表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

短編集

彼女と僕の満ち足りた宵に

作者: 瀬川雅峰

古すぎる原稿のお蔵出し。

…他の作品から読んでいただくことを勧めます。


 明かりは落ちている。

 部屋の薄暗がりの中に浮き上がっているのは、白いシーツと、その上に横たわっている彼女の裸身だ。僕が彼女に向かって歩き出すと、何かが顔に当たった。


――?


 蠅かなにかの虫だったらしい。まったく野暮な虫だ。

 僕はにこやかに、ベッドにうつ伏せに寝ている彼女に近づき「だーれだ?」と言いながら彼女の目を隠してみた。と思いきや、少々力を入れすぎたのか、左中指の腹が彼女の左まぶたに挟まってしまった。指先にほんのすこし、瞳の表面のぬるりとした感触があって、すぐに手を離した。起こしちゃったかなと思ったが、返事がない。


――最近はいつもそうだ。よっちゃん――彼女の名前だ――はなぜか元気がない。いつもこうやって夜は僕より先に寝てしまうし、昼間だって寝室に閉じこもっている。何か理由があるのなら話してくれればいいのに……そう思いながらも、心優しい僕は努めて明るく振る舞っている。


 「おいしそうなよっちゃん!たーべちゃうぞ!」


 僕はそう言いながら、よっちゃんを抱き起こした。どうやらぐっすり眠っているみたいだ。彼女を揺り起こそうとしてみたが、一向に目覚める気配はない。僕はだんだん馬鹿らしくなってきて、彼女を元の姿勢に戻した。

 なんとなく周りを見回す。周囲に豆が落ちていることに気づいた。黒豆のようだ。食べてみると、これがなかなかいける。僕は彼女にも食べさせてあげたくなって、何粒か拾って、眠っている口に放り込んでみた。それでも起きる気配がない。なんてしぶとい。


 仕方がないので、彼女の体でもマッサージすることにした。そう、このマッサージは僕の得意技なのだ。好きな女性には美しくあって欲しいと思う気持ちは、古今東西を問わず男の願いだからね。

 しかし、今日は少々驚いた。今日に限って彼女、やたらと垢が多いのだ。手を揉めばズルズル、足を揉めばズルズル、まったくもって参った。でも、山のような赤黒い垢に負けずにマッサージしただけはある。彼女の手足は見違えるように真っ白になった。おまけに少しばかりスリムになったみたいだ。


 先ほどの黒豆をもう少しつまんで、一人悦に入ったあと、彼女の唇におやすみのキス。

――なんだ、彼女、口の中にいっぱい黒豆ほおばったまま寝てるや。

 

 そして彼女に忠告――


「よっちゃん、ここ二週間、君はご飯も食べないし、お風呂にも入んないじゃないか。そんなことじゃ、今に体がやせ細って真っ黒になっちゃうぞ」


――そう言って笑いながら彼女の頭をこづいたら、目や耳や口、ほかにもたくさん、おなかとかから、黒豆がぴくぴくうねりながら、たくさんたくさん出てきたんだ。


(了)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍情報はこちらのnoteにまとめております。
i360194
― 新着の感想 ―
[良い点] 短いながらも異様なシチュエーションと怖気の走る展開に、散々言われるのも納得の気味の悪さが感じられる、ホラーらしい作品になっていたと思います。 冒頭の時点で既に彼女が死亡しているとの察しはつ…
[良い点] 黒豆?なんかカワイイなって思ったら超キモかった。だが、それがイイ!
[良い点] 先生の若さが見える作品でしたね。いえいえ、悪い意味ではなく。 直しを入れず、青いまま出している潔さにも感服です。ビビリの私にゃ出来ません……。 しかし、さすがというか、広い作風をお持ちで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