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第5話 恋愛の絡まないコミュニケーションは得意

「師範代にお昼をご馳走してもらうなんて、なにか申し訳ないですね」

「僕も冒険者として塔に上っているから、こう見ても結構稼いでいるんだよ。それに、けいは昨日転移してきたばかりでお金がないんだろう? ここは気にせず奢られていたまえ!」

「ありがとうございます」

 

 なんとも男前というか、実に気風がいい。

 少女の見た目に相反したこの性格、さぞ同性にもてるにちがいない。


「それに先行投資の意味もあるかな。冒険の傍ら道場の仮師範代を受け持って半年、ようやく有望な弟子が見つかったよ!」

「光栄です」


 午前中マリアンネに教わった事は、上下左右と斜めと突きを加えた基本的な9つの斬撃と歩法。

 それに加えて各斬撃を状況に合わせてつなげる方法だ。

 なんとも盛沢山の内容で、身体が大分さび付いていたのもあるが、ついていくのが大変だった。

 こういう言い方は増長していると思われるからあまり言いたくないが、敢えて言わせてもらうと、この俺でもマリー師範代についていくのは本当に大変だったのだ。

 メタボアラサーとなったとはいえ、神童や才人と持て囃されてきた俺でこうなのだから、彼女の弟子となった者達はさぞ苦労したに違いない。

 

 彼女は見本こそは見せてくれるが、コツや要点は教えてくれない、ようは見て覚えろのタイプの師範代なのだ。

 もちろん、それが間違いというわけではない。

 日本でも古き時代は、ふるいに掛ける意味でも見て覚えろとしか教えない事もあったくらいだ。

 ただ弟子にとって不幸な事に彼女には才能があった。

 自分を基準としているのか、要求するレベルや教える速度が尋常ではないのだ。

 弟子にとってみればたまったものではない。

 俺としては、錆落としにもなるスパルタはむしろ望む所だし、色んな技が見れたのもありがたかった。

 そして何より、師となる者の実力が高い事が単純にうれしかった。

 

「僕は3歳からゼーニック流を学び、12歳から塔に挑んでるんだ! 今年で18になるけど、今まで出会った人達の中でけいはとびきりの才能だよ!!」

「ありがとうございます。それと、そんな若い頃から塔に登っていたんですね」

「うん、ギルドでは12歳から塔に挑めるように決めてるんだ。何せ1~5階は正直お遊びみたいなもんだからね。武術を学び装備を整えれば、12歳でも5階までは比較的安全に到達できるんだよ」

「なるほど……」


 これは有益な情報だ。

 一応似たことがギルドの図書室の本にも記載されていたが、情報を鵜呑みにするのは危険だし、例えあっていたとしてもどの程度まで正確なのか気になっていたのだ。

 こうして実際に確かめた人の話が聞けたので、この情報についてはほぼ正しかったと判断してもいいだろう。

 後は情報の正しさを己で確かめていくだけだ。

 しかし5階層までとはいえ、ダンジョンがそんな低年齢でもクリアできるものだとすると……、


「確かモンスターを倒す事でLVが上がるんでしたよね? それと5階層までの収入でも暮らしていけますか?」

「LVが上がるのはモンスターを倒した時だけじゃないよ。正しくは気力や魔力を持った生物や物を殺したり壊した時に、その一部が近くの者に流れ込むんだ。その中でも特にダンジョンにいるモンスターは、死んだ時に存在そのものが気力や魔力に変換されるからLV上げの効率が良いのさ!」

「そうなんですね」


 LV、ねえ……。

 ゲームみたいな設定だし、LVUPをそもそも体験していないから何ともいえないが、手っ取り早く強くなる手段があるのは、誰にとっても魅力的に映るだろう。


「それから、1階層でもモンスターを倒すと魔石に加え、アイテムが偶に手に入るんだけど、必ず手に入る魔石でも2個で銅貨1枚だから、10体も倒せば安宿なら泊まれると思うよ」

