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5:魔王の過去と新しいヌシ(魔王視点)

 現在カルロは自らの服を取りに、洞窟の奥――数十年の眠りから目覚めた場所へ向かっている。

 新しいダンジョンのヌシであるモエギにそう指示されたからだ。


(解せぬ……)


 魔王をこき使える者など、ダンジョンのヌシくらいだ。複雑な思いではあるが、不思議と嫌ではない。

 ヌシといっても、現れたのは頼りないふわふわした人間。

 ゆるくウエーブのかかったアッシュブラウンの髪や猫のようにパッチリ開いた黒い瞳の弱々しい女だった。

 しかし、出会ってさほど経っていないうちから、カルロはモエギを気に入り始めた。

 見た目とは裏腹にたくましい彼女の前向きな性格を。


 この世界には、大きな海を挟んで魔族の住む大陸と人間の住む大陸があり、お互いに不干渉を貫いている。

 たまに接触はあるものの、関わりはほぼない。


 また、人間の大陸にはいくつかの国が、魔族の大陸にはいくつかのダンジョンが存在し、それぞれに王が存在している。

 国とダンジョン、王と魔王はやや定義が異なるが似たようなものだった。


 ダンジョンの原型は創世神が作り上げ、ヌシと呼ばれる者が独自の要素を交えて発展させていく。

 当然、魔王にもヌシにも特性の差や力の差が存在していた。

 カルロは魔王として力の強い方だと自負している。

 本来なら、今のようにダンジョンが朽ちることなどないはずだったのだ。


 だが、運は持ち合わせていなかったらしい。

 前回カルロについたダンジョンのヌシは、どうしようもなくやる気がなかった。

 以前のヌシは、創世神の導きにより人間の大陸から呼ばれたという普通の男。

 ヌシの力を持つ者は少なく、ヌシを得るには創世神に与えられるか、他の魔王のヌシを奪わなければならない。

 ちなみに、魔王も自力で魔王になる者と、創世神に魔王の地位を与えられる者とがいた。

 カルロは創世神にスカウトされ、創世神にヌシを与えられたという恵まれたクチだ。

 ある日、自分の前に創世神が現れ「お前は力が強いから魔王になれ」と告げられた。

 その際、ヌシとしてその男を与えられたのである。

 彼は創世神によって強制的に連れてこられた人間だった。元は人間の大陸で平和に暮らしていたという。

 創世神は気まぐれで、突飛な行動を取ることで知られていた。


 しかし、運がよかったのはそこまでだった。

 カルロに与えられたヌシは、ただ魔族を恐れるばかりで何もしようとしない。

 完全にハズレ――

 仕方なく、ダンジョンの経営は半ば彼を脅す形で行った。


 カルロは魔王として、精一杯ダンジョンを発展させようとした。

 部下を増やし力をつけようと……モンスターたちが住みよいダンジョンにしようと努力し続けた。

 だが、魔王一人では駄目なのだ。

 ヌシの力がないと、ダンジョンは発展できない。発展どころか維持さえ難しい。

 カルロは自分の無力さを痛感せずにはいられなかった。魔王だというのに、情けない限りだ。


 そんなダンジョンが長くもつはずもなく数十年の後に崩壊してしまい、魔王のカルロは長い眠りについたのだった。

 本来なら魔王自身もダンジョンと共に滅ぶはずだったが、創世神の慈悲で眠りにつき生きながらえることができたのだ。

 カルロは待った、ダンジョンを再興してくれる新しいヌシを。待ち続けた。


 そうして、数十年の時を経て、ついに新しいヌシが現れた!

 眠っていたカルロを目覚めさせた創世神が「新たなヌシがやって来る」と告げたのだ。「今度のヌシは異界から呼び寄せたから、期待していろ」と。


 しばらくして現れたのが、新しいヌシのモエギである。

 彼女は年若く、この世界のことを何も知らない。

 今度は怯えさせないよう、カルロは精一杯優しく振る舞おうと努めた。

 自分の顔が異性に受けがいいのも知っている。異世界の――それも魔族でなく人間の女に通用するのかは謎だったが。

 そんな感じで接していたら少し打ち解けたようで、なんと名前呼びする仲となった。

 以前のヌシとは十年以上一緒にいても、そんなことにはならなかったのに。


 しかも、今度のヌシはステータスがすごそうだ。

 前のヌシは出来ることが少なく、さらにステータス自体も低いようだった。

 ダンジョン整備だってできず、自力でなんとかするしかなかったのだ。

 その上、モエギ本人は割とやる気で、さっそくダンジョンの整備や畑作を行っている。


 それに……なんといっても、モエギの作り出す料理が美味い!

 最初は得体の知れない食べ物を警戒していたが、モエギも彼女と共にいた鳥も普通にしている。

 しかも、その食べ物からはとても食欲をそそる匂いがした。

 試しに一口食べてみると、手が止まらなくなったのだ。

 あんな食事をしたのは初めてだし、彼女はヌシのスキルなしでそれをやってのけた。

 毎日、生の敵モンスターや適当に茹でたモンスターを食べていた日々が嘘のようだった。


 モエギは、以前は下級モンスターに任せていた面倒な洗濯まで引き受けてくれるという。

 だから、服を運ぶよう命令されても、カルロはただ黙って従うのだ。

 この素晴らしいヌシと仲違いするようなことがあってはならない!


 数十年の眠りについていた間は、身につけているものも時が止まるので、今着ている服は当時のまま綺麗だ。

 また、服などを入れてある宝箱なども、中の時間が進まないので当時のままの状態で保存されている。

 だが、これから生活するにあたり、浄化魔法を使えない身には洗濯が必要だ。


(今度のヌシとは良好な関係を築きたい。モエギなら尚更……)


 そんな思いを抱きつつ、近くの宝箱に眠っていた魔王装備一式を抱えたカルロは、いそいそと彼女の部屋を目指すのだった。


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