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第35話 ある冒険者達の末路

「へっへっへ、もう逃げられねーぜ!」

「さあ、楽しい時間の始まりですよ!」


 暴風で俺達を吹き飛ばし、まんまと同じタイミングで守護者の間に入る事に侵入したならず者達。

 初めの友好的な態度はどこえやら、もはや内に秘めた獣性を隠そうともしない。

 もっともこうなることはわかっていたし、敢えて奴等のやりたいようにさせてやっただけなんだがな。

 まあ、もうちょっと夢をみさせておいてやるか。


「……何故こんなことを?」

「ほぅ、騙された割には大分冷静ですね。まっ、これからその取り澄ました顔を醜く歪ませて上げますよ! ザベック!」

「任せとけ! 睡眠斬ヒュプノブレード!!」

 

 全身薄汚れた野人の様な男ザベックの凶刃は、俺達ではなく出現したボス、炎の鬣を有する巨大な獅子バグナードに放たれた!

 しかも一撃で、容易くボスを眠りにつかせてしまった!

 予想はしていたが、この階層に似付かわしくない程こいつ等は高レベルのようだ。

 その証拠にニヤニヤと下卑た視線を向けてくるが、どの顔も自分達が負ける事など微塵も思っていない。


「さあ、これでもう逃げられませんよ! あなた達は袋のネズミというやつです」

「げはははつ! 宴の始まりだ!」

「見てろ! 今からお前の前で女を犯しつくしてやるからな!!」

「女の悲鳴と男の絶望の声! あ“あ”たまらない! 早く聞かせろよ!!」


 ……はあっ、クズだな。

 それも稀にみる最低野郎共だ。

 つくづく日本が平和な世界だったと実感させてもらったよ。

 まっ、それは置いておくとして、俺のリオナを犯すだと?

 今までLV差で蹂躙して、善良な冒険者達を食い物にしてきたんだろうが、そうは問屋が卸さない。

 今日はお前達が獲物に代わる番なんだ。


 なあ、リオナ?


 俺の思いを受け取ったリオナが、静かな怒りと侮蔑を込めた瞳でカイン達を睥睨した。


「そうやってあなた達は、一体何人の冒険者達の未来を潰してきたのですか?」

「はあ? そんなの知るわけねえだろ! お前は俺の下で股でも開いていればいいんだよ!!」

「さて、あなたは今まで食べたデザートを全て覚えていますか? そういうことですよ」

「……158人」

「はあっ!?」

「158人といったのです。あなた達が3年前からギルドの目を掻い潜って、若い命を弄んできた人数です。上手く期間をあけて死者が偏らないようにしてきたようですが、私達に出会ったのが不運でしたね」

「「「!?」」」

「あなた達、まさかっ!?」


 はいはい勘違い、勘違い。

 俺達をギルドの暗部、犯罪者の粛清人であるギルドナイトと勘ぐって動揺してやがる。


「俺達はギルドとは何の関係もないただの冒険者さ」

「嘘付け、詳しすぎるだろうが! じゃあ、どうやって俺達さえ忘れた、殺した冒険者の数を知っている!!」

「何も不思議な事はない。世の中には特別な者はいるってだけさ。なあ、リオナ?」

「死者は生き返らないし、何も残さない。それがこの世の摂理ですが、しかし逆に生前の意思や思いといったものは残るのです。それが特に強い思いだったなら、何年経とうとも色褪せず、残り続けることもあるのですよ?」

「まさかっ!?」

「あなた達に見せてあげましょう。彼等の無念の思いを!」


 リオナの宣言と同時にカイン達の周りに無数の亡霊と思しき者達が現れる!

 どの顔も苦痛に顔を歪め、クズ共に怨嗟の声を吐きかけている。

 心象具現化リアルアバターの一種なんだろうが、リオナは自分の心の中だけではなく、他者の思いさえも具現化できるというのだろうか?

 それとも、単純に自分の心を投影しただけなのだろうか?

