第28話 共闘
然したる時間もかかる事無く魔物を発見した。
敵はジャイアントと呼ばれる、人間をそのまま大きくした様な巨人だ。
腰蓑以外何も纏っていないが、表皮は下手な鎧など問題にならない程硬く、皮膚の下にはこれでもかと発達した分厚い筋肉がついている。
背丈は5m近くあるだろう。
武器は持っていないが、異常なと思える程の生命力とでかい肉体を生かして暴れまわる厄介な敵だ。
50階層から出現するが、こいつや亜竜が一般冒険者の死の原因の何割かを占めるといえば、その強さを理解してもらえるだろうか。
まあしかし、俺達や臨時パーティを組んでいる綺羅星には脅威とはならない。
其れも当然だ。
いうならば、きちんと対策が取れている前提なら50階の冒険者でも倒せる敵なのだ。
ただ捕まってかみ砕かれればLV60の冒険者でも厳しいものがあるが、のろまな巨人に捕まるようじゃ上には進めない。
誰一人怯える者はおらず、それ所かすぐに獲物が見つかって喜んでいる。
「さーてケイ、最前列での壁役は任せたわよ。まさかこんな雑魚に捕まるわけないわよね?」
「当然です。私がジャイアントの攻撃を全て受けるか流しますので、皆さんは好きに攻撃してください」
「はっ、それじゃあお手並み拝見といこうか!」
「お主の実力が口だけでないと証明して見せてくれぃ」
「ええ存分にご覧下さい! 流水」
2階から巨石が降ってくる様な巨人の拳撃だが、既に何度か対戦しているので眼を閉じていても対処できる。
拳を受け流し力が乗っている方の膝に身体強化した足を叩き込んでやった。
バランスを崩した巨人に攻撃が殺到する。
「やるじゃない! あたし達も無様な所を見せられないわよ! 気飛剣!」
「ぬうん、断裂!」
「ははっ! 刺突閃!」
気の刃が飛翔し、地を這う破壊の奔流が唸り、レーザービームの様に槍先から収束した気が放たれた!
そのどれもがジャイアントの肉体を引き裂き、夥しい血を流させた。
ふむ、威力はギムの断裂が最も上だが、技として優れているのはヴァレットの刺突閃だな。
気を収束して貫通力を高め高速で打ち出している。
あの速度で初見、かつ急所を狙われればやばかったかもな。
だが見てしまえば対策できる。
あの技は槍先の向きに直進し、発射は気が収縮した直後、あるいは槍を突き出す動作のどちらかがトリガーだ。
まっ対処法は置いておいて、良い技なのはたしかだ。
早速真似させてもらおう。
確かこんな風だったな。
俺は剣を持たない左手の掌を巨人に向けると、気を圧縮し適当に発射してみた。
「なっ!?」
「ふむ、速さと威力は素晴らしいですね」
「俺の、技を真似っていうのかよ!」
「ははっ、私も気の扱いに関しては少々自信がありましてね。中々興味深い技だったの使わせてもらいました。それよりいいんですか? まだまだジャイアントは元気一杯ですよ?」
「!? ちっ、お前も中々やるようだなっ!」
「今は敵に集中よ! 一斉攻撃!!」
「わあっってるよ! いくぞ、おらぁ!!」
ジニーの掛け声に合わせて、ギムとヴァレットの3人が果敢に近接攻撃を仕掛けた。
それに加えて、今までじっと隙を伺っていたレイルも動くようだ。
3人が別方向から巨人を襲い、足などを重点的に傷付けると一瞬離脱してのけたのだ!
「……弱き者は死ぬだけだ。焼き尽くせ! 豪炎柱!!」
力ある言葉と共、にジャイアントを包み込む巨大な火柱が出現した。
さしもの強靭な生命力を誇る巨人とはいえ、動けなくなった所に延々と燃え盛る大炎には耐えきれなかったようだ。
しばらくもがいていたが、炎の中で力尽きて倒れ伏した。
「歯応えないわね~」
「まあ50階から出現する敵ですからね。対処法がわかっていれば、苦労しませんよ」
「その通りじゃのう。お主等の真価もわからんし、もっと強敵を探すべきじゃな」
「ええ構いませんよ」
「よし! ドロップを回収したら、さっさと次の敵を探すわよ!」
「おう!」
俺としても楽勝過ぎて、綺羅星達の全力が見れなかったから不満がある。
落とし物を拾うと、次の獲物を探して歩き回った。
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その次のお相手は、ディアルマの群れであった。
しかも10体近い大集団であった。
普通ならその物量で押し切られてしまう危険性もある凶悪な群れだ。
ただ悲しいかな、この毛むくじゃら達の相手となるのが俺だということだ。
しかも初見ではなく、間近でジニー達との戦いを観察できているのだ。
加えて1対1なら彼女達が負けない事もわかっている。
後は簡単だ。
俺がしたのは、ジニーやギム、ヴァレット用に夫々1匹だけ通し、それ以外を気弾や魔弾等の遠距離攻撃、あるいは剣で敵を払ったり蹴っ飛ばしたりしてけん制するだけ。
ジニー達が倒し終わったら、また1匹ずつ通すだけの簡単な作業だ。
それにレイルの魔法やリオナが魔力弾を発射してくれたおかげで、2回通すだけで事足りた。
余った奴は俺の剣の錆になってもらった。
