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第2話 よくある説明回

「まず大前提として知っておいて欲しい事があります。あなた方漂流人ドリフターの知識は勝手に広める事は許されません」

「危険な知識なんかを好き勝手に広められたら大惨事だにゃ~~」

「なるほど……」


 まあ、当然の話だ。

各世界の発展度合も異なるだろうし、好き勝手に兵器や軍事知識なんかを公開されたりしたら、悲惨な戦争時代の幕開けだ。


「もし何かの知識を公開したいのなら、各ギルドで申請を行ってもらう必要があります。厳正な審査の結果、許可がおりたものだけが広める事を許されるのです。」

「審査に通った知識が使われれば、申請者には対価としてお金が払われるのにゃ! え~と発明技術料?だったっけかにゃ?」

「ええその通りよ。えらいわ、イーニャ。ちゃんと勉強してるのね」

「にゃふふん、当たり前にゃ! 将来は立身出世して市民になるにゃ。そのための努力はかかせないにゃよ!」


 セレナさんに頭を撫でられ得意満面の笑みを浮かべるイーニャの姿が微笑ましい。

 だが、見習うべき所は多々ある。

 自主的に努力し、またそれを苦としていない態度。

 そして奴隷という身分に嘆くのではなく、あくまで自分の力で未来を勝ち取って見せるという姿勢が、今の俺には眩しかった。

 突然異世界転移しただ嘆くだけの俺。

 それに対し、戦火に塗れ奴隷に堕とされてもなお前を向き、まるで何事も無かった様に陽気に振舞ってみせるイーニャ。

 もちろん、現実と向き合うために様々な苦悩があっただろうし、家族との別れに涙したであろう事は想像に難くない。

 だが現状では、圧倒的に格好悪いのは俺だ。時間が掛かろうとも乗り越えなくちゃいけない。少なくとも表面上は、少女に気を使われない程度には!

 情けないメタボおっさんにも意地があるんだよ!!

 俺は思いっきり頬を叩くと、気合を入れ直した。


「にゃにゃっ!? いきなりどうしたにゃ?」

「すいません。やる気をだそうと、気合を入れたんですよ」

「そうなのにゃ? まあ、やる気を出すのはいいことにゃ!」

「あなたにとっては突然の災難だというのに、その前向きな姿勢はとても素晴らしい。中々でき事ではありません」

「いえ、イーニャちゃんを見習おうと思っただけですよ……。そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。私の名前は御村慶一みむらけいいち。慶一が名ですが、呼び辛かったらケイと呼んでください」


 セレナさんにあなたと言われて、まだ名乗ってない事にようやく気が付いた。

 これがビジネスとしたら大失態ものだが、異世界転移と眠りから覚めたばかりで混乱していたという事で大目に見てもらいたい。

 ケイの呼び方については、以前外国の方が慶一の名前を呼び辛そうにしていたからだ。

 こちらの言語と発音の仕方によるとは思うが、念のためというやつだ。


「にゃ! ケイ、って呼ぶにゃ!」

「では慶一さんとお呼びしますね」

「ええ、よろしくお願いします」

「それで話は戻りますが、異世界の知識を勝手に広める事は犯罪であり、広めるためにはギルドで審査を受ける必要があるという所まではよろしいでしょうか?」

「はい、問題ありません」

「後は、ケイの身の振り方にゃ!」

「あなたには選択肢があります。まず1つ目は、薬師ギルドや錬金術ギルド、あるいは商業ギルドや鍛冶ギルド等の生産ギルドの見習いとなる方法です。漂流人ドリフターならば初期の衣食住に関しては各ギルドが負担してくれるので、安心して暮らせますよ。ですが、それ以降は慶一さんの努力次第です」

「なるほど……」


 漂流人ドリフターのための救済措置があるのは有り難い話だ。

 しかも、荒事とは無用の生産職。

 技術の違いはあるだろうが、いうなれば中規模や小規模、ないしは個人企業に就職するようなものだ。

 慣れれば今までと同じように社会の一員として暮らしていけるだろう。

 そう、今までと同じ様に……。


「もう1つの選択肢は、冒険者ギルドや傭兵ギルド等の戦闘ギルドに加入する事です。こちらも初期の宿代や剣術や魔法といった役立つ技術の受講料、具体的にはギルドの紹介する流派への入門料や初めの1ヶ月分の代金は無料となります」

「ケイのおっちゃんは見るからに運動苦手そうだから、やめておいた方がいいんじゃにゃいかにゃ~」

「ははは。こんななりですが、運動は苦手じゃないんですよ」

「そうなのにゃ? でも、チップは自分の命にゃよ?」

「戦闘ギルドは自分の才覚次第で一攫千金も夢ではありません。ですが、怪我は日常茶飯事ですし、時には重傷、いいえ、命を落す事すらも珍しくありません。才能や努力が足りない、あるいは運に見放されるだけで死ぬ……、そんな非常な世界なのです」


 事実を淡々と述べる森の妖精に対し、俺は興奮を禁じ得なかった。

 いや、徐々に隠せなくなっていったというべきか。

 稼げるかは自分の才覚次第?

 いいじゃないか! 望むところだ!

 チップは己の命?

