第34話 金策と経験値稼ぎ
上級冒険者に昇格した夜は、リオナと二人だけでお祝いをして楽しい一時を過ごした。
何時もより豪華なディナーで舌鼓を打った後は、もうわかるだろう?
寝室で熱烈な愛情表現をこれでもかとしてくれるリオナと、めくるめく夜を過ごさせてもらったわけだ。
彼女の思いに応えるように、自分でも思ってもいなかったくらい大胆に、そして激しく強烈に愛を交わし合った。
素面の日本人だったら羞恥で不可能なくらいだったといっておこうか。
正直、俺自身びっくりしてるくらいだ。
おそらくは命のやり取りの後だからこそ、昂り具合も尋常じゃなかったんだろう。
非日常的な事態と命の危機ってのは、本能的に生殖行動を促すっていうしな。
そして何より、リオナという俺を心から愛してくれる美少女の普段は見せない姿、俺だけに見せてくれる年齢に不釣り合いな程の妖艶な姿に、魅せられてしまったせいに違いない。
彼女が誘い、俺が応える。
本来なら異性に対してここまで上手くできるわけがない。
女性に対する免疫が少なく、口下手な部類に入る俺だ。
リオナが俺を立てつつ、そうとはわからないようにリードしてくれるからこそだな。
つくづくできた嫁だ。
彼女に失望されないようにしなくちゃな。
俺の腕を枕にして、気持ち良さそうに寝むる彼女を見ながら独り言ちた。
近年最速、いや、記録史上最速で上級冒険者になった俺達だが、昇格した翌日もダンジョンにこもっていた。
というのもマリー師範代から連絡が来て近日中に屋敷を貰える事になったんだが、その際に雇う使用人が問題になったんだ。
当初はマリー師範代、即ちゼーニック流の紹介で使用人を派遣しようかという話になったんだが、リオナが断ってしまったんだ。
彼女曰く、自分達の安息の場所に可能性だとしても他者の思惑や指示を受けた人間を入れたくない、とのこと。
リオナは、いや覚の一族は隣国から攻め滅ぼされた一端は、隠れ住んでいた場所を密告した裏切り者がいたせいだ。
そのせいか、俺以外の人間に対してどこか距離を置いている様に感じる時がある。
同じ漂流人であり、裏なんて存在しない俺だけにしか素顔を見せない。
それに、家族や仲間を失い望まれない結婚を迫られたのは、まだつい先日のことだ。
彼女の心に残る汚泥を少しでも取り除けたらと、願わずにはいられなかった。
それで話は戻るが、使用人には奴隷が望ましいという事になったんだ。
ファンタジーの定番だが、この世界でも貧困や借金、あるいは犯罪によって身売りや奴隷落ちが起こるそうだ。
奴隷は特殊な契約魔法、隷属魔法によって逆らうことはできない。
つまり絶対に裏切らない、裏切れない人材が手に入るのだ。
リオナにとって、いや身内も縁も所縁もない俺達にとって、屋敷の維持や管理に必要な使用人は奴隷が望ましい事は、火を見るよりも明らかだろう。
それに加えて、俺達のパーティにも新戦力を加える必要があった。
もちろん、戦力としては俺達2人でも今後も十分やっていけるとは思う。
そうは思うが、100階層以降から面倒な仕様が追加されるのだ。
それは、トラップの存在だ。
低階層からもトラップはあったんだが、今後は更に凶悪になり致死性のものや、分断系やワープ系のもの等々、危険なものが目白押しらしい。
そういった罠によって、命を散らした冒険者は枚挙に暇がない。
だからこそ、トラップ解除のスペシャリストが欲しいのだ。
後は、その護衛にもう1人といったところか。
ギルドで必要な冒険者を募るという選択肢もあったが、リオナ的に前述した事情から裏切ったり、途中で離脱される可能性のある人材はアウトだそうだ。
それならば、見込みのある奴隷を購入して育成した方がいい、という結論に行き着いたのだ。
ということで、使用人とパーティの仲間を買うために金が要るわけだ。
それに100階層を突破したとはいえ、未だ俺のLVは80ちょっと。
早急にLVも上げたい。
だから金策とLV上げも兼ねて、割りの良い場所で戦う事となったんだ。
それが100階層。
それもボスの連戦だ。
ダンジョンはレアモンスターという例外を除いて、上の階層に行けば行くほど金も体感的な経験値も多くなる。
中でもこの100階層は、一般冒険者が上級に挑む関門で難易度が高く、しかもここから5体の中からランダムでボスが選ばれるようになる。
最悪な場合、LV120で挑むべきボスさえ出現するのだ。
つまり挑戦するには敷居が高く不人気だが、逆に倒せれば実入りが良いのだ。
