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第33話 灼熱の激闘

 さて、超強化ボスと戦うといったが、ボスを選ぶ方法があると思うかい?

 実はあるんだなこれが。

 といっても俺の手柄ではない。

 全てリオナの、彼女の能力のおかげだ。


 というのも、彼女は心を読むだけでなく、他者の記憶も読める稀有な能力者だ。

 しかも彼女の力は非常に強力で、例え閉心という心を閉ざし読めなくする技術をもってしても通用しない。

 そんな彼女がギルドの酒場に行けばどうなるか。

 もうわかっただろう。


 酒場では貴重な情報の売り買いや、普段の冒険の様子や今後の方針等々、様々な話がされている。

 そこに彼女がいるだけで、全ての情報が筒抜けとなってしまうのだ。

 俺と夕食を楽しみつつ、周囲から情報を収集する。

 聡明で賢いリオナにとっては容易い仕事だった。


 そんな彼女が手に入れた、有益な情報の1つがボスの変更法だ。

 ボスは守護者の間の扉を開けきると固定されてしまい、倒すまで変更されない。

 だけど開けきる前、具体的にはほんのちょっぴり開けて中を確認し直ぐに閉めると、次に開けた時にはボスが変わってしまうのだ。

 ゲーム的発想だから、もしかしたら発見したのは昔に流れ着いた漂流人ドリフターかもしれないな。

 まあつかえる情報だという事だけは確かだ。

 早速試させてもらおう。

 たしか、超強化ボスの出現率は3%程度だったか。

 何回開け閉めすることになるのだろうか……。




・・・

・・


 


 ちょうど50回くらい中を覗きつつ開け閉めした所、ようやく目的のやつが出現した。

 リオナと目線で会話し頷き合うと、扉を完全に開け突入した。

 

 現れたるは火そのもの。

 荒ぶる破壊の象徴。

 炎の魔神イヴリートだ。


 浅黒い体全身に炎を纏わせ、錆色の茶髪の中から2本の角をのぞかせている。

 体も4mもあろうかという巨体だ。

 魔神というよりは、炎の巨人といった所だろうか。


 だが、あの見せ掛けに騙されてはいけない。

 強大な肉体は仮初でしかない。

 実体はなく、炎そのものが敵の正体だ。

 精霊に近い存在といえば想像し易いんじゃないかな。

 

 巨人だろうが精霊だろうが問題ないんじゃない、って思うかもしれないが、問題大ありだ。

 何故なら精霊に近いこいつには、一切の物理攻撃が通用しないからだ。

 魔法や氣、あるいは何らかの属性を付与した武器で攻撃しないとダメージが与えられないのだ。

 これで少しは、この魔神の厄介さを理解してもらえたんじゃかな。


 っと、悠長に考え事している場合じゃないな。

 既にイヴリートは戦闘態勢に入っている。


「リオナ、やるぞ!」

「はい、旦那様!」

「これが2人の初めての共同作業だ!」

「頑張ります!」

 

 イヴリートが咆哮共に両手を大きく広げると、炎風が周囲に撒き散らされた!


「っ!?」


 とっさに混氣で全身強化を行うも、猛烈な熱によって痛みと共に肉体がどんどん蝕まれていくのがわかる。

 まずい!

 受けに回るのは危険だ。


「リオナ攻めるぞ! このままじゃまずい!」

「ご随意のままに!」


 リオナの固有能力によって、3体の魔物が出現した。

 ディースというメデューサみたいな上半身が女性で下半身が蛇の怪物に、オルガンという凍れる鬣を持つ巨狼、そしてザロックという鋼の肉体を誇るゴーレムだ。

 たしか30階層のボス戦の時にも使った奴等だったよな。

 もっとも、前回は守りに徹してもらったが今回は違う。

 リオナの号令一下、一斉攻撃を開始した。


「あなた達いきなさい!」

 

 ディースが人を丸呑みにできそうな大きな口から猛烈な勢いで大量の水を吐き出し、オルガンが氷のブレスを、そしてザロックがその巨体をもって肉弾戦を挑んだ!