 まあ、答えは後で聞くとして、無数の亡者達の具現化はカイン達には効果的だった。


「ひいぃっ!?」

「てっ、手前! 死霊術師ネクロマンサーかよ!!」

「落ち着きなさい! 死霊など焼き尽くすんです!」

「まっ、させないがな」

「「「!?」」」


 一瞬。

 本の一瞬、不意に掛けた声で動揺した瞬間に、俺は神氣を纏い奴等の間を駆け抜けた!


「があああっっ!?」

「痛てえっ! 痛てえよっ!!」

「ぐはっ!?」


 俺が疾駆しリオナの元に戻った後は、阿鼻叫喚の嵐だ。

 奴等の傍を通り抜けた時にやった事は単純。

 殺さないように鞘にしまったままの剣を、クズ共の四肢に叩き付けてやっただけだ。

 それだけなんだが、どうやら何箇所か折れてしまったようで、皆蹲り呻いている。

 俺達より高LVのはずなんだが、弱過ぎやしないか。


「リオナ、こいつ等弱過ぎないか? それと、この死者の群れは何だい?」

「この者達のLVは120程度ですが、LV100の旦那様の方が既にステータスは上です。それを神氣ゴッドアーツによって強化したのですから、彼等が反応できなくても仕方ないのではないしょうか。それと、この死者達は彼等にくっついていた思いを具現化したものです。余程恨みも深かったのでしょうね……」


 カイン達はLV120なのか。

 それなのにLV100の俺にステータスで負けてるって。

 LV20の差は、本来なら覆せない絶望的な差のはずなのにな……。

 これも希少な称号による、複数の成長補正の効果か。

 それと、やっぱりリオナは自分以外の思いでも具現化できるようだ。

 俺が言うのも何だが、チート過ぎる能力だな。


「ぐっ!? あっ、あなた達は、何者です!?」

「何者って言われてもなぁ。さっきも聞かれたけど、ただの冒険者としか言いようがないよな?」

「はい、旦那様のおっしゃる通りです。ただし、希少なスキルや称号持ちで、LV20差程度何ら障害にもならない程の強者、っという補足が必要かもしれませんね」

「そんなっ!?」

「ふっ、ふざけんな!!」

「って言われてもなぁ。こっちとしては事実だとしか言いようがないよな」

「はい。そして、あなた達の終わりでもあります」

「!?」

「「「ひぃぃぃ!?」」」


 クズ共には俺達と悠長に会話している暇なんてあるわけないよな。

 骨折の痛みと相まって動かなくなった所に、死者達が殺到しなのだ。

 見る間に群がり、思い思いに恨みを晴らしていく!


「ぎっ!? やっ、やめろ! やめてくれ~!!」

「あああっ!? 痛い痛い痛い!!」

「たっ、助けてくれ!!」

「何故です?」

「何故って、襲われてるのが見えねえのかよっ! 改心するから、たっ。助けてくれ!!」

「いいえ、あなた達は改心しませんよ。例え改心したとしても因果応報です。自分達のしてきたことの報いを受けなさい」


 クズ共の嘆願を一顧だにしないリオナ。

 極北の絶対零度が吹き荒れている。

 まっ、俺にお願いされても断るがな。

 リオナを俺の眼の前で凌辱すると言った言葉を取り消させはしない。

 お前達はここで消えるんだ!

 過去に犯した過ちに裁かれてなっ!!


「どっ、どうか、助けてください! 助けてくれたら、私達の隠し財産の場所を教えますよ!」

「必要ありません。もうわかっています」

「っ!? なっ、ならば、あなた達の奴隷になります! これでも私達は上級ハイクラスの冒険者です。あなた様のお役に立ちますよ!!」

「いりません」

「「「!?」」」


 カインの必死の命乞いも、リオナは一刀の元に切り捨ててしまう。

 心も過去さえも見えてしまう彼女にとって、この害獣達の悪行はどうしても容認できないんだろう。

 少ない言葉を交わした程度の俺ですら許せないんだから!

