扉のトリック
「犯人はコイツだな……」
警部はそっと顔写真を指さす。
時は半日ほど遡り、その日の15時。
少々年季の入ったホテル、406号室で事件は起きた。
殺人事件だった。
被害者は28歳女性で名家の出身。このホテルには催し物で家に古くからある掛け軸を展示するために来ていたらしい。
その展示するための掛け軸は部屋の中から見つからない。
物取りの犯行とみて間違いなさそうだ。
殺害方法はいたってシンプルで、被害者がベッドで仮眠をとっている間に、安物の出刃包丁を胸に一突きされていた。
問題があるとすれば、この部屋の鍵が被害者の部屋に残っていた事。
要するに密室殺人であったのだった。
寝ている被害者女性の部屋にどうやって入ったかが問題であった。
スペアキーはホテルのカウンター内にしか無く、また複製するにも隣の町まで行かなければならず、しかもホテルのロゴが付いているキーを見てスペアキーを作るような業者はまずいないだろう。
犯人はおおよそ見当はついた。
展示関係者で3人、被害者の主治医、展示会の設計士、それと被害者と親しくしていたホテルのボーイ。
ホテルの客・従業員に持ち物検査を依頼したところ、断られてた中で被害者に接点があったのがこの3人であった。
このご時世、無理やり持ち物検査をして白だったら、名誉棄損で訴えられかねない。
密室のトリックさえ解明できれば、犯人はきっと自白するであろう。
鍵の位置は扉の近くにあるホルダーに入れられていた。
ホルダーは電灯のスイッチも兼ねているため、釣り糸のようなトリックで鍵をその場所に居れることは不可能。
扉の方はオートロックで、内側からは簡単に開けられるが、外側のドアノブは鍵を刺さないと回せない仕掛けになっている。
つまり扉はドアノブをまわしたときに動作する「爪」だけで施錠された状態である。
扉には上下左右に隙間が1.5ミリほどあり、またドアノブ側は扉の防音用に部屋の内側の方で密閉される形となっている。
ドアノブの爪は外側からは見える形になっている。
警部はそのドアの隙間を見て考える。
「このドアなら、あの道具があれば……」
そして、今。
警部の指さした設計士が逮捕された。
推理通り設計士は、職柄あの道具を持っていたからだった。