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第24話 邂逅

 次なる獲物を定めたその日、夜は熱く燃える様な時間をリオナと過ごした。

 魔法使い(笑)からは解き放たれたが、お猿さんの称号を得る日も近いかもしれんな。

 それもこれもリオナが可愛すぎるせいだな。

 それに加えて今までの反動というか、おっさんだというのに性に目覚めた少年の様に元気一杯なんだ。

 おそらく、自分の命を危険にさらす冒険者稼業が子孫を残すようにと本能を強めるのだろう。

 この都市の歓楽街が一際隆盛を極めているのという話も、あながち馬鹿にできない。

 まあ、俺には必要ないだろうがな……。


 



 翌日、朝も早くからリオナと迷宮に突入し昼前にはあっさりと51階層に到達した。

 昨日ちょっと発奮してLV上げをし過ぎたせいもあって、50階層のボスを倒した時点でもうLV50になってしまった。

 リオナにいたっては72だが、大分差は縮まってきて少しほっとしている。

 多分あと数日で追いつけるだろう。


 ああそれと話は変わるが、この階層までやってきたのにはわけがある。

 初めて50階層のボスを倒すと、必ず得られる冒険者には必須のアイテムがあるんだ。

 それが何かというと転移の首飾り、見た目的には綺麗なネックレスだな。


 実は21階層から10層毎にワープゲートが存在していたんだが、転移の首飾りを手に入れた事でようやく使えるようになったというわけだ。

 俺達がようやくなんていったら、他の冒険者から白い目で見られるだろうがな……。

 まあそれは置いておくとして、意地が悪いというべきか、低LVの冒険者は苦労をしろという事なのか、この首飾りがなければいちいち1階から昇らなくてはならず、しかも帰りも歩いて帰らなければならないのだ。

 早急にこれを手に入れる事が、迷宮の攻略をスムーズに進める上で必須事項なのだ。

 そのおかげで、次回からは51階層から始められるというわけだ。

 目標パーティの綺羅星スターシャインは60階層を探索しているので、あと9層進めばいい。

 俺達2人にとっては実に簡単なことだ。

 行くだけなら今日中にでも到達できるだろう。

 だがそうはしない。

 俺はリオナを伴い初めてワープゲートを使い1階層に転移すると、さっさと迷宮を後にした。





 

 ちょっと豪華な昼食をとった後に向かった先は、毎度のゼーニック流の道場だ。

 何故ここに来たかといわれれば、欲しい技があったからだというしかない。

 さて我が師匠はと……おっ、いたな。


「マリー師範代」

「うん? 僕は今自分の研鑽に忙しいんだが……。なんだケイじゃないか。我が愛弟子よ、君なら別だ。何かようかい?」

「ええ、実はご相談したいことがありまして……。まずはこちらをご覧ください」


 俺は笑顔で自分のギルドカードを差し出した。


「ふむふむっ!? LV50!? しかもゼーニック流剣術も20を越えてるじゃないか!!」

「いえ、そちらでもなくて、ゼーニック流剣術の個別の型の方をご覧ください」

「なんだい、そんなに勿体ぶって? どれどれ。人の型LV20、地の型も19か、よほど鍛錬しているようだね。僕も本当にうかうかしてられないね。それに天の型LV3ね、さしもの君もまだ天の型は苦労しているようだ、ね!? こっ、これは! どっ、どういうことだい!?」


 そう、天の型だ。

 まだ教えてもらっていない型だが、この型は本来なら反発する気と魔力を合成する事によって強力な力を得るという高等技法だ。

 もっとも異世界ファンタジー的には、まあ定番の部類だがな……。

 だから予想できたし、試しにやってみたら成功してしまい、勝手に天の型を修得してしまったというわけだ。


「いや~、何となく天の型に予想がつきましてね。試しにやってみたらできてしまてしいました」

「試したらできたって、そんな簡単なものじゃないから!! 我が流派の修得最高難易度の1つなんだよ! それをまあ、よくもそんな気楽に言ってくれるね!」

「そういいましても。あっ、ちなみにできたのはLV10の頃からですよ。ただ消費が激し過ぎて、全力でも20秒も持ちませんでしたが」

「LV10って……。はあっ。もう、どこからつっこんでいいかわからないよ」

 