 それでもカインは必死に足搔いている。

 ここでリオナに見放されたら終わりだと理解しているが故、端正な顔を歪めつつも何度も哀願を繰り返す。


「なっ、何でもします! 何でもあなた達の言う通りにします! だから! どうか! どうか、助けてください!」

「……ちょうど2カ月前ですね」

「なっ、何のことです? そんなことはいいですから、助けてください!」

「わかりませんか? 水竜の月のことです。今のあなたと同じことを言った冒険者がいましたね?」

「「「!?」」」


 亡者達に襲われつつも必死に抗っていたカイン達の動きが一瞬止まった。

 リオナが言及した冒険者に思い当たったからだ。

 台詞セリフから言って、こいつ等が襲った冒険者達。

 それも、おそらくは最後の命乞いの際の言葉に違いない。


「どうしました? その時、あなたは何と答えたのです?」

「そっ、それは……」


 二の句が継げない。

 質問の答えを発したなら殺される。

 カインの青い顔からそうはっきりと読み取れる。

 それでも優男は必死に取り繕って、言い訳を述べ続ける。


「あっ、あの時の私はどうかしていたのです! 後悔しています! 今ならどれほど自分が愚かだったかよくわかります。私は欲望という名の悪魔に支配されていたのです! ですが、今なら反省し改心できます! 改心したら必ず自分の罪に向き直り、贖罪を行います! ですから、どうか哀れな私達に罪を償う機会をお与えください!!」

「嘘ですね」

「嘘ではありません! やっと私達の愚かさに気付いたのです! もっと早くに足を洗うべきでした! 本当に愚かでした。心底反省しています!!」

「……本当に?」

「もちろんです!! ねえ皆さん?」

「ああ、もちろんだぜ! 俺が、いや、俺達が悪かった!!」

「俺達が悪かった! 許してくれ!!」


 死者達に取りつかれながれ必死に弁明してくるが……、しかし愚かだな。

 それしかもう助かる道がないとわかっているんだろうが、奴等の言葉は何も響かない。

 あの屑共はこんな状況に陥りながらも、何も反省しちゃいない。

 自分達が間違ってるとは欠片も思ってもいないんだ!


 ……はあ、ほんと救えないな。

 俺でもわかるくらいなんだから、リオナに見抜けないはずがない。

 今こいつ等は、死刑執行書に自分からサインしたようなもんだ。


「今の言葉に偽りはありませんか?」

「ありません! あるわけがないですよ! 私達は心底悔いているのです!!」

「もちろんだぜ!」

「ああ、俺達が悪かった!」

「だから、早く助けてくれ!!」

「ザベックさん、あなたは助かったら隙を付いて私を捕らえて人質にするつもりですね。ディックさんは、反省するわけないだろう、ですか。とても分かり易いですね。バースさんは、今に見てろよ、ひいひい言わせてやる、ですか。救いようがないですね」

「「「!?」」」

「なっ、なっ、なっ!?」

「そして、カインさん。あなたは窮地を脱したら、私達で2カ月前にした事の再現をするつもりですね。私達を引き裂き地獄を見せてやる、ですか? これのどこが反省しているのですか?」

「あっ、あなたは!?」

「残念でしたね。私はあなた達の心も、過去さえも読めるのです」

「「「!?」」」

 

 告げられた事実に唖然とする一同。

 そりゃそうだ。

 人の心を読めるなんて、希少能力者に出会うことなんてまず有り得ない。

 しかもそのせいで自分達の悪事も、反省も改心もしていない事が暴かれたんだから。

 まっ、傍で見ている側からしたら、痛快そのものだがな。


「あっ、あなたは死霊術死ネクロマンサーではなかったのですか!? 私達を騙したのですか!!」

「あなた達が勝手に誤解しただけです。言ったでしょう? 希少なスキルや称号持ちだと」

「そんなっ!? わかるはずないじゃないですか!!」

「それに、私がどんなスキルを持っていようと、あなた達が嘘を付かなければ、問題なかったはずですよね?」

「ぐっ!? でっ、ですが……」

「あきらめなさい。あなた達は自分の悪事を省みず、今また獲物と定めた私達に暴威を振るい、思う様に玩ぼうとしたのです。もはや救いようがない。あなた達は自分の悪業の報いを受けるのです」