既に最悪のボスさえ撃破している俺達にとっては、実に旨味のある狩場という事になるわけだ。
それで肝心の連戦の仕方というか作法だが、実に簡単だ。
ボスを撃破したら上に登る階段に向かうのではなく、入ってきた扉を開けて戻る、それだけだ。
それで、扉の前で冒険者がいたら譲り、後方に並んで順番待ちをするんだ。
中で戦っている時は扉が開かないし、上の階層に向かう扉を開けて部屋を出るか逆に元来た扉を開けて戻る、あるいはボスに負けて死ぬまで扉は開かない仕様だ。
そして中の状況を確かめる術はない。
だから定期的に扉が開くか確かめる必要がある。
といっても、不人気な階層は順番待ちが少ないから楽だ。
それに俺達2人にはもはや脅威を覚えるボスはいない。
昇格直後だし、緊急の目標があるわけでもないしな。
まっ、今日はぼちぼちいこうか。
偶にはそういう日があってもいいだろ。
俺はリオナに声を掛けつつ、まったりモードでボスの連戦を行うのだった……。
・・・
・・
・
それから順番待ちもしながら数十戦とボス戦を繰り返し、体感的にもうすぐ夜といった時間になった頃だった。
“才人”や“真の天才”、“覚者”や“姫巫女”といった希少な称号のおかげで、俺達は他者と比較にならない程成長が早い。
たった一日ボスを倒し続けただけで、20レベルも上がってしまっている。
スキルや技の練度、それに加えて大幅な成長補正から戦闘が極短時間で済む事もあるから、全く一般的な冒険者と比較にはならないが、下手な冒険者は1年間で10レベルしか上がらないと言えば、違いがわかってもらえるだろうか。
それに何より、そろそろリオナにレベルが追いつきそうなのがうれしかった。
今まではリオナに我慢をさせてきたからな。
俺のLVが追いつけば、彼女に気兼ねなく力を振るってもらう機会も増えるだろう。
「リオナ、LVはいくつになった? 俺はちょうど100になった所だよ」
「奇遇ですね。私のLVも100ですよ」
「そうか、ようやく追い付いたか」
「旦那様、おめでとうございます!」
「ありがとう」
俺の笑みに対し、我が事のように喜びを露にするリオナ。
そんな彼女を見て心が温かくなる。
「さすがは旦那様です。出会った直後はLV差が20近くありましたのに、結局7日間で追いつかれてしまいました」
「必死にやってようやく並んだ程度さ。リオナにたくさん我慢をさせてしまったね。これからは気兼ねなく戦ってほしいな」
「ふふふっ、ありがとうございます。やっぱり旦那様は優しいですね。だから……」
「!? どうした?」
黙り込んだリオナの視線の先を見ると、どうやら新たなパーティが到着したようだ。
だが、リオナは厳しい表情を崩そうとしない。
心や過去を読める彼女がだ。
これは、何が起きても対応できるようにしておいた方がいいな。
そう思っていると、向こうから話し掛けてきた。
「こんにちわ。今日はすいているようだね」
「今日は、という事は常連さんかい?」
「ああそうさ。僕達は100階層付近で活動しているパーティ、銀鎖猟犬っていうだ。これでも上級の冒険者なんだけど、まだまだ未熟でね。100階層以降というより、主に95~100階層付近でLV上げしているのさ」
とても友好的に話すのは相手のパーティのリーダーと思しき、金髪で高身長の、やけに顔の整ったイケメンだ。
冒険者というかアイドルの方が似合う容姿だ。
その他の奴等は……、逆に薄汚れた盗賊っていう方がぴったりだな。
リーダー程とはいわないが、せめてもう少し身嗜みには気を使ってほしい。
もっとも、黙したままのリオナの反応から察するに、薄汚い容姿と所業が一致した奴等、っという可能性が高いがな……。
イケメン君が俺からリオナに狙いを変えたようだ。
「美しいお嬢さん、名前を教えて頂けますか? 私の名はカイン。このパーティのリーダーをしています」
「……できれば話し掛けないでもらえますか。私達は初めてのボス戦で気が張っています。他の事は考えたくないのです」
「それはそれは、初めての挑戦ですか! 失礼しました。それならば気が張って当然です。あなたの名前を教えて頂くのは、またの機会にしましょう」
……。
今、嗤ったな。
カイン自体は如才なく振舞っていて尻尾すら出さないが、他の奴等はまだまだ甘い。
隠している積りだろうが、その昏い哂い。
他人を貶めるのを何とも思ってない悪人の顔だ。
こりゃ当たりだな。
さてどうするかだが、リオナを見ると無言のまま眼で訴えてきた。
強い意志の籠った瞳で!
