第13話 実戦的魔法塾
翌る日、爽快な気分で目覚めた俺は朝食を済ませた後、早速魔法を習得すべくセレナさんに貰った地図の場所に赴いた。
向かった先は、アレクセイ流実戦魔法塾という所だ。
守衛に紹介状を渡し、案内に着いていくとゼーニック流と同じ塀に囲まれた青空道場の様な場所についた。
早朝という事で人は少なく、あちらこちらに的や黒板らしきものは見られるが、研究や改良というより、修行や魔法を用いた戦いに重きを置いているようだ。
そこで待つことしばし、俺よりやや上と思しきぼさぼさ髪に、無精ひげを生やした男がやってきた。
「ふああああっ……。あんだが漂流人で、その年で冒険者を始めたっていう奇特な人で、あってるかい?」
「ええその通りです。御村慶一と申します。本日はよろしくお願いいたします」
「ああ、俺はレイノルド・ディエス・アレクセイ。まっ、アレクセイの姓はあるが、ただの傍流だ。レイでもレイノルドでも、師匠でも、好きなように呼んでくれ」
「はい、レイノルド師匠」
「よろしくな……」
面倒くさそうに頭をぼりぼり掻く姿がまさに怠惰な中年といった風だが、見てくれや態度は重要ではない。肝心なのは、俺にとって有益な師であるかどうか、という事だ。
「さて、やるとするか。お前さんが知っているかわかんが、アレクセイ流は実戦での魔法の使用を第一とした流派だ。まず魔法は、発現の仕方によっていくつかに大別されている。具体的には呪文の詠唱を行なう詠唱魔法、魔法陣などを地面に描画したり予め巻物に書き記して発現させる陣形魔法、あるいは何らかのものと契約を交わし、その力を借り受ける契約魔法なのだ」
「なるほど、色々ありますね」
「うちでは特に詠唱魔法、特に簡略詠唱法や無詠唱に力を入れている。理由はわかるな?」
「実戦での使用を考えて、極力無防備な時間を短くしたという事でしょうか?」
「そうだ、慣れてくれば戦う動きの中で詠唱できるようにもなるが、それはそれで別の危険性を孕んでいるからな」
「詠唱に思考を取られて反応が遅れたり、判断ミスが起きるからですね」
「ああ、そういった事故の可能性を極力排除するために、俺達の流派は努力したわけだ」
まさに冒険者が使うの相応しい流派だな。
おそらくはゼーニック流と同じく、この都市の魔法側での最大流派かそれに近い存在なのだろうが、実戦を想定した思想は実に俺好みだ。
セレナさんには感謝してもしきれないな。今度何か差し入れを持っていこう。
「さて、まずはお前の中の魔力を呼び覚ますぞ! ギルドから予め聞いているが、既にLV10で魔力もきちんともっている、で間違いないんだよな?」
「はい、間違いありません」
「そのLVなら魔力を感じるのも早いだろう、右手を出せ」
「わかりました」
言われるままに手を出すと彼に摑まれる。
そして何の逡巡もなく、捕まえれた右手を通して俺の体に魔力を送り込まれた。
彼の赤い魔力が右手からそのまま右足に向かい、左足から左手を通り頭に向かいまた右腕と、俺の全身隈なく魔力が行き渡りゆっくり廻り出した。
ふむ、気の循環ではないが、これはこれで興味深い。
昨日と同じく目を瞑り、静かに自分の中の観察に努めていると、程なくして気とは別の力がある事に気が付いた。
知覚してしまえば簡単だ。
気と同じく俺の意思によって新たな力が!
魔力が発現した!!
それは眩い銀色の力だった。
しかし、気の黄金色といい、どうして俺の力は無駄に派手なんだ。
まるで俺が自己顕示欲の塊みたいじゃないか。
まあいい、話を戻そう。そういえば魔力は万能の力で気に近いものだという話だ。
もしかしたら、気による肉体や武器の強化と同じことができるかもしれない。
発露したばかりの魔力を俺の意思を総動員して、全身や念のため持ってきた武器や服の強化を命じる。
すると、どうだろう。
瞬く間にレイノルド師匠の魔力を弾き飛ばし、全身を強固な魔力を纏うと、更には武器や服も覆いつくした!
