第27話 遭遇
そこは、激しい剣撃と魔法や気の炸裂音が奏でる戦場音楽が鳴り響いていた。
夥しい魔物の群れに立ち向かうは、勇壮なる4人の男女達。
お目当ての綺羅星のパーティだ。
相手となる魔物は、ディアルマと呼ばれる魔物の群れだ。
大きさは2mほどで、全身長く硬い体毛に覆われ相貌を見る事すらできない。
両手には細く鋭利な毒爪を有し、更には魔力での身体強化から魔力弾等の遠距離攻撃も操る、見た目に反した技巧者である。
ただ一体だけならば、当然ながら亜竜や巨人に及ぶべくもない。
一体ならばだ。
何より厄介な点は、数を頼りに組織的に敵を襲う事だ。
群れなすディアルマは亜竜さえ屠ると言われる程、冒険者に嫌煙される60階の難敵なのだ。
そんな相手であるのに、綺羅星は圧倒的な強さを見せつけていた!
「はっ! あたし達の敵じゃないのよ! 破斬!!」
「ぬうん! 豪斧!」
「おいおい、やり過ぎて大事な経験値に逃げられるなよ!」
「……風連斬」
リーダーと目される勝気な赤毛の軽戦士、ジーニーが先陣を切り気を纏わせた長剣で敵を斬り裂き、低身長ながら筋骨隆々なドワーフ、ギムが纏めて数体巨大な斧で両断する。
そこに、軽口を叩く痩躯の優男ヴァレットが長い槍で敵を何体も刺し貫き、後衛の魔法使いと思しき顔色の悪いレイルが無数の風の刃で蹂躙していった。
趨勢はもはや明白だった。
ほどなくして討伐を終え、銘々がドロップ品を拾うとこちらに振り向いた。
堂々と床に座り、太々しく観戦していた俺達に赤毛の女リーダーが詰問を投げてきた。
「で、あんた達は何よ?」
まずは友好的に、だな。
相手の対応次第で変える予定だが、こちらから無礼を働くつもりはない。
笑顔を浮かべにこやかに返答する。
「初めまして、私達は……何だろう? そういえばパーティ名決めてなかったね」
「そうですね、この際ですから帰ったら決めましょうか」
「……何なのよ? 芸人なんて呼んだ覚えないけど」
「ああ、いえ、失礼しました。私達は初めて60階に挑戦した所なのですが、探索した先に有名なパーティの皆さんがいらっしゃったので、折角なので見学させてもらいました」
「お前、貴族、いや商家の出か? いやに相手を立てる。まっ、腹の中は正反対だろうが、な?」
ヴァレットが不審者をねめつける様に問い掛けてくる。
当然の対応だな。
冒険者の中には迷宮で犯人が分かり辛いのをいいことに、これ幸いと盗賊働きをする悪辣な輩もいるのだ。
警戒するに越した事は無い。
まっ、今回は的外れな問いだがな。
「警戒されるのは当然ですが、私達が野盗ならこんなあからさまな行動をする意味がないと思いませんか?」
「確かに、見つけてくれてといわんばかりにあからさまじゃったな」
「こいつらが斥候兼囮役で、別動隊がいるかもしれねえじゃねえか?」
「そう思うのなら、私達はここを動きませんから、いくらでも探して頂いて結構ですよ」
「ヴァレット、今回は外れのようね。こんなデブなおっさんが盗賊の引き込み役って、分かり易すぎでしょ」
「へいへい。お前達が暢気すぎるから、俺みたいな良い男が働いてやってるんだよ」
「はいはい、ありがと。いつも感謝してるわよ」
「へっ、そうですか」
ふむ、パーティ仲も悪くないようだ。
新参者の脱退劇ではかなりの天狗達かと思っていたが、中々どうして。
期待させてくれるじゃないか。
「そうすると、このおっさん達の目的は?」
「はい、この階層は初めてなので敵の強さや対処法を知りたかったのが1つ。そして一番の目的は、お強いと噂のあなた方の本当の強さを知りたかったのですよ」
「へえ~。まっ、有名税って所かな」
「……今のでわかったのかい?」
突然、顔色の悪いたしかレイルだったか、後衛の魔法使いが質問してきた。
俺達程度では理解などできるはずもないといわんばかりの、上から目線な態度だ。
まっ、ぱっと見おデブの戦士と異国風の衣装を身に纏った美少女という、何とも珍妙な組み合わせだ。
とても60階層を攻略しにきた、実力のあるパーティとは思えないのだろう。
ふん、どちらが節穴かな。
ここからは慇懃無礼ってやつでいこうか。
「先程のディアルマ戦ですが、皆さんにとって全力を出す必要が無いくらい余裕な相手でしたね。ですが問題がないわけではないありません。今の皆さんは、ちょっとバランスが悪いですね」
「言ってくれるじゃねえか!」
「……具体的にどこが悪いのよ?」
「回復役がジニーさんだけか、あるいはレイルさんの2人しか使えませんね?」
「「「!?」」」
はっきり格下と見下しきっていたのが、少しはこちらを評価し出してくれたようだ。