 彼等?のおかげでイヴリートの熱波も弱まり、俺も全力で動ける。

 ザロックが大地の如き黄土色の氣を纏った巨拳でイヴリートと真っ向から打ち合っているので、易々と魔神の背後をとれた。

 まずは挨拶代わりとばかりに全力の一撃を叩きこむ!


混氣剣カオスブレード!!」


 氣と魔力、そして神氣の3つが混ざり合った混氣によって、通常の氣よりも大幅に強化された破斬、ようは全力で混氣を纏わせた剣を叩き付けたのだ。

 背後からの奇襲ということもあってイヴリートに直撃したが、それでもあまりダメージを与えられなかったようだ。

 怒りの視線を向けると、口から爆炎を吐いて反撃してきた!


「おっと!? リオナ! 奴の心が読めるか?」

「駄目です、何も読めません! いえ、何も考えておらず、しかも今生まれたかのように記憶もありません!」


 ある程度予想していたが、やはり迷宮の魔物は生物じゃない。

 神か誰か、それらに相当するものか、あるいはこの迷宮の造り主によって、仮初の命を与えられたつくりものといった所か。

 おそらく怒り等の感情や、攻撃を受けた際の痛みで顔をしかめるのも、本物と同じ様に反応するように造られた、ただそれだけなのだろう。

 だから何も考えていないし、ただそうあれかしと動くようにプログラミングされた化物。

 それがこいつらだ。

 元々ほとんど良心の呵責を抱いていなかったが、これなら本当に何の逡巡も無く倒せるな。

 こいつには、せいぜい俺達の成長の糧になってもらおうか!


「回復は任せた! 俺は全力で攻めるぞ!」

「お任せくださいっ!!」


 俺達が猛攻撃を仕掛けようとしたが、イヴリートも負けていない。

 5mを優に超えるゴーレムのザロックを押し返すと、全方位に爆炎をばら撒いたのだ!


「っ!?」


 咄嗟に腕を交差し顔を守ったが、混氣の上からでも強烈な炎が身を焦がす。

 痛みに耐えること数舜、直ぐにリオナから回復魔法が飛んできて傷が癒される。

 どうやら離れていたしオルガンが盾になったおかげで、リオナのダメージはそれほどひどくなかったようだ。

 もっとも氷属性と目されるオルガンや、水生の魔物だと思われるディースへのダメージはかなりのものだった。

 全身が炎によって焼け爛れ、痛々しい姿に変わっている。

 ただちにリオナの強力な回復魔法によって、まるで時間が逆行したように再生したが、それでも何発も連続で食らえば耐えられるかは怪しい所だ。

 正面を受け持つザロックも比較的ましとはいえ、このまま手を拱いていればすぐに土に還るだろう。


 格上、俺達よりも圧倒的な強者!

 

 それが爆炎の魔神イヴリート。

 今俺の眼前に立ち塞がる敵だ。

 だからこそ俺は狂喜し、口元が歪な形に吊り上がった。


 そう、敵が俺達よりも遥かに強いからこそ全力を出せるんだ!

 力も技も出し惜しみする余裕もなく、脳も限りなく薄い勝利の道を探してフル回転している。

 この世界に来て初めて、本当の意味で全身全霊を尽くし戦える。

 それが嬉しくて嬉しくて、俺は大声を上げて嗤った。


「はっ、はは! いいぞ! 俺はこんな戦いを求めてたんだ!!」


 嗤いながら特攻を仕掛けた。

 ザロックを囮に相手の背後を目指して回り込み続け、側面からそして後ろから、何度も何度も斬り続ける!


 魔神からの反撃も気にしない!


 振るわれる剛腕を最小限の動きで躱し、身を焼く爆炎は混氣とリオナを信じて甘んじて受けた。

 体を焦がす絶大な痛みを僅かな時間なら堪えられないこともない。

 それもよりも、強者に挑み続けられるこの状況が楽しくて仕方なかった!


「おおおっ!!」


 叫ぶ! 吠える! 走る! 

 そして斬り続ける!!

 

 まだだ! まだ足りない!

 まだ全然足りない!!


 正面をザロックが受け持つが、イヴリートはお構いなしに周囲全体に向けて爆炎をばら撒いてくるのだ!

 俺の混氣のガードさえも易々と貫いてくる、地獄の業火をもって!!


