41:二人の冒険者たち
さらに、人間たちも目を覚ました。
二人の男女は、モンスターたちを見て動転している。
しかし、私や禿鷲のダンジョンで一緒だったメンバーを見て、大体のことを把握したみたいだった。
彼らの職業は、やはり「冒険者」らしい。
「助けてもらったようだな、感謝する。モンスターの大陸でヘマをしてしまい、禿鷲の魔王に捕まってしまったんだ」
男の冒険者が言うと、女の冒険者も続く。
私が人間だとわかったためか、彼らはいくらか緊張を解いたようだ。
「そのあとは、奴隷労働よ。不衛生な部屋に閉じ込められるし、地獄だったわ」
二人とも、モンスターは懲り懲りという風だった。
彼らの目覚めに際し、私は予めカルロやチリに質問していた。人間の大陸に彼らを戻せないかという内容だ。
一応、不可能ではないらしい。というのも、こちらに来る冒険者は人間の大陸から海路や空路でモンスターの大陸へ渡って来るからだった。
人間は魔法を使えないけれど、魔法を宿した道具を使うことで大陸間を渡れるという。
その道具の核には、「魔石」と呼ばれるアイテムが使われているのだそう。「魔石」は、死んだモンスターの持つ「魔力の結晶」で一体につき一つだけ採れる。魔力の大きいモンスターほど、魔石も大きく立派になるらしい。
冒険者は、魔石を集めて人間の大陸へ供給する役目を負っている。
向こうでは、魔石が驚くほどの高値で取り引きされているそうだ。
ただ、人間はモンスターの大陸の秩序を知らず、片っ端からモンスターを狩っては魔石にして持ち帰った。
そのことに憤りを感じている魔王も少なくないみたいだ。
自分の部下が魔石目的で殺され、人間を憎み、出会った傍から攻撃する者も多い。彼らの行動は、その他のモンスターにも影響を与える。
リーリアがことさらモンスターを恐れていたのも、そういう理由があったからなのだった。
私は、冒険者たちに話しかけた。
「怪我は酷くないから、すぐ元気になると思う。完治したら、人間の大陸へ帰った方がいいわ」
転移の魔法を使えるモンスターなら、すぐに人間を返せるそうだが、カルロはそれが使える種族ではないとのこと。他のモンスターもできないようなので、彼らには自力で帰ってもらわなければならない。
幸い、禿鷲の魔王の城から回収したアイテムの中に、海路を移動する道具があった。魔石の使われた、人間用のものだ。
「これを使えば、あなたたちは故郷へ帰れる。できることなら、もうモンスターの大陸に関わらないで」
そう言い置き、私は女性にアイテムを渡した。
「あなたたちも、一緒に来ない? モンスターの大陸は危険だわ」
女性は私とリーリアを見て言った。けれど、私たちは首を横に振る。
「いいえ、ここでやることがあるから」
「こんな場所で、何をやるというの?」
彼女の問いに、私たちは目配せして頷き合った。
「私たち、ダンジョンのヌシなんです。人間だけど、モンスターと暮らしています」
冒険者たちは、それぞれ驚きの表情を浮かべている。
私は、彼らの仕草から複雑な感情を読み取った。