先程の戦いではジニーしか回復魔法を使っていなかったし、実際にレイルが使えるかは可能性でしかないが、どちらにしても問題があるのは確かだ。
そんな俺に対し、真剣な顔でジニーが急かしてくる。
「続けて」
「先頭で戦うジニーさんが回復役を担うのは余裕がある場合なら構いませんが、強敵と戦う場合はミスが起こるかもしれませんね。それに、レイルさんが使えたとしても、攻撃と回復の両方を担うのは大変でしょう」
「……俺には可能だ」
「へっ、ならどうすりゃいいんだ? お前に解決策があるのかよ!」
「そうですね……、前衛で壁となる戦士を入れジニーさんが遊撃役になるか、あるいは後衛の回復役をいれればよいのでは? あるいは人数に余裕があるようですので、その両方を勧誘するという手もありますね。確か6人までがパーティの理想ですよね?」
塔の攻略人数には制限が設けられていない。
だがパーティ人数を増やせば増やすほど1人辺りの得られる経験値は分散される。
当然得られる収入も減ることになる。
数百年にも及ぶ冒険者達の経験をギルドが収集し続け、パーティの成長と攻略速度の観点から6人までがよいとされている、というわけだ。
「ふむ、お主の指摘は正しいのぅ」
「ギム!?」
「おいおい、どうした? こんな風にうちの欠点をさらすなんて、どうかしてるぜ」
「事実じゃろう。それに先日からギルドに、新たに補充要員の募集を頼んでいるじゃろう。遅かれ早かれ知られるのだから問題なかろう」
「へいへい、そうですね。けっ、正論野郎がっ!」
「なんじゃ、文句があるのか?」
「ああん! うるせい奴だな」
「はいはい、そこまで! それで、そこまで指摘できるあなた達は、実はパーティ加入希望者って所かしら?」
「いえいえ、私達は……」
「旦那様」
「?」
否定しようとした俺を、今まで黙って成り行きを見守っていたリオナが突然肩に手をやり話を止めた。
何やら思惑があるのだろう。
「私達はあなた達のパーティに加入するつもりはありませんが、私は回復主体の魔法使いですし、旦那様ならあなた達が必要としている前衛の壁役など難なくこなせますよ」
「おうおう、随分自信家じゃねえか」
「それじゃあ、偶々私達と居合わせたってわけ?」
「はい、偶々ですね。もちろん、私達もあなた達の強さ自体には興味がありましたから、こうして出会うのは必然かもしれませんけどね」
「なるほど、ね」
リオナとジニーはあくまで表面上、微笑みながら話し合っている。
その実、言葉に含みを持たせて裏を読ませている。
これは、わざと誤解させたな。
意図的に彼女達が必要としている役割ができると公言し、あたかも俺達がパーティに加入したいと誤認させたのだ。
彼女達の底が知りたい俺としても、その方向で勘違いしてもらっても問題ない。
それにこのパーティは自分達の実力を知っているから、どいつもこいつも自信家で自意識過剰な所がある。
だから勝手に憶測して都合の良いように解釈してくれる。
俺達にとっても都合の良いように……。
「今度は押し売りのパーティ加入希望者、か。あたし達も随分人気になったものね」
「何といっても俺達は上級冒険者の有力候補。一般冒険者の中じゃ、出世する筆頭格だからな。こんな奴等が押しかけてくるのも仕方ねえさ」
「いえ、先程から言っておりますが、私達はあなた達のパーティに加入するつもりはありません。ただ、あなた達が必要としている役割程度なら、難なくこなして見せますけどね」
「礼儀正しいわりには、自信過剰じゃない。まっ、本当に私達のパーティに入りたいのなら、最低限あなた達の発言通りの実力がないとダメだけどね」
「ふむ、口では何とでも言えるからのぅ」
「それならば試してみますか?」
「言うねえ~。そういうの、俺は嫌いじゃないぜ」
「即席パーティか、皆オーケー?」
ジニーの問いかけに反対する者は誰一人もいない。
全員自信家だと、こういう場合助かるな。
俺達が役立たずだとしても、あるいは賊の類であったとしても、問題なく処理できると考えている。
こちらとしてももう少し実力を見極めたいし、でき得るなら奥の手や本気の一端でも見れれば助かるな。
「それじゃ、あなた達の実力を見せてもらいましょうか? 言っておくけど、私達が使いものにならないと判断したなら一戦で終わりよ! 精々頑張りなさいね?」
「ええ、ありがとうございます。それでは私は慶一とでも。ああ、呼びにくかったらケイとでも呼んでください」
「私はリオナです。短い間でしょうが、よろしくお願いいたします」
「ははっ! よろしくするかはあんた達の実力しだいがな」
「大言壮語でないことを、いのっておるよ」
「ええ、お任せください」
それから簡単な役割と動きを確認し合うと、獲物となる魔物を求めて歩き出すのだった。