 そう言いつつ大きく頭を振り、盛大に溜息を付くマリーさん。

 高校生くらいのボーイッシュな少女がやっても、可愛らしいだけだ。

 できたものはできたのだから、しょうがないじゃないか……、とはいえないか。

 仮にもゼーニック流の修得最高難易度の1つだもんな。


「おそらく私が多少なりとも優れているのと、私の出身世界のせいでしょうね」

「君の出身世界?」

「はい、私の世界には様々な空想物の書物や絵で書き記された漫画というものがありまして、そこにゼーニック流の天の型と似通ったものがあったのです」

「なるほど。つまり気と魔力の合一に関する技、ないしは技法が書かれていたんだね。それで事前に予想できてしまったと」

「はい、その通りです」

「はあっ、事実そうなんだろうけど、試したらできたーなんて、そんな気軽にできるもんじゃないんだけどね」

「あははははは……」

「このままでは話が進みませんし、そこまでにしておきませんか。謙遜されていらっしゃいますが、旦那様が天才の中の天才であることは、師範代もわかっているでしょう?」

「きみは、誰だい?」

「申し遅れました。私、リオナと申します。慶一様の妻です」

「つっ、つま~!?」


 目を大きく見開いて自己紹介したリオナにマリー師範代が驚愕の表情を向けた。

 そして直ちに俺に向き直ると、犯罪者を見る様な目で詰問し出した。


「ケイ、どういうことだい? 君は漂流人ドリフターで、数日前にこの世界に来たばかりだったはずじゃないのかい? まさか、この僕に嘘をついていたのかい?」

「いえいえ、マリー師範代を騙すなんて、そんなことするはずがないじゃないですか! 私が漂流人ドリフターですし、この世界には来てまだ1週間も経っていませんよ」

「それならなおさらどういうことなんだい! 妻なんてどうやって作るっていうんだい?」

「私も漂流人ドリフターです。一昨日この世界に転移した際に慶一様と運命的な出会いをして恋に落ち、その日の内に結婚を申し込んだのです。旦那様は大変紳士的でお優しい方ですので、私の方から積極的に行動させて頂きました」

「なっ、なあっ!? 君も女だろう!? はっ、破廉恥だと思わなかったのかい!?」  

「もちろん思いましたとも。自分でもよくあんな行動ができたと、今更ながらに恥ずかしく思っております」

「そっ、それなら……」

「ですが、全く後悔しておりません。それ所か慶一様の妻になれた事こそが、今生での最高の幸せだと思っております。それと、正妻の座は譲りませんが、マリアンネさんなら側室になられても構いませんよ?」

「ええっ!? きっ、君はいきなり何を言い出すんだい!!」


 ……一体全体何が始まったんだ?

 俺を置き去りにして、話が予想外の方向に進み出している。

 

「マリアンネさんも旦那様の事を少なからず意識され始めているのでしょう? ですが私は無理強いはしませんし、あくまで個人的な提案なだけです。決めるのはあなたと旦那様です」

「むっ、むぅ~。やりにくいなー。こんなやりにくい子、はじめてだよ。まっ、まあ、ケイの事を意識しているのは本当だけど、それはあくまで愛弟子としてさっ! こんな美少女とデブなおっさんじゃ不釣り合いだろっ?」

「ふふふっ」

「なっ、なんだい!?」

「あえて真逆の憎まれ口を言うのは、お可愛らしいと思いまして」

「なあっ!? そっ、そんなことないさ!」

「そうですか?」

「そうだよ!!」

「ふふふっ、ではそういうことにしておきましょう。ですが、時間はあまりありませんよ?」 

「うん? どういうことだい?」

「旦那様はこの世界に来た時は文字通りLV1の初心者でした。ですが数日でLV50、しかも50階層に到達しています。このままいけば、100階層、即ち上級ハイクラスの冒険者になるのも一月も必要としないでしょう」

「!?」


 100階層ね。

 リオナの予想通りの結果になるだろうな。

 この世界に来たばかりの弱い俺達は、強者からしたら鴨だからな。

 早急に強くなる必要があるし、もう二度と他人の意思で俺の未来を左右されたくないからな。

 しかし、リオナはマリー師範代をどうしたいんだ?

 歯に衣着せぬ性格だし姉御肌な所もあって面倒見も良さそうだが……。 


「近い内に旦那様の価値や名声は途方もないものになります。そうなれば有象無象の輩が集まってくるでしょう」

「……否定できない。ううん、そうなる未来は、もう確定していると考えるべきだね」

「未だ弱い私達は強くなるしかありませんから。そして、できる限り隠蔽を計るつもりですが、それでもどこからか漏れてしまうでしょう。そうなれば、甘い蜜を啜ろうとする者が群がってくるのは火を見るよりも明らかです。その中には旦那様の妻の座を狙う者もいるでしょう」

「!?」

「もちろん、そんな輩は私が絶対に許しませんが……」

「君は、本当にケイを愛しているんだね」

「私は彼と共に生き彼と共に死ぬでしょう」

「……何だか羨ましいな。僕もそんな燃える様な恋ができるんだろうか」

「できますよ。大切なのは自分の気持ちに向き合うことと覚悟です。ですが、あなたには家の事があるでしょう? そえゆえ誰か婿に取るか、外に良い人を作って種を貰うかのどちらになります」

