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第26話 追跡 

 翌朝盛大に朝飯をかっ食らうと、リオナと二人迷宮に歩いていく。

 目的はもちろん綺羅星スターシャインだ。

 連中のいるであろう60階まで、10階層を一気に駆け上る予定でいる。

 俺達の装備自体は適正階層が50階だが、リオナはLVが高い上に後衛的な能力が異常な詐欺みたいな存在だし、俺もまた昨日の修行を含め必要な準備をしてきたつもりだ。

 特に昨日編み出した混氣カオスアーツとマリー師範代から伝授してもらった()()()()()は、今の俺には分不相応なくらい素晴らしいものだった。

 早く試したくてしょうがない。 

 気が逸って仕方ない俺と、そんな俺に寄り添うリオナは微笑まししそうに見つめながら、手を取り合いワープゲートに突入した。





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 そして55階。

 えっ、51~54階層はどうしたのかって?

 そんなもの、一気に駆け抜けたに決まっているじゃないか。

 神至の塔、特に100階以下の低階層は、10階毎にしかワープゲートがなく、転移の首飾りが入手できるのも50階に到達してからという、中々の鬼畜ぶりだ。

 まるで低LVの冒険者は苦労しろというような仕様である。

 だが、抜け穴というか、対処法がないわけではない。


 この低階層のフロアの大きさは、一辺が数kmから十数km、あったとしても精々数十km程度しかない。

 しかも階段から階段まではある程度近い内に配置されている事が多いのだ。

 LVが上がり地球人とは比べ物にならない身体能力を得た冒険者達、それも敵と戦わない条件ならば、数分足らずで1層を登る事も可能になる。

 低階層なら冒険者ギルドから低価格で地図も購入できるのだから猶更だ。


 じゃあ低階層なら簡単に攻略できるじゃん、なんてそうは問屋は卸さない。

 冒険者間で一年で10階層が指標となっているのは伊達ではないのだ。

 ぶっちゃけてしまえば、それほどLVが上がらないのだ。

 俺達の様な強力な成長補正、あるいはLVが上がり易い称号やレアスキル等をもっていなければ、自分のLVイコール適正階層となるらしく、1レベル上げるのに1月掛かるというのも当たり前の事なんだとか。

 それを無視して強い魔物に挑む……なんて無謀な事をやり続ければ、待っているのは自分や仲間の死だ。

 敗北が即死につながるからこそ、冒険者達は無理をしない。

 先達達の経験と失敗から作られた指標から、大凡逸脱をする事がないのだ。


 俺としては“冒険せずして何が冒険者か!!”と声を大にして訴えたい所だが、生活や命、それも自分だけではなく事によっては仲間や家族のものさえも関わってくるので言い辛い。

 いうなれば地球で俺達が生活のために職に就くように、ここでは冒険者がその職の1つなのだ。

 そう考えれば無茶無謀なんてしないのは、至極当然の事だろう。


 おっと、話がずれそうだな。

 まっ、ようするに上の階層に行く事自体は可能だが、無理して上がると敵が強くなり過ぎて敵わないので、自分の能力に応じた階層を探索するって感じだな。


 だけど、何事にも例外は存在する。

 分かり易い例が、俺やリオナだ。

 敵を倒せば簡単にLVは上がるし、能力値の上昇も凄まじい。

 リオナなんてLV70ちょっとだが、後衛の能力に関しては既にLV100に比肩するのだ。

 一般の冒険者達が知ったら、ふざけるなと喚き散らす事請け合いだ。

 もっともそれは俺に対してもだ。

 LV50ながら、さっきリオナに聞いたら全能力値が70近いらしい。

 

 そのせいか初めての階層だというのに、緊張感があまり湧いてこない。  

 ほらっ、新規の魔物が襲ってきたというのに、負ける予感所か勝って当然という思いしかない。

 それも余裕をもってだ。

 奇声を上げ迫り来る魔物を無感動に見つめると、敵との距離が零となる刹那、本の僅かな間だけ混氣を発動した。


「……混氣剣カオスブレード

   

 例え適正階層50階の剣でも問題ない。

 何の抵抗も無く3mは有ろうかという魔物が一撃で両断できてしまった。

 この混氣剣カオスブレードは破斬の混氣番だ。

 破斬は気を用いて全力での肉体強化と武具強化をした上で、言わば持てる力全てを用いた全力斬りだが、それを混氣に変えて行ったのだ。

 今回に関していえばほんの一瞬、一秒にも満たない時間だけ全力を出した感じだな。

 しかしこれは……、


「旦那様お見事です。昨日編み出したばかりの新技術なのに、既に自分のものにされているのですね」

「今のは通常の気で行うのを混氣で代用しただけだからね。しかし、全然歯応えが無いな。今の俺の適正階層って、一体どのくらいなんだろう?」

「そうですね、今の旦那様なら70階でも問題ないですね。それに混氣カオスアーツで長時間戦える事を考慮すれば、もしかしたら100層にも届くかもしれません」

「あ~そうすると、とりあえずの目標だった綺羅星スターシャインのパーティより?」

「はい、既にステータスでいえばかなり上でしょうね」

 

