第3話 能力測定
ポーチよりも明らかにサイズが大きいのだが、あれがゲームや小説でお馴染みのマジックポーチというやつか。
言われるままに球に手を置くと、澄んだ真っ白な輝きが放たれた!
「おおっ!?」
「きれいな光にゃ。しかも白! うらやましいにゃ~」
「白だと何か良いのですか?」
「漂流人の方には現地人である私達より多くみられるのですが、この白い光は全属性適性ありという事を示しています。修練次第ですが、慶一さんはどんな魔法も使える可能性があります」
「なるほど、それなら納得です」
全属性適性。
実に幸先が良い。
忘れて久しい厨二心にクリティカルヒットだ。
「次にこれで指を傷つけ、このカードに1滴で構いませんので、慶一さんの血をかけてください。これで登録完了となります」
「わかりました」
セレナさんの出した剣山?のようなもので指先を傷つけ、提示された裏面と思しき濃紺のカードに血を垂らすと、一体どういった仕組みなのか理解できないが血が吸い込まれ発光した後、また物の色に戻った。
「どうぞ、御自身で自分のステータスを確認してください」
「ちなみに、大人の人のステータスはだいたいどれも20前後にゃ」
カードをひっくり返すとステータスが現れる。
御村 慶一 (みむら けいいち)
職業 漂流人
LV 1
生命力 400
魔法力 60
気力 80
力 35
器用度 40
体力 20
敏捷性 25
魔力 15
運 20
スキル なし
称号 神童、才人、真の天才、魔法使い(笑)、メタボ、抑圧された心と体
まるでゲームだな。
初期ステータスは平均からすると高い方だろうか。
それに、使ってもいないのに魔力があるのはラッキーだ。
もしかしたらすぐに魔法が使えるかもしれない。
ただ称号というのが気になる所だが……。
「このスキルや称号についてですが、今の所スキルはないのですが称号があるのですが・・・・・・」
「すごいにゃ、もう称号を持ってるのかにゃ!?」
「称号とは自分の為した結果や成果から偶然得られるもので、望んで得られる類いのものではありません。称号の中身については、カードに念じればわかりますよ」
「やってみますね」
半信半疑ながらカードに意味を知りたいと念じてみると、不思議な事に頭の中に情報が流れてくる。
神童 …… 非凡な才能を持って生まれた者に送られる
早熟補正大、成長補正大、スキル習得補正大
才人 …… 文武に優れた者に送られる
全武器適性、全武術適性、スキル習熟補正大
真の天才 …… 成人した後も類い稀なる才能と能力を有する者に送られる
全魔法適性、全スキル適性、全能力成長補正特大
魔法使い(笑) …… 三十路を過ぎても異性との体験が無い者に送られる(笑)
異性免疫力低下、
メタボ …… 運動せずに暴飲暴食を繰り返した肥満の者に送られる
運動能力低下、病気耐性低下
抑圧された心と体 …… 不満があっても安寧のために飼い慣らされた者に送られる
ストレス増大、我慢耐性激減、厨二病再発率UP
……何とも突っ込み所満載の称号目白押しだ。
神童、才人、真の天才は実に素晴らしい。特に真の天才が良い。
神童の成長補正はステータスのUPにのみだが、真の天才の全能力成長補正特大はステータスとスキルの両方の成長に補正がかかるようだ。しかも特大でだ。
それに加えて、この3つの称号によってどんな武器でも使いこなし、全ての魔法を行使できる万能の魔法戦士になれる可能性が出てた、と考えていいだろう。
何となく少年の頃にあった全能感。
あの何者にもなれる、何でもできるという感覚が甦ってきたかのようだ。
正直興奮が止まらない!
ただし、後半の称号はいただけない。
自分の選択や行動の結果だから弁解の余地はないのだが、恥ずかしくも情けない称号満載だ。
魔法使い(笑)なのは博士まで出て勉学に打ち込み、競争社会での勝ち組を目指した結果、その他の事、特に女性との付き合いを疎かになってしまった。ただそれだけだ。
仕事上での話や世間話なら問題ないのだが、情けない事に恋愛の話になるとつい及び腰になってしまう。
メタボはこれから冒険者として活動していけば自然と解消できるだろうが、先程生産職への拒否感、何らかの組織の歯車になるのに拒絶感が強かったのは、抑圧された心と体という称号の影響を受けていたからだろう。
現状解決策は思い浮かばないが、そのうち何とかするしかないな。
兎にも角にも現状を生き抜く、冒険者として生活できるようになるのが当面の目標だ。
納得した様子の俺に、セレナさんが見計らった様に声を掛けてくれる。
「その様子なら理解できたようですね」
「ええ、冒険者家業にも希望がもてましたし、やる気も出てきました! ただ、情報が全く足りていないのと、武器の扱い方や魔法の使い方について完全な素人だというのが難点ですね」
「10階層までの地図はギルドで無料で取得できます。神至の塔の階層毎の植生や出現する動物、モンスター等についてはギルドの2階に図書室があります。冒険者カードを提示すれば自由に入室できますよ」
「さっきもセレナが言ったけど武術や魔法は漂流人のケイにゃら、冒険者ギルドの紹介する所で1ヶ月間ただで習えるにゃ!」
「ああすいません、そうでしたね。セレナさん、お奨めの所はありますか?」
「ゼーニック流剣術を推奨します。剣は初めての方でも扱い易い武器でもありますし、多くの冒険者が好んで使う武器でもあります」
「それにゼーニックはこの大陸最大の流派にゃ。このアルバインだけでも3つも道場があるのにゃ!」
「慶一さんには幸運のかぎしっぽ亭という宿に泊まってもらう予定ですが、問題なければその近くのゼーニック流の道場を紹介したいと思いますが、いかがでしょうか?」
「ぜひよろしくお願いします」
セレナさんの提案は有り難い事に至れり尽くせりというやつだ。
これを拒否するなんてとんでもない。
後は魔法に関してだが……
「魔法に関しては慶一さんの適性が広すぎるので、魔法ギルドと教会に紹介状を書きますので、実際に行って話を聞いてみて何を覚えるのか決めてもらった方がよいでしょう」
「うらやましい問題だにゃ~」
「すいません。ではセレナさん、そのようにお願いします」
「かしこまりました。紹介状を準備しておきますので、後程1階のカウンターまでお越しください」
「重ね重ねありがとうございます。それまでは……、図書室で情報集めをしておきますね」
「にゃ、それなら案内するにゃ! さあ、付いて来るのにゃ!!」
「おっと!? そっ、それではセレナさん、また後ほど」
「ええ、お待ちしていますね」
イーニャに手を引っ張られつつ、セレナに別れを告げた。