「これが魔力ですか。気での肉体強化、武器強化や防具強化と同じことができるか試してみたのですが、これであってますか?」
レイノルド師匠の眠たそうに細めていた目が一瞬大きく見開いたが、慌てたように普段の大きさに戻された。
「……それであっている。アレクセイ流では肉体強化をストレングス、夫々の強化を武器強化、それと防具強化と呼んでいる」
「覚え易い名前でいいですね!」
「魔力の扱いも気とほとんど同じだ。気の放出はもう習ったのか?」
「ええ、ある程度教えて頂きました。気弾や気飛剣、気流波の事ですよね?」
昨日はあれから習った技の習熟だけでなく、遠距離攻撃用の技も教えてもらっていたのだ。気弾は文字通り気で作った球を打ち出し当たれば内包された気が炸裂する技で、気飛剣は気の刃を飛ばす技だ。
気流波は気の奔流をぶつける技で、エネルギー光線みたいなものを想像してもらえればOKだ。
どれもラノベや漫画でお馴染みの技だ。
それと、レイノルド師匠の質問は、おそらく習っているなら魔力で同じ様にやってみろ、っという事だろう。
推論だが、攻撃手段としてだけでなく詠唱魔法を覚えるのに必要なはずだ。
出会ったばかりであるが、彼は直接的で面倒を嫌うタイプだ。
だからこそ、彼の言葉には何某かの意図が含まれているはずなのだ。
その推測に従って、師匠の発言の前に魔力の球の作成を試みる。
「そうだ、それを魔力でやって……、もうできているようだな」
「やはり、これが必要になってくるんですね」
「そうだ、それぞれ魔弾に魔飛剣、魔光線と呼ぶ……って、これも一発でできるのか」
「あっ、はい。試したらできました」
魔力でやるといっても、ここまでは気の操作のおさらいというか、応用みたいなものだ。
躓く要素はあまりない。
「ここまでできると本当に初めてなのか、疑問に思えてくるな」
「もちろん初めてですよ。でなければ、わざわざ習いに来ませんよ」
「そうだよな。受講料は初級とはいえ安くはない。いや、わかっていたが、お前の習得層度があまりにも異常だから、既に拾得した者が冷やかしにきたって言われた方が、まだ納得がいったぜ……」
「あはははっ……」
そう言われても反応に困る。
他人と比べられても、試したらできただけなんだから……。
そういえば、気と魔力か。
よく高等技術として気と魔力を併用して使う技があるよな。
俺は何の気なしに気と魔力を別々の手に宿すと、胸の前で合掌してみた。
「なっ!? 馬鹿っ、やめろ!!」
「うぉっ!?」
吹っ飛ばされた。
気付くと、俺は何mも後ろに吹っ飛ばされていた。
予想はできていたが、気と魔力の反発具合が想像以上だったのだ。
気と魔力が弾け飛び、その恐るべき衝撃によって踏み止まる間もなかったというわけだ。
「ったく、何をやってるんだ!! 漂流人だからなのか、行動に常識がねえ。無さ過ぎるぜ!」
師匠が苛立ちぎみに髪をぼりぼり掻きまくっている。
続けて説教しているようだが、正直頭の中に入ってこない。いや、来ていない。
多分、今の俺は嗤っているんだろう。
新しいおもちゃで遊びたくて仕方がないんだ。
吹っ飛ばされた痛みも、いつの間にか流した鼻血も無視して立ち上がると、また同じ様に手を合わせる……、
「気と魔力が反発するなんてのは、子供でもしってる事だ! いいか、気と魔力を合一させるのは超高等技法なんだ! それができるのは一部の限られた、それこそ天才と呼ばれるものだけだ。おいっ、聞いてるか! って馬鹿、無茶するな!!」
「……」
申し訳ないが、敢えて師匠の静止は無視させてもらう。
気と魔力が反発しあう?
超高等技法?
限られた天才にしかできない?
上等じゃないかっ!
それなら俺にできない筈はない!!
いや、俺だからこそできるんだ!
反発し合い、荒れ狂う力が俺を打ちのめそうと暴れまくる。
何とか踏ん張っているが、一瞬でも気を抜けば暴発しそうな雰囲気だ。
至近距離での爆発だ。下手すれば大怪我するかもしれない。
そんな危険な状況の最中、俺は楽しくて仕方なかった!
久しぶりにお前じゃ無理だと言われたというのも、もちろんある。
難しいものに挑んでいるという、この状況が好きなのも事実だ。
一度失敗し、俺の負けん気に火が付いたのも確かだ。
そんな色んな条件が合わさり、困難に立ち向かう今が楽しくて楽しくて堪らないんだ!!
だけど、不思議と失敗して終わる未来は来ない確信があった。
試練に立ち向かっているのは、俺だ!
そして何より、戦っている、いや立ち向かっているものは俺自身の力なのだ!
俺が、俺自身の力を扱うのだ。
失敗するわけがない!!
俺の力よ!
俺の意思に! 俺の思いに応えてくれ!!
「……一体、お前は何なんだ?」
どれほど時間が経ったのだろう。
数時間とも数分とも思える曖昧な刻が経った後、俺の力は俺のものになっていた。
金でも銀でもない、新たな力。
眩いばかりの白銀の力だった。
それが気と魔力の合一によって得られた、新たな力であった。