もらったが、やはり不完全燃焼という所だな。
はっきり言って戦力過剰だ。
俺達が入らずともディアルマの群れなら、綺羅星のみで余裕で討伐できていたのだ。
これでは彼等の強さが測れない。
俺はため息交じりに切り出した。
「はあ~、階層ボスにいきましょうか」
「今回も楽勝だったが、60階からのボスは下層とは違うんだぞ!」
「そうね、何がでるかわからないし、強いのに当たったらあたし達でもきついのよ」
本来50階以下の階層ボスは1体で固定である。
だが60階層以降は3体の中からランダムで現れるようになるのだ。
100階層以降になると5体から抽選になるそうだが、ここで彼女達が問題視しているのがその抽選先だ。
3体のボスは夫々強さが異なり、適正LVに大して弱い、同程度、適正LVでかなわないくらい強いとなっている。
この強いボスは滅多に出ることはない。
統計では出現率は1割を切るそうだ。
だがしかし、現れた場合は厄介というより災難でしかない。
何せ適正LVで挑んでしまえば、例外を除いて死ぬしかないからだ。
ジニー達が不安視しているというのは、どの程度だろうか。
「それは、きついだけで勝てるということでしょうか?」
「俺達が負けるわけないだろうが! あのクズを入れても勝てたんだからな」
「そうね、勝てるのは間違いないわ。ただ、前回不合格になった人よりも、あなた達が有能かどうかが問題なのよ」
「ああ、それなら大丈夫そうですね。階層ボスにいきましょう」
「おいおい、軽く言ってくれるじゃねえか。僕達は優秀です、ってか!」
「余程自信があるのね。無謀は身を滅ぼすのよ? わかってる?」
「ええ、何も問題ありませんよ。あなた達といかなくても、どうせ2人でいくつもりでしたからね」
「旦那様と私なら、どのボスが現れようと敵ではありません」
「「!?」」
静かな自信を滲ませる俺達に、彼女達は呆気に取られている。
だが、憤慨した様子を見せない。
それはそうだろう。
先程の共闘では俺達に瑕疵はない。
それに、俺達が余裕を持って流していたのも、彼女達としてもわかっている。
だからこそ俺達の真の実力がわからず、否定できないのだ。
「大言壮語とは言い切れんか。今までの戦闘ではミスは見受けられんしのぅ」
「はぁっ、しょうがない。いきましょうか」
「ジニー!? 本気かよ!」
「ええ本気よ。実際の所、苦戦するかもしれないけど私達なら必ず勝てるわ! そうでしょう?」
「そりゃあ、まあな」
「ならいいじゃない。それに、慎重論ばっかりで新人さん達に舐められても、いいことないしね。レイル、私の判断は間違ってる?」
「……正しい。ボスはどれも強いが、俺達ならば負ける事はない」
「よし! それじゃあ、ボスに挑むわよ!」
これはありがたい。
強敵との戦闘ならば、今度こそ底が見れるに違いない。
俺達の底が見れるかは敵次第だがな。
「よかったな、おっさん! ご希望通りのボス戦だぜ?」
「ええ、ありがとうございます。これで皆さんの真の実力が見れますね」
「けっ、余裕ぶりやがって! ミスしたらただじゃおかねえからなっ!!」
「そうよ。そんな態度ばかりじゃ、そのうち仲間から見放されるわよ!」
「これは失礼しました。皆さんも敵が弱過ぎて、退屈していたのだと思っておりました。気を利かせたつもりでしたが、余計なお世話でしたか?」
「楽勝じゃったのは事実じゃのぅ。お主が言いださんでも、遠からずボスに挑んでいたじゃろう」
「けっ! 新入りが生意気なんだよ!」
おやおや、俺達に認めらなければ名前を呼ばないなんて言っていた男が、俺達を新人扱いだ。
不満だが、俺達の実力を認めないわけにはいかないって所か。
だが態度がでかいと、新人が提案するなと気に入らないのだろう。
まっ、どうせ加入するつもりもないし、しったこっちゃないがな。
「はいはい、そこまで! それじゃあ、皆も納得したことだし、改めてボスに挑むわよ!」
「はい、承知しました」
「新入りが、足を引っ張るじゃねえぞ!」
「ええ、気を付けますね」
「けっ」
やや険悪な雰囲気になりながらも、俺達はボス部屋を目指して歩いて行った。
そしてしばらく、数戦敵と戦闘をこなした後に大掛かりな扉がある部屋の前に着く。
お目当てのボス部屋だ。
この扉の先には、次の階に続く階段のある部屋を守るボスが出現するのだ。
しばし休憩を取った後、ジニーが皆に声を掛けた。
「皆いい? 突入するわよ! どのボスが出ても、自分の役割をしっかりこなすのよ!」
「任せておけい」
「はっ、わかってるって! おい、新入り! とちんじゃねえぞ!」
「ええ頑張ります」
「よし! いくわよ!」
ジニーが勢いよく扉を開くと、大部屋の中心に描かれた魔法陣が発光し、やがて巨大な魔物が現れた。
その巨体と凶悪な相貌に、皆が息をのむ。
「ちっ、最悪だぜ」
「……火吐竜」
現れたるは、凶暴なる人喰い竜。
60階層で最も出会ってはいけない、恐ろしい強さを秘めた最強の階層ボスであった……。