「……これじゃ足りないか」


 このままじゃ手詰まり。

 いいや、敗色濃厚というべきだな。

 だから弱者は賭けに出なければならない。

 己を上回る強敵から、僅かな勝利を手繰り寄せるために!


「神氣発動っ!!」


 発動した途端、強烈な重圧が全身に圧し掛かってくる。

 制御の難しさは混氣の比ではない。

 混氣であれば3時間程度なら維持し続けることも可能だが、神氣は数十分でもきついだろう。

 しかも、それはあくまで維持だけで、戦闘による疲労や負傷を加味すれば更に短くなる。

 よくて10分、下手すれば数分も持たないかもしれない。

 だがそのかわり、得られる力は絶大だ。

 混氣の強化の倍、即ち素のステータスを10倍以上に強化できるのだ!

 神氣を発動している期間に勝機を掴まねば、勝ち目はない!!


「いくぞっ!!」


 荒れ狂う力を必死に御しながら、後ろに回り込み様に炎の化身を斬り付けた!

 !?

 刃で肉を斬る感触が初めて手に伝わってくる。

 

 通じる! 通じるのだ!!


 LV80の俺でも神氣を使えば、目下LV120超のステータスと目される魔神にも攻撃が通るのだ!!


「よっしゃあ!!」


 歓声を上げつつ回り込もうとするも、さすがに黙って見過ごしていられなくなったようで、ついには俺に狙いを定め巨人の如き剛腕を打ち下ろしてきた!


 避けるのは、無理か!


 俺は咄嗟に後ろに飛びつつ、剣と全身への強化を全力で行った。


「っ!?」

「旦那様!?」


 だがそこまでしてもなお、炎の魔神の絶大な力を防ぐ事は能わなかった。

 派手に何mも吹き飛ばされた後、何度も何度も地面を回転させられた。

 衝撃で一瞬呼吸が止まり、漸く止まった後も痛みでしばらく立ち上がれなかった程だ


「すぐにお助けします! 逆行再生リザレクション!!」


 間髪入れずリオナからの極大回復魔法が飛び、報復とばかりに3体の魔物から水や氷の魔法や氣の攻撃が魔神に飛んだ。

 あのまま追撃されていたらやばかったが、リオナ達のおかげで九死に一生を得た。

 イヴリートも傷を負ったようだが、それでもなお健在のようだ。


「リオナ、助かったよ!」

「旦那様、どうされます? 撤退も視野に入れますか?」

「まさか!? ここからがいい所なんだ! 今から見せてやる! 弱者が強者に牙を突き付ける姿をなっ!!」

「!? はいっ!!」


 獰猛に嗤いながら宣言する俺に対し、頼もしそうに頬を染めるリオナ。

 強敵との熾烈な戦いが楽しくて、楽しくてしょうがなかった。

 怒り狂う魔神が咆哮し、無数の爆炎の球を撒き散らし、下方から巨大な火柱を幾つも幾つも打ち上げた!


「いくぞ!!」

 

 腹の底から吠え魔神目掛けて疾駆した。

 世界が紅に彩られ無数の爆発が華を咲かせる中を突き進む!

 心のままに、己の欲求に従って!

 

 そして挑む。

 今からやる技は初めてやる技だ。

 氣では実戦投入できているが、魔力を用いてはまだ成功していない。

 ましてや神氣を用いてなど、試してすらいなかった。


 初めて?

 まだ成功していない?

 それがどうした。

 今ここで成せばいいだけじゃないか!

 俺ならできる!

 俺だからこそできるんだ!!

 

 俺の思いに従って神氣が変化し始める。

 白銀の幻想的な光が、漆黒の闇に変わった!


超吸精剣ハイパードレインソード!!」


 ぶっつけ本番、初めての試み。

 それも命を賭けた死闘の最中の無謀な挑戦は、実を結んだ。

 昏き闇の刃は斬り付ける同時に、魔神の生命いのちそのものを奪い去る!


「はっ! はははははっ!!」


 嗤いながら斬り続ける。

 その度に魔神から奪取した気力や魔力が、次から次へと俺に流れ込んでくる。

 これでネックだった神氣の消耗の激しさも、相手から奪う事でクリアできる。

 俺が制御を間違わない限り、無限に維持できるのだ!!