「そっ、そんな!?」

「ひぃぃぃ!?」

「たっ、助けてくれっ!!」

「あ“あ”あ“、痛い痛い!!」


 リオナの断罪の言葉に端を発し、拘束していただけの亡者達が一斉に襲い掛かった。

 自分達の恨みを晴らすように、手加減や躊躇などどこにも見られない。

 屑共はあっという間に数多の死者達の中に消え、辺りに絶え間ない悲鳴が木霊した。

 彼等が躯になるのにさしたる時間は掛からなかった。




・・・

・・





「……因果が巡る、か」

「旦那様、後悔されておりますか?」

「いいや。リオナに任せたけど、そうじゃなかったら俺が殺していたよ。それに、こういう言い方は良くないかもしれないが、奴等は殺されて当然のことをしてきたんだ」

「私達を慰み者にして凌辱し尽くした後は、結局後腐れないように殺したでしょうしね。ですが、何か思う所があるのでしょう?」

「ああ反面教師にしないとな、って思ってね。力に溺れ、あいつらの様になるのはごめんだからな」


 自分の欲望に忠実で、悪事を働いても良心の呵責すらない。

 あんなものは、もはや人間ではない。

 ただの獣だ。

 ああはなりたくない。あそこまで堕ちたくない。

 そう思えたことだけは、奴らに感謝すべきかもな。


「出る杭は打たれるじゃないが、俺達の様な急成長する冒険者は、嫉妬や恨みの対象になり易いからな。只でさえ恨まれやすいんだから、できるだけ他人から恨みを買わないように心掛けなくちゃ、と思ってね」

「さすが旦那様、素晴らしいお心掛けです! ですが、他者は旦那様ほど清廉潔白ではありません。目障りだから、気に入らないから。あるいはちょうど目に付いたから、そんなことだけで悪意を振りまいてくる輩もいるのです」

「はあっ、いやんなるな~。今までは何とかなったけど、今後もどうにかなる、なんて言い切れないしな」

「その通りです。今回も、もしカイン達とのレベル差が20ではなく、50や100も離れていたとしら、私達でもどうなったかわかりません」


 LV差100か。

 マリー師範代クラスのパーティが襲ってきたとしたら……、まあ負けただろうな。

 はあっ、世の中ほんと理不尽だ。


「そう考えると、今回は運が良かっただけか」

「私達は上級ハイクラスの冒険者に昇格したばかりで、私達を遥かに凌ぐ冒険者達も大勢います。そんな者達の中にも、当然今回の輩と似たような者達もおります」

「たまらんなぁ~。そうなるとLV上げはもちろんのこと、戦力の拡大、早急にパーティのメンバーを増やす必要があるな」

「最悪の場合も考慮すれば、私達の逃げ場所も確保する必要があるでしょう」

「それはマリー師範代からもらう屋敷以外に? それともこの都市以外にってことかな?」

「できれば、この都市以外に私達だけの安住の地、そこまではいかなくとも秘密の隠れ家が欲しいですね」


 悲観し過ぎだ、とあながち否定できないな。

 もしカイン達が更に強かったなら?

 たったそれだけで、俺達は未来を奪われていたかもしれない。

 人の善意を信じたいけど、こう何度も盗賊擬きの冒険者達に襲われてるんだ。

 自衛手段だけではなく逃避先の準備は、むしろやっておかないとまずいんじゃないか?

 俺達の未来を、他人の身勝手な思いによって左右されないためにも、精一杯対策しておくべきなんだ。


「秘密の隠れ家、か。ありだな。それに男心を擽られるものがあるね」

「ふふふっ、旦那様ならそう言ってくださると思っていました。では、その方針で動いてよろしいですか?」

「ああ、備えあれば患いなしともいうしな。こんな世界だ。いくら準備しても、し過ぎるということもないだろう」

「承知いたしました」


 ひょんなことから俺達の今後の方針が定まった。

 ここは日本とは比べものにならない殺伐とした世界なんだ。

 準備してし過ぎるということもないだろう。

 必要なかったら心配し過ぎたね、って笑い合えばいい。

 逆なら笑う所か、自分の命だけじゃなく大切な人の命まで失うことになるんだ。


 そんな未来が許せるか?

 いいや、許せるわけがない!

 それならば、今できる最善を尽くすべきなんだ!


 俺はリオナと寄り添いながら固く決意した。



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