42:川から海へ
助けた二人の人間は、少なくとも私たちヌシに対し、好意を抱いてはいない。私やリーリアを嫌っているのではなく、モンスターに友好的な人間を前に驚きを隠せないようだった。
二人は、禿鷲のダンジョンで散々な目に遭ったので、憎らしいモンスターに肩入れする人間を理解できないのだろう。
今まで彼女たちは、私が突貫で作った魔王城医務室もどきで眠っていた。けれど、二人からは、すぐにでもこの場を出て行きたいという空気を感じる。
二人にとってはそれが最善だと思うので、止める気はない。ダンジョン内には他のモンスターもいるので、彼らには去ってもらった方がいい。
(これからは、モンスターたちにかかわらずに、人間の大陸で平和に暮らして欲しいな)
人間とモンスターの双方にとって、それが一番平和でいい道だ。
「私たちは、すぐにでも人間の大陸へ帰るつもり。ここは禿鷲のダンジョンの近くかしら? 簡単な地図を持っているから、あそこからから海までの道は知っているわ。ただ、道中が少し心配」
魔石を使った移動アイテムを握りしめ、女性冒険者が言った。
「せめて、一緒に川まで一緒に来てもらえない? モンスターではなく、人間のあなた方にお願いしたいわ」
「ここから川は近いですし、私はいいですけど」
そう答えると、リーリアも「私も大丈夫」と言って頷いた。
「なら、善は急げだ」
男性冒険者は最低限の荷物を整え、全員を急かす。
手元に残った簡素な武器や装備、餞別として渡した食料や衣類を袋に詰めて、彼らは立ち上がった。
私の案内で、複雑に入り組んだダンジョンの出口へ向かう。
外に出て、カフェやらホームセンターの残骸を見た彼らは、見慣れない建物を前にして驚いている。
二人の反応を見て、この世界の人間の文明レベルが、前世より遅れていると確信できた。
私は、不完全なホームセンターから、レジャー用の二人乗りカヌーを持ち出して運ぶ。
ダンジョン内での私は、無敵で怪力の状態なのだ。
リーリアには、もしもの時用に二人分のライフジャケットを運んでもらった。軽量なので……
回復して間もないものの、確かな足取りの二人を連れ、私は川のある方向へ歩を進める。
背の低い草や砂を踏みしめながら歩いていると、サワサワと水の流れる音が聞こえてきた。
「ついたわ、ここでお別れね。できれば、今後はモンスターの大陸にかかわらずに過ごしてもらいたいの。この大陸は危険な場所でもあるし、平和に生きたいモンスターもいる」
「それは……」
ホームセンターから持ち出したカヌーを川に入れ、冒険者たちに乗るよう指示する。今いる川はダンジョンの外だけれど、すぐ戻れる位置にあるので大丈夫だろう。
先に女性冒険者がカヌーの前に乗り込み、私を振り返って言った。
「あなたの要望には応えられないけれど、今回のことでは、とても感謝をしているわ。助けてあげたいと思うくらいには」
「え……?」
聞き返すと同時に、頭の後ろに衝撃が走った。
視界が暗くなると同時に、一緒に来ていたリーリアの叫び声が聞こえる。
(リーリア!? 逃がさなきゃ!!)
けれど、私の意識がもったのは、そこまでだった。