「そらそらっ、どうしたぁ!? もっとひり付く様な勝負をしようじゃないか!!」


 俺の怒涛の連撃によって、あの暴虐の魔神が苦痛の声を上げたのだ!

 だが動きが鈍り始めても、敵は魔神。

 弱者である俺達が油断する等、自殺願望以外の何物でもない。

 灼熱の炎の波を必死で受けつつ、もらった痛みのお返しとばかりに黒き刃を縦横無尽に振るい続けた。


吸魔アブソーバー!」


 リオナもイヴリートから気力や魔力を奪う作戦にでた。

 先程から大魔法を連発して仲間を回復してくれたから、消耗も凄まじいだろう。

 だがそれも、強大な生命力を誇る魔神から吸収すれば万事解決だ!


 俺が奪い、彼女も奪った!


 そして奪った力を俺は神氣によって更なる攻撃に回し、リオナは味方の戦力の維持に用いた。

 壁役のザロックと、水と氷の攻撃役のディースとオルガンの維持にだ!


 俺達に加え魔物達による攻撃、それもイヴリートの弱点と推測される属性でも攻撃だ。

 さしもの炎の魔神といえど命は有限である。

 次第に傷は増え、その身に纏う爆炎さえも勢いが衰えていった。


「リオナ! ここだ、ここで決めるんだ! 格上相手に余裕を見せれば、負けるのは俺達になるぞ!」

「はい、私のとっておきをお見せします! 心象具現化リアルアバターと対をなす、私の力。心象物質化マテリアライズを!!」

「いいぞ。俺も全力を出し切る!」


 リオナも隠し玉があるようだ。

 俺はそこまでのものはないが、今ある力をもってやれることをやるだけだ。


 溢れんばかりの神氣を顕現させ、剣に集め圧し続ける。

 溢れ返り暴れようとする力を必死に押さえ、更に力を足し続ける。

 リオも両手を胸に組み、瞑想しつつ力を溜め始めた。

 

 イヴリートもこちらの力の高鳴りが解るのだろう。

 そうはさせじと暴虐の力を振るい、爆炎を放出し出した。

 

 だけど、俺達には頼れる仲間がいる。

 無防備になった俺達に対し、3体の魔物が己を傷つけつつも、必死に攻撃を防いでくれたのだ。

 リオナの心から生まれた命無き魔物とはいえ、その献身にはくるものがある。

 彼等の尽力に報いなければならない!

 俺とリオナは心底集中し、一秒でも早くと力を溜め続けた……。


 そして、解放の刻が来た。

 かっと眼を見開いた俺にあわせるように、リオナもまた静かに目を開けた。

 後は唯、溜めた力を放出するだけだ。


神滅斬ゴッドブレード!!」

深海圧殺アビスクラッシュ!!」


 突如深海を想わせる黒い莫大な水がイヴリートを包み込み、中心にいる魔神に向かって急激に縮小していった所に白銀の巨大な奔流が炸裂した!!

 

 大爆音


 水も魔神も何もかも、世界そのものを白き光が埋め尽くし吹き飛ばす!!


 あまりの光量に目を両手で覆い隠す事しばし、光が消えた先は何も残っていなかった。

 まるで先程の激闘そのものが無かったかのように、何の変哲もないダンジョンが広がっていた。


「やった、のか?」

「旦那様、お見事です!! 素晴らしい御力です! 完全に神氣ゴッドアーツを自分のものにされましたね」

「リオナの心象物質化マテリアライズもすごかったよ。あんな必殺技も持ってたんだね」

「ふふふっ、伊達に一族の巫女を務めていたわけではありませんわ」


 お互いを褒め合うが、自然と笑みが零れた。

 勝った。勝ったのだ。

 

「これで上級ハイクラス冒険者だな」

「はい! だけど順調過ぎて怖いくらいですね」

「そうだな。まっ、何にしろ疲れたし、腹が減ったな」

「何か美味しいものでも食べにいきましょうか?」

「そうだな、今日は奮発してもいいだろう」


 激闘の疲れ、勝利の後の疲れが心地良い。

 今日は気持ちよく眠れそうだ。

 おっと、その前にリオナと祝勝会だな!

 俺達は連れ立ってダンジョンを後にするのだった。










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