 他の誰かが決めた事に従うのではなく、自分の意志で決めた事に責任を取るだけの話だ。

 まあ、失敗の代償が命になり得るというのも重く感じるかもしれないが、日本でだって、ちょっとした失敗や思い違いで重大な事故につながるケースは枚挙に暇がない。

 それに、正直社畜になるのはもうたくさんなんだ。

 行くも引くも、例え死すとも自分で決めたのなら、まだ納得できるじゃないか!

 

 それに魔法。

 異世界転移の定番であるが、何て心惹かれるワードじゃないか。

 是非習得したい!

 熱い思いとギラギラとした欲望が顔に出たのか、セレナさんがあきらめたかの様に盛大な溜息を付かれた。多分彼女としては命の心配のない生産ギルドを推したかったのだろう。

 メタボおっさんだからなあ……、まあ、そう思われても仕方がない事だ。


「決意は固いようですね」

「申し訳ありません」

「えっ、えっ!? どういうことにゃ?」

「イーニャ、慶一さんは戦闘ギルドに入るそうよ」

「ええ~!? 大丈夫にゃ? ケイは弱そうだし、すぐやられちゃうんじゃないかにゃ?」

「例えそうなったとしても、自分の選択した事です。後悔はしませんよ」

「……ケイとは仲良くなれそうにゃのに、すぐお別れなんていやにゃ!」

「冗談ですよ、冗談。それに運動は苦手じゃないって言ったでしょ? 自分から死ぬつもりなんて更々ありませんし、まあすぐとは断言できませんが、しばらくした頃にはあまり心配せずに見てもらえるようになってみせますよ」

「にゃにゃっ、すごい自信にゃ!?」


 俺からの予想外の言葉にイーニャもセレナさんさえも驚きで目を見開いている。

 まさかいい年したおっさんから、自信ありげな言葉を吐かれるとは夢にも思わなかったのだろう。

 血気に逸っているようにみえたのか、セレナさんから戒められる。


「やる気があるのは結構な事ですが、無謀や蛮勇は死と同義です。努々お忘れなき様に」

「ええ、気を付けます。それに、私は情報が得られるなら得てから行動するタイプです」

「できる限りそのように心掛けてください。では冒険者ギルドと傭兵ギルドについてですが、私のおすすめは冒険者ギルドです」

「それは、どうしてですか?」

「傭兵ギルドは街を巡回して治安を守ったり、近くのモンスターや盗賊の退治にゃんかもあるけど、問題にゃのは雇われて戦争に参加することもあるのにゃ」

「それはまた……、拒否はできないのですか?」

「できません。戦争はギルドにとっても大事な大口の収入源ですから……」


 何とも世知辛い話だ。

 だが、同時に理解はできる。

 戦争とは儲かるのだ。

 戦争のおかげで科学技術が発展を遂げたなんて話もあるくらいだし、死の商人が武器を売って荒稼ぎするのもまた、当たり前の事実だからだ。

 まっ、自分が参加するのは御免被るがな……。

 という事で傭兵ギルドは却下だ。


「そして冒険者ギルドですが、冒険者は基本的に何でも屋です。掲示板に張り出された依頼、街の清掃や薬草など植物の採取、モンスターの討伐やダンジョン探索等々、その他にも様々な仕事が舞い込んできます」

「でもここアルバインはちょっと他とは違うのにゃ! ここでの冒険者の仕事といったら塔の攻略にゃ!」

「塔の攻略?」

「神至の塔と呼ばれるアルバインの中心にある、有史以来未だ未攻略のダンジョンの事です。冒険者ギルドの外に出れば、頂きが見えない程の巨大な塔が見えますよ」


 未攻略ダンジョン。

 なんとも良い響きだ。

 

「ダンジョンは物資の宝庫です。殊に神至の塔はありとあらゆる物が手に入り、更にはここでしか手に入らない貴重な物が多数あります。先程イーニャがアルバインの冒険者の仕事は塔の攻略といいましたが、神至の塔から得られる富でアルバインは成り立っているといっても過言ではないのです」

「それはすごいですね」

「他のダンジョンだと、似通った傾向のものだけしか取れないにゃ」

「だからこそ、周辺諸国はアルバインを狙う事を止めないのです」


 なるほど、ここで先程の言葉につながるのか。

 アルバインには特別なダンジョンがあり、周辺諸国はその富を欲しいからこそ争いが終わらない……、というわけだ。

 地球と変わらず、どこにいっても争いが無くならならないわけだ。

 溜息を吐きたくなるな。

 やや気まずくなった雰囲気を壊そうと、イーニャが慌てながら言葉を発した。


「そっそれと、にゃんといってもセレナは冒険者ギルドの受付嬢にゃ! 冒険者をやるならケイに色んな助言をできるにゃ。それにイーニャもケイが怪我して帰ってきたら手当してあげれるにゃ!」

「それは頼もしいですね。私としては冒険者ギルドの方が魅力的ですね。ぜひ冒険者ギルドに入らせてください」

「ケイ! 頑張るのにゃ!」

「承知しました。それでは冒険者カードを作成しましょう。この鑑定球に手を乗せてください」


 こうなる可能性を予期していたのか、セレナさんが腰に提げていたポーチから綺麗な透明の球を取り出した。

 

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