてだったけど、当時はそんな事すら頭によぎらなかった。

 ただ彼の事をもっと良く知りたい!

 その思いに突き動かされ、彼と言葉を交わし続けたんだ。

 そこから判った事は、けいはとても温和で知性的であり、彼からしたらかなり年下、それも偶に率直過ぎて失礼な物言いになる者、つまりは僕なんだけど、そんな生意気な若輩に対してすら態度を変えなかったんだ!!

 だから僕は、彼は穏やか過ぎるんじゃないかと逆に心配になってしまった。

 世の中には才はあっても戦いに向かない、いやできない者もいる。

 戦いを好まない性格や心が弱い者は、実戦では思うように力を発揮できない。

 もしかしたら彼もそうなんじゃないかと、その可能性に思い至り不安になったんだ。

 だから僕は確かめる事にした。





 午後から実戦稽古をやったんだ。

 僕は見取稽古と実践稽古の二つを修行の柱としている。

 あまり口で言わず、技を見させるだけに留めているのは、弟子がものになるかの振るいに掛ける意味もあるんだけど、それ以上に試行錯誤の末自分で身に着けた技はその後の伸び具合が違うんだ。

 ただ言われた通りに覚えた技と、何度も繰り返し己が血肉とした技は、見た目は同じでも中身は別物なのは当たり前の事だよね。

 

 それと実戦稽古だけど、僕は現実志向なんだ。

 本当の戦いには動きがあり、痛みがあり、疲れがあり、そして心の動きもある、命の取り合いの中でのみ起き得る事が複雑に絡み合っているんだ。

 いくら稽古で身に着けたといっても、戦いの場では上手く使えなければ意味がない。

 だから本番さながらの実戦稽古を行うんだ。


 正直僕の教え方は厳しいだろう。

 僕の弟子に留まる者は多くない。

 だけどっ! だからこそ、残ってくれた者には生き延びて欲しいし、大成して欲しい。

 酷く辛い稽古だけれど、そうする事で現実を知り無謀な挑戦を無くし、僕なりに冒険者として一人前になる道を示しているつもりなんだ。

 


 ごほんっ!!

 話しが逸れたね。

 それで彼との実戦稽古だけど、わざわざオーラによる身体強化を行わずとも、彼とのLV差によるステータスの開きは大人と赤ん坊以上にあった。

 だから彼より本のちょっと上ぐらいの動きを心掛け、僕は容赦なく彼を痛め続けた。

 木刀で全身を打ち、時には地面に叩き付けたんだ。


 そうする事によって彼の本性が見られると思ったんだ。

 彼がもし戦いに向かない性格なら、残念だけど失礼を詫び、軽い訓練に切り替えようと考えてすらいた。

 だけどそんな僕の考えは、まだ彼の事を見余っていたと思い知らされたんだ!


 どんなに僕が痛みつけようと、彼の笑みはなくならなかった。

 あざができ、血を流し呼吸が荒くなろうとも、彼は何度でも立ち上がり僕に向かってきた。

 それ所か、むしろ段々僕が追い詰められていたんだ。

 いいかい、この僕がだよっ!

 200階層も間近の上級アッパークラスの冒険者であり、自分の剣技を弟子に教える立場にあるこの僕がだ!!

 何故僕が押されていったかというと、彼にはほぼ同じ技は通用しなかったんだ。

 二度、あるいは運良く三度通じたとしても、それ以上は何度やっても無理だった。

 だから新たな技や連携をする必要があったんだ。

 受けから弾き、逸らしたり押し返したり、歩法で回り込んだり、下がったと見せて逆に攻勢にでる、あるいは攻めると見せかけて下がる。

 ゼーニック流の人の法、純粋な剣術の技と動きだけで、これほどの戦いさながらの稽古をやったのは、一体いつ以来の事だろう。

 そう思えるほどに、時を追う毎に彼の技は冴え渡り、僕は苦しくなっていった。

 

 最初は笑って囃し立てていた弟子達も、終盤は口を噤み固唾を飲んで見守っていたほどだ。

 それほどまでに驚異的な成長を、彼は見せてくれたんだ。

 そして彼の心。

 戦いを忌避する所か、好んで戦う激しい気性。

 終いには笑うというより、あれは嗤っていた……、んじゃないかな?

 そう、あの目は! 顔は! 戦いそのものが楽しくて仕方ないって叫んでいた!!

 そして僕を師としてではなく、只の踏み台、いいや、獲物としてしか見ていなかった。

 

 天は二物も三物も、凡人では持て余すであろう大いなる才を彼に与えるだけでなく、その天凛を生かせる心さえも持たせていたんだ。 

 彼は間違いなく大成するだろう。

 その確信と僅かに抱いた恐怖が僕の動きを鈍らせた刹那、僕は捉えられた。

 けいが気絶する寸前、彼の刃は確かに僕に届いたんだ。


 完敗と悔しさがない交ぜになった変な気持ちだった。

 気持ち良さそうに失神している彼を運び癒すように指示すると、僕は決心した。

 必ず彼を弟子にすると!

 それと、彼の師として恥ずかしくないように、これまで以上に励もうと!!

 僕も負けていられないねっ!!








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