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第1話 見慣れた天井は何処に?

 何の代わり映えもしない日常。

 いつもと変わりない平和な日々。


 そんな当たり前が当然の様に続くと思っていたけど、眠りから覚めた俺の目に飛び込んできたのは、見慣れた天井じゃなかった。

 それだけじゃない。

 ベッドはベッドだが、病院を連想させる様な白い清潔なシーツと毛布にいつの間にかくるまされていた。

 身を起こしたが、体は快調そのもので、特に病院に担ぎ込まれる理由に思い当らない。

 

「……ここは?」

「にゃ、目が覚めたようですにゃ。すぐセレナを呼んで来ますにゃー」

「えっ!? ちょっ、ちょっと、待って! 君は……」

 

 唐突に少女に話し掛けられたと思ったら直ぐに身を翻し、こちらの言葉も聞かずに部屋から出て行ってしまった。

 彼女の話通りなら、誰かを呼びに行ったのだろう。

 それよりも問題なのは、少女の頭の上に猫科の様な可愛らしい耳がついていた事だ。

しかもまるで生きているみたいに動いていた。

 とても作り物には見えなかったし、あの動きは機械的な感じが全くしない。

 つまり本物という事になるが、生まれてこの方猫耳が生えた少女と出会った事などない。

 とするならば自分の今の状況はもしや……、


「よかった、目が覚めたようですね」

「!?」


 思考に埋没している所に声を掛けられ、呼ばれた方に首を曲げると、そこには絶世の美女がたっていた。

 美しい白い肌、長い手足にスリムな体型、そしてどこか幻想的な美しいかんばせ

 女優でさえここまで美しいと思える人は見た事はない。

 それに最も印象的なのはその長い耳だ。

 まるでお伽噺に出てくる様な姿そのものだ。

 そう、彼女は、


「……エルフ」

「はい、私はエルフ、エルフ族のセレナです。漂着者ドリフターだと判断しましたが、あなたの世界にもエルフはいるのですか?」

「いえ、私の世界にはエルフはいませんよ。それと漂着者ドリフター、ですか?」

「別の世界からこの世界に流れ着いた人達の事を、私達は漂着者ドリフターと呼んでいます。ここは終着世界フェオリナ。人も物も、善も悪もなく、この世界にはあらゆるものが流れ着くのです」

「……」


 漂着者ドリフター

 彼女の言が正しいなら、地球からこの世界に流れ着いた、という事になる。

 わざわざ俺を騙す意味もないし、彼女が嘘を付いている様にはとても見えない。

 正直、彼女の美しさは地球人では到底真似できそうにない。

 それと、さっきから疑問を感じるのだが俺は本当に日本語を話しているだろうか?


「そういえば、言葉が通じるのですね?」

漂流者ドリフターがこの世界に転移すると、勝手に文字や言葉が理解できるようになるのにゃ! 便利でうらやましいにゃ~」


 なんともご都合主義な展開だ。

 だが、それなら認めるしかない。

 ここは異世界で、俺は何の因果か異世界に転移してしまったんだ。

 しかし、そうやって彼女の言葉を受け入れ落ち着いてくると、嫌な予感が首をもたげてきた。

 彼女はさきほどこの世界を何と言った?


「終着、世界?」

「もうそこに気が付いたのですね。残念ながら、あなたの予想通りかと思います」


 彼女が悪いわけではなかろうに、申し訳なさそうに事実を告げようとする姿が痛々しい。

 気付けば彼女の次の言葉を紡ぐ前に、言葉を発していた。


「それじゃあ! 私は帰れないのですね?」

「……この世界に転移してきたり、勝手に流れ着く事はできますが、ここから出る事だけはできないのです。有史以来、数多の漂着者ドリフター達が自分の世界に帰ろうと挑んだけれど、誰一人として成功した者はいません」

「そう、ですか……」


 ある程度名前から予想していたわけだが、実際に言われると結構くるものがある。

 もう帰れない。

 もう二度と家族には会えないし、実家にも戻れない。

 そう考えるだけで、心が痛くなった。

 三十過ぎても独身の親不孝者であったけど、それでもこんな自分を家族は慈しんでくれた。

 再会は叶わない。叶わないんだ。

 悲壮感が押し寄せ、自然と顔が強張った。

 そんな俺の頭が唐突に撫でられた。

 先程の猫耳の少女が、いつの間にか戻ってきて励ましてくれている。


「元気出すにゃ! 生きていれば色んな事があるにゃよ。下を向いてもいいけど、それでもいつかは立ち上がらなくちゃダメにゃ!!」

「君は?」

「彼女はイーニャ。彼女は戦争孤児で冒険者ギルドに引き取られ、今は医療補助をやってもらっています」


 セレナさんから淡々と告げられた真実。

 まだ10代、多く見積もったとしても10代の半ばぐらいの少女の、何と波乱万丈な人生なことか。

 平和呆けしたアラサーのメタボおっさんの自分とは、比べ物にならないぐらいだ。


「現在この大陸は5つの国家と中立地帯であるここ、アルバインで成り立っています。皆アルバインの富が欲しくて諍いを起こしており、国境付近の小競り合い等頻繁に起こっています」

「戦争だって頻繁に起こっているにゃよ! だから、リーニャみたいな子は一杯いるし、ギルドに引き取られた分、かなりましな方にゃ!」

「まだまし、ですか……」

「奴隷に落とされるのは勿論、敵国に攫われて玩具や見世物にされる例もあります」


 なんて危ない世界だ。

 アルバインは中立地帯だという話だけど、この場所の富を狙っているとも言っていいたな。それを考慮すれば、此処は必ずしも安全というわけじゃないらしい。

 先程の悲しみはどこえやら、危険な世界に来たという恐怖が身を竦ませた。


「そうにゃ~、ここは怖い世界にゃよ。おっちゃんみたいなポヤポヤした人は、すぐに痛い目を見る羽目になるにゃ!」

「脅かさないでくださいよ」

「いいえ、事実です。いきなりで申し訳ありませんが、ここも安全ではありません。酷な事を告げて申し訳ありませんが、自分の身を護るためにも早々に現実を受け入れてください」

「そう、ですか……」

「そんなあなたに、私からいくつか選択肢が提示できます」


 怒涛の展開にあたふたしている俺に、セレナは洗練された瀟洒な仕草で話し始めた。


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