なるほど、こいつ等は余程の屑か。
そして逃がすつもりはないみたいだな。
さっきわざと嘘であいつ等を釣ったりして俺に知らせ、悟った俺にこうまで訴えてくるのだ。
余程思う所があるのだろう。
ここは彼女の思う通りにさせるべきだな。
俺が頷くと、彼女が顔を綻ばせた。
以心伝心
彼女からすれば俺の心の動きなど丸わかりだろうが、彼女からの無言のメッセージを俺が正しく理解した事が余程うれしいようだ。
正直俺もうれしい。
こうして少しずつ彼女と心通わせられるようになった、自分が誇らしい。
っと無言の俺達に向こうは痺れを切らしているようだ。
このまま放って置いても馬脚を露しそうだな。
「何分俺達は初めてでね。緊張しているんだ。なんなら先に行くかい?」
「時間には余裕があるし、気にしないでいいよ。僕達は気にせず、ゆっくり準備してくれて構わないさ」
「すまないね」
「はははっ。大丈夫、待つのには慣れているのさ。ディナーができ上るのを我慢するなんて、日常茶飯事だろう?」
「ちがいないな」
おいおい、我慢強いじゃなかったのかよ。
若干気配が漏れ出してるぞ。
お前の中では、俺達がディナーって言いたいんだろうが!
それと、今の会話ではっきりした事がある。
襲撃場所だ。
奴等はどうしても俺達に先に行かせたいようだ。
つまりボス部屋に行かせたいんだ。
ボス部屋でなら中の状況はわからないし、冒険者が死ぬと時間が経てば迷宮に処理されてしまう。
つまり死体の処理に困らないし、犯罪を犯しても確認する手段が無いのだ。
これほどうってつけの場所はないだろう。
問題はどうやって俺達と一緒にボス部屋に入るかだが……
まだ俺には予想もできないが、何か方法があるんだろう。
「リオナ、いいかい?」
「はい、構いません。既に結末は決まっています。その確定した未来に向かって、歩を進めるだけです」
おおぅ、これは怒っているな。
激怒しているといってもいいくらいだ。
ということは、こいつ等は俺の予想以上の屑ってことか。
何したら、あの温厚なリオナが此処まで怒りを露にするんだよ!
はぁ、俺も覚悟を決めるか。
そこまでの悪党ってことなら、生かしておけば誰かがこいつ等の食い物にされてしまう。
おそらくは善良で弱い者達が!
想像しただけでも気に食わねえ。
それに、俺達もこいつ等にとっては食い物でしかない。
いや、リオナの怒り様からいって単純に奪って殺すだけではないのだろう。
おそらくは、慰み者とするだけでなく玩具として弄ばれる事になるのだ。
俺だけでなくリオナもだ!
そんな事許しておけるか?
許せるはずがない。
……うん、殺そう。
明確な俺の意思でもって!
相手はもはや人間じゃない。
人を己の快楽のために殺す獣だ。
そんな相手なら良心の呵責も起きようはずもない。
ただ虫を潰す様に、害虫を駆除するんだ!
覚悟を決めた俺がリオナに目線で最終確認を行う。
どうやらとっくに意思が定まっていた彼女は、俺の決心を待っていただけだったようだ。
「待たせてごめん。それじゃあ、ボスに挑もうか!」
「はい、ご随意のままに!
俺が扉に手を掛けゆっくりと扉を開いていき、ボスが決定し守護者の間の内部が丸見えになった段階で、奴等は本性を現した!
「ひゃー、もう我慢できねえっ!!」
「一番は俺が貰うぞ!」
「この瞬間が一番堪らないですねえ! 暴風撃!!」
いつの間にか詠唱していたのか、カインが扉を開けきった俺達目掛けて魔法を解き放った!
それはただの風の魔法。
相手を吹き飛ばす程度の力しかない。
だが、今の場合にとっては、非常に有用だ。
扉を閉める間もなく俺達は部屋の中に吹き飛ばされた後、カイン達は悠々と歩いてボス部屋に入ってきたのだった!