「リッ、リオナ!! 何てことを言うんだい!?」


 おおぅ、リオナは仮にも一族の長の長姉だったからな。

 こういう政治的な話にも詳しいし、臆面も無く生臭い話も口にできるわけだ。

 それが頼もしくもあり、少し恐ろしくもあるが……。

 あっ、リオナがこっちを向いてにっこり微笑んだ。


「もちろん、今の私にはそういったしがらみは何一つありません。私の旦那様への思いには、一点の曇りもありませんよ?」 

「はははっ、もちろんわかっているよ」


 強いな。うん、強い。

 恋する女の子は最強だっていうけど、おっさんはたじたじだ。

 マリー師範代もあてられて赤面しちゃってる。


「リオナ、君はすごいな」

「いいえ、これも全て旦那様と出会えたからこそです。それと、異世界に勝手に転移させられ全てを無くした事で、開き直ったせいもありますね」

「それでもだよ。素直に君を尊敬できるよ。思えば同年代の子に、ここまで敬意を抱いた事なんてなかった。それに結婚についてもまだ僕には必要ないって、考えてすらいなかったよ」

「これをきっかけとして考えてみてはいかかでしょう? マリアンネさんには家がありますし、将来党首となられるのなら、絶対に考える必要がでてきますから」

「!? どうして? まだ誰にも言ったことなんてないのに!!」

「流派最高の剣士の称号が欲しいのでしょう? 継承の儀にて旦那様が協力されるのなら、自ずとそうなるでしょう」

「そうかケイが話したんだね。それに君は彼を、ケイの事を本当に信じているんだね」

「ええ、私の最高の旦那様です」


 リオナが記憶を読んだだけなんだが、マリーさんがいいように誤解して、何か良い話になっているな。

 まっ、まあ、リオナが俺の事をそう思ってくれるのは本当にうれしいけどね。

 

「本当にうらやましいな。僕がこんなに他人の事を羨ましく思うのなんて、ほんと初めての経験だよ!」

「この場合はどういたしまして、というべきでしょうか?」

「あはははっ、それじゃただの嫌味だよ! でも今の僕には心地いいね! リオナ、僕と友達になってくれないか?」

「ええよろこんで。こちらこそよろしくお願いします」

「ああよろしく!」


 がっちり握手なんかしちゃって、ほんと良い話だなー。

 しかしリオナに友達ができるのはありがたい。

 それがマリー師範代なら俺が知っている人物だし、人柄も申し分ない。

 そんな風に二人をにこにこ眺めていたら、マリーさんが呆れた様に俺を見つめてきた。


「ケイ、傍観者でいるなんていいご身分だね。リオナ、本当に彼でよかったのかい?」

「ふふっ、旦那様は私に任せてくれたのです。それに旦那様は異性に対して控えめでお優しい所がありますから、こういう場面は私が出るべきなのです」

「ふむ、僕も君も男性の後ろに控えているだけなんて、我慢できないもんね」

「旦那様がお優しいのは異性や子供に大してだけです。敵には容赦しませんし、戦う時の猛々しい御姿なんて、恰好良いと思いませんか?」

「あれか~……。僕が一本取られた時は、牙を剥き出しにした野獣の様な姿になってたね。まあ、あれはたしかに、かっこいいんじゃないかな」

「そうです! まさにその御姿です! 私がダンジョンの中でお会いした時も、勇猛な戦士の貌をされていらっしゃいました!! あの御姿に一目惚れしてしまったんです!」


 はしゃぐリオナの姿は本当に可愛いいし、同じ話題で盛り上がれる友達ができて嬉しいのはりかいできるんだが、少し脱線し過ぎじゃないかな。

 うん、リオナには悪いがここで話を一度切らせてもらおう。

 俺はこれ見よがしに咳払いをした。


「ごっ、ごほん!」

「!? 旦那様、申し訳ありません! 私、つい嬉しくて話し込んでしまいました」

「ケイ、すまないね。僕もこんな風に話せる友達なんて初めてでね。つい話し込んでしまったよ」


 途端に謝りだす二人。

 何故か注意らしき事をした俺が悪い気分になってしまう。

 だから、つい助け舟を出してしまった。 


「まっ、まあ、休憩の時なら、お互いの親交を深めるのもいいんじゃないかな?」

「そっ、そうだね。リオナ、またその時にでも話そうか。今は修行に集中しよう」

「はい、旦那様。それと、マリアンネさんにもご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。私も独自に修行に励んでおきます」


 大慌てで頭を下げるとリオナは高速で後ろに下がってしまった。 

 完璧で粗もない様に見えた彼女の意外な一面だ。

 彼女もその身分ゆえ、忌憚なく話せる友人などいなかったのだろう。

 だからついマリー師範代と話している内に高揚してやらかしてしまったのだ。

 そういう姿も微笑ましくていいな。

 おっといけないいけない。

 俺も修行も集中しなくちゃな。

 頬を人叩きして気合を入れ直すと師範代に頭を下げた。


「師範代、それではよろしくお願いします!」

「ああもちろんさ! びしばしいくから覚悟すように!」

「はい、お願いします!!」


 俺達は真剣な顔に戻ると修行を再開した。




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