 やっちまった。 

 俺は顔を手で覆うと天を仰いだ。

 実は、結構楽しみにしてたんだ。

 ()()()()()()()との邂逅って奴を。


「鍛え過ぎた、いや、実用的な新技を思い付いてしまった弊害か。ああ~、競争相手との拮抗した戦いとか、切磋琢磨を期待してたってのに、これはやっちまったか……」

「こっ、ここは制限を設けてみたらどうでしょう? 混氣ではなく通常の気、あるいは魔力での強化のみに抑えれば、彼等と同等か若干上ぐらいになるはずです」


 意気消沈する俺にリオナが必死に提案してくれる。

 ほんとに俺にはもったいないくらいの気が回る良い子だ。


「ほっ、ほら、それに相手は4人パーティです。1対1では旦那様の方が上かもしれませんが、パーティと制限した旦那様ならまだわかりませんよ?」

「なるほど。それなら相手の方が強いかもしれないな。あっ、でもその場合リオナにはまた見学してもらう事になるのか」

「私でしたら構いませんよ。私のLVが元々高過ぎますし、それにほら、折角の旦那様の楽しみなんですから、存分に楽しんでほしいじゃないですか」


 できた子、いや妻だ。

 これほど気遣いのできる良妻を得られたのは偶然、いや、まさに奇跡みたいなもんだ。

 大切にしないとな。

 ちょっと強引にリオナを引き寄せると腕にかき抱いた。

 

「ありがとう、リオナ。君の様な素晴らしい奥さんをもてて、俺は幸せだよ」

「……いいえ、私こそ旦那様の妻になれて幸せです」

「そのうち、盛大に結婚式でもあげようか」

「ありがとうございます。旦那様の優しいお心、とてもうれしいです。ですが、私達はまだしがない冒険者。それも何の力も、後ろ盾もない新人の冒険者ですよ」

「ああ、だから申し訳ないけど、もう少し余裕ができてからになるね。ラッキーな事にマリー師範代から家を買える大金を貰えるようだし……、あっ!? いっそのこと家そのものを貰おうか?」

「いいですね。ただ一度拝見させて欲しいですけど」


 リオナが甘えた様に胸に顔を擦り付ける。

 いつもは大人顔負けの才覚を示してくれるが、こういった年相応な可愛い姿を見れるとより一層愛おしく思えてくる。

 可愛いな~。

 迷宮だという事を忘れて、このままキスしたくなる。

 だけど我慢我慢。

 そんな俺の内心を文字通り見透かして、彼女が蠱惑的な笑みを浮かべて囁いてくる。


「キスして頂いても構いませんよ?」

「うっ! いや、ほらっ、まだ迷宮の中だからね? いくら余裕があるといっても、油断はよくないというか……」

「うふふっ、冗談です。でも宿に帰ったら、してくださいね?」

「もっ、もちろんだよ!」

「その後は、いっぱい可愛がってくださいね?」

「はっ、はははは! リオナには敵わないな! 嫌って言っても止めないからね?」

「ええ楽しみですね」


 彼女が俺だけにしか見せない顔、それも夜2人だけの時しか見せない扇情的な顔がそこにあった。

 衝動的にこのまま思いを遂げたくなるのを、意識を総動員して必死に押しとめる。

 そんな俺を今度は聖女の様な慈しみをもって接してくる。


「ふっ、ふふふ。さあ旦那様、60階層にいきましょう。目的の冒険者達が待っていますよ?」

「あっ、ああ。リオナ、おじさんをあんまり揶揄わないでね。君は可愛すぎるんだ」

「すいません。真面目な旦那様は素敵ですけど、つい悪戯したくなってしまって」

「こらっ。でも、まあしょうがないよな。真剣なだけだと疲れるしな。適度な息抜きも必要か」

「さすが旦那様です」

「はいはい。……ふぅ、よし!! それじゃあ、60階を目指して、いくぞ!」

「はい、頑張りましょう!!」


 気合いを入れ直した俺達に敵はいなかった。

 本来なら巨人や亜竜など、この階層以降から出現するタフで強い難敵も現れるのだが、やる気になった俺の相手にならなかったからだ。

 混氣なら一撃だし、気だけでも数戦やれば動きや弱点も丸わかりだった。

 会敵するや否や、俺達の糧になってもらった。

 そうやって快進撃を続ける事しばし……。

 ついに綺羅星スターシャイン達と遭遇を果たしたのだった。


 


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