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珠の実
雨が上がった朝の風景だった。「僕」は誰もいない境内を歩いていた。鼻で空気を吸うと雨上がりの匂いがした。
境内には杉が乱立している。普段は生えている植物を気に留めるでもなく通り過ぎていくだけだったが、何故か今日だけは近づいてよく見てみようという気になった。針葉樹と呼ばれるように、細く鋭い杉の葉は自分のなかのイメージでは先端を触れると痛いと感じてしまうほど固く尖ったものであるはずだった。しかし、触ってみると案外柔らかい。杉の細い葉に何やら丸いものが付いている。近づいてみると葉の先に水の球が付いていた