「それを聞いて安心しました」

「うん、低階層なら子供やお年寄りでも倒せるからね。それに運が良ければ宝箱から高価な物も手に入る事があるんだ。皆一獲千金を目指して、塔に登るのさ」


 だからこそ性質が悪いともいえる。

 誰でも気を付ければ倒せる、或いは宝箱から高額な品が入手できるなんてのは、誘蛾灯みたいなものだ。

 その誰でも倒せるモンスターを殺せばLVが上がり強くなれる。

 強くなれば上の階のモンスターと戦えるようになり、倒せればより多くの対価を得られるようになる……。

 この仕組みを考えた奴は多くの人々が夢中になり、塔の奥に、ダンジョンの奥に進みたくなるようにしているんだ。

 それによって何が得られるのか……。

 より多くの冒険者達の装備や金、それとも命そのものを巻き上げるつもりなのか?

 あるいは戦闘そのもの、塔の中でモンスターと戦い気力や魔力を使った技を使わせる事自体に意味がある、例えばそれを吸収できるとか?

 はたまた、モンスターと戦わせる事によって人を成長させようにしているとか……。

 

 駄目だ、どこまでいっても推測の域を出ない。

 とりあえずは危険だが効率的にLVUPやお金を稼げる手段があって、それを利用する事ができるのを喜ぶべきだ。

 それに命の危険のある世界のようだし、自分の身を守れるように早急に強くなる必要があるのもまた事実なのだ。

 強くなり、成り上がる!

 しかも誰かに依らず、ただ自分の力だけで、自分の為した事によってできるのだ。

 チップは自分の生命、責任の所在は明らか。

 もう二度と社畜に戻らない!

 例え死すとも前のめりに、の精神だ!!

 決意を新たにした俺を、少女が微笑ましそうに見つめてくる。

 18というもうすぐ大人といって差し支えない年齢にもかかわらず、中学生程度のメリハリと身長しかない彼女がだ。


「……何か不埒な事を考えてるんじゃないだろうね?」

「いっ、いいえ! 滅相もない!!」

 

 あっ、予想以上にするどいみたい。

 自分に向けられた視線に敏感というのも、ある意味優れた剣士の条件かもしれないなって、のんきに考えている場合じゃないな。


「ふーん、君が師匠に対する敬意が足りないようだね」

「もっ、申し訳ありません」

「……はあっ、まっ、許してしんぜよう! おほん、やる気になってくれたのはいいけど、LVUPだけが強くなる道じゃないからね!」

「そうなんですか?」

「もちろんさ! 僕達ゼーニック流やその他様々な流派の道場が、何故こんなにあるのか不思議に思わないかい?」

「たしかに、言われてみれば……」

「そう、つまりLVは同じでも修行すればステータスを上げられるからさ。更に各流派が技を教える事で新たなスキル、例えば剣なら共通する剣術の心得、それに各流派、ゼーニック流だったらゼーニック流剣術のスキルを得られるのさ!」

「なるほど! いわれてみれば、その通りですね! よっ、さすがは師範代!」

「そうだろ、そうだろっ! もっと僕を褒めたまえ!!」


 話の流れから途中で何となく察しが付いていたが、あえて指摘せず流れに身を任せた。

 わかり易く、のせ易い性格だったは非常に助かる。

 それに、気をよくした得意満面の笑顔が尊い。

 

 

「けい、君はとても運が良い! 200階も到達間近! 特級ハイエスト冒険者の資格となる300階層の攻略も確実視されている、この僕、マリアンネ・ゼーニックがこの後も付きっきりでこの後も指導してあげよう!」

「おおっ、素晴らしい! マリー師範代、ありがとうございます!」

「光栄に思いたまえ。僕がこんな事するのも君が初めてなんだからね!」

「もちろんですとも! いや~、午後の修行が楽しみで仕方ないですね」

「その心意気や良し! それじゃあ、さっさと食事を済ませて道場に戻ろうか!」

「かしこまりました」


 やる気満々気合十分の師範代に急かされ、昼食を楽しむ間もなく道場に逆戻りするのだった。

  

 

   



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