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3:魔王とヒヨコと一緒にごはん

 色々なことが立て続けに起こり、私は少々疲れてしまった。

 帰宅途中のまま創世神に会い、異世界のダンジョンへ迷い込んだのでお腹も空いてきた。

 だが、洞窟には、私の食べられる食べ物なんてなさそうだ。

 人里へ移動したいところだが、そう提案した私を美形魔王が止めた。


「ヌシが用もなくダンジョンを留守にするのは良くない。特に今のような状態では、何かの拍子にダンジョンが壊滅してしまう恐れがある」

「でも、お腹が空いて……」

「そうだな。私も目覚めたばかりで何も食べていない」


 私たち二人の目が、小さなヒヨコへ移動した。


「ピィッ!? チリは美味しくないですよ!? 食事なら、ヌシ様の力で出せば良いのです!」

「無茶振りだわ」

「創世神様から頂いた力を使うのです! ステータスの2ページ目を開くのです!」

「2ページ目!?」


 そんなものがあるのかと、スマホのステータスを開き直すと、確かに2ページ目があった。


■ステータス■P2

<スキル>(レベルにより出来ることが増えていく仕様)

畑作:レベル1(畑で日本の作物を育てられる。四季は関係なく収穫の早さはレベルによる。消費する体力は作物ごとに異なる)

勧誘:レベル1(下級モンスター1体をダンジョンへ呼び寄せることが出来る。体力を15・気力を15消費する)呼び寄せるだけで住まわせるとは言っていない。

整備:レベル1(ダンジョンを少しだけ整備する。体力を5消費する)

召喚:レベル1(1回限り、自室を呼び寄せることが出来る。体力10・気力20消費する)


 とりあえず、簡単な作業が設定されているようだが……私は絶望していた!


(食材は、畑を作るところから始めなきゃならないわけ!?)


 再び私たちから凝視されたヒヨコが、必死の形相で説明を続ける。

 表情は読みづらいが、目が真剣だ。


「だ、大丈夫です。チリはすぐに食料を調達できる方法を知っているのです! だから、チリを食べないで!」

「……えっと。じゃあ、どうすればいいの?」

「ヌシ様が一人暮らしをしていたマンションの部屋を呼び寄せるのです! 早く!」

「無茶言わないでよ……それに、なんであなたが私の部屋の情報まで知っているの?」

「創世神様は全能なのです! なんでもお見通しなのです!」

「なら、どうして、この洞窟をもう少しマシな状態にしておいてくれなかったのよ」

「それは、その方が面白いと言われ……いいえ、スミマセン、ヨクワカリマセン」

「なんで急に、スマホの音声機能みたいなしゃべり方になっているの!?」


 コンビニやスーパーの食材を取り寄せられないか聞いてみたが、駄目らしい。

 田舎の実家や友人の家なども呼び寄せられないそうだ。

 何を聞いても「ワカリマセン」と言い張るヒヨコを責めてもどうにもならないので、私は早急に自分の部屋を呼び寄せることにした。

 理屈は分からないが、呼び寄せられるならそれに越したことはない。

 台所も風呂もトイレもベッドもない湿気た洞窟内で生活したくはないのだ!


「で、どうやって部屋を呼び寄せるの?」

「ステータスの『召喚』の項目を押すのです」

「分かったわ。召喚……っと」


 すると、目の前の景色が歪み、気付けば私は生前住んでいたマンションの部屋の中にいた。

 ごく普通の、六畳のワンルーム。キッチンや風呂やトイレも付いており、家電も揃っている。

 いつの間にか、魔王が私のベッドに寝転がっていた。


「これは、良い場所だな。ほら、ヌシも来るといい」

「……あなたの部屋じゃないんですけど?」


 ポンポンと自分の隣を手で示す美形に、私はなんとも言えない気持ちになる。


(確かに彼は魔性の類いね……魔王だということに納得がいったわ)


 隣で眠ったりはしないけれど、無駄に振りまかれる色気のせいでドキドキしてしまった。


「わ、私のことはモエギでいいわ。ヌシだなんて、なんだか厳つい呼び方だし。チリ、あなたもね」

「なら、私のこともカルロと」

「ええ。よろしく、カルロ……さっそくだけど、私はお腹が空いたの。冷蔵庫に残っている食材で料理を作るけど、あなたたちも何か食べる? あ、冷蔵庫って動いているのかしら?」


 首を傾げると、チリが「問題ありません」と答えた。

 驚くべきことに、別の世界に移転しても水回りやガス、電気などの使用は問題なく行えるらしい。

 どういう造りなのだと尋ねると「創世神さまのお力です」ということだった。

 超常現象に目くじらを立てても仕方がないので、ありがたく使わせてもらうことにする。


 備え付けの真っ赤なシステムキッチンの引き出しから、ドット柄の黒いエプロンを引っ張り出した私は、ささっと腕まくりをして料理に取りかかった。


(ふふふ、一応カフェのキッチンでアルバイトをしていたのよ。自炊なんてお手の物だわ!)


 異世界人(人というか魔王とヒヨコだけど)の好みに合うかは分からないが、とりあえず冷蔵庫にある材料で簡単な料理を作ることにする。


(とはいっても、困ったわね。冷蔵庫の中には卵三個とタマネギ1個と調味料しかないわ、あと酒ね。冷凍庫には、氷と……冷凍の鶏モモ肉)


 仕事としてカフェの料理は頑張るが、自分の食事は手抜き。

 それが私という人間なのだった。

 従って、冷蔵庫の中身は全く充実していない!


「幸いお米はあるし、親子丼にしようかな。鶏肉や卵を使うからチリは共食いになりそうだけど」

「チリは創世神様の遣いであってヒヨコとは異なるモノです。そういう心配はいらないのです」

「あらそう? なら、作っちゃうから、ちょっと待っていてくれる?」


 一人と一匹に言い残した私は洗った米を炊飯器にセットし、レンジで鶏肉を解凍し、親子丼を作り始める。

 一口サイズに切った鶏肉に刻んだタマネギを、醤油とみりんと砂糖に水を足してフライパンで煮立てたものの中へ投入し、まんべんなく火が通るように動かす。

 卵を三つ割りかき混ぜてほぐし、これも少しずつフライパンの中へ。

 良い感じに半熟状態になるまで煮たら、炊き上がった白ご飯に乗せて完成。


(ふっふっふ、我ながら美味しそう)


 とろりと蕩ける卵が、ほかほかの白いご飯の上に広がる。

 その上に、ほどよく茶色に染まった鶏肉が並んでいた。

 親子丼は、私の得意料理の一つなのだ。超簡単なのだけれど……


「はい、どうぞ」


 予備の皿やスプーンを引っ張り出し、私は魔王の親子丼を手渡した。

 チリのぶんは小さな皿に盛って出す。


「これは……?」

「私の世界の定番料理、『親子丼』よ」

「いい匂いだ、モエギの料理は不思議な造形だな。前のヌシとはモンスターの生肉とか、モンスターの焦げた肉しか食べてこなかった」


 前のヌシは一体何者だったのだろうか。私なら、そんな食事は絶対に無理である!


「魔王やヒヨコも普通に食事をするのね?」

「当たり前だ。眠っていた間は何も食べなくて平気だったが、目覚めた瞬間空腹に襲われた……何か狩りに行こうと思っていたところだったんだ」


 言いつつ、魔王カルロは親子丼をスプーンですくって食べ始めた。あつあつの卵や鶏肉から、白い湯気が立ち上っている。

 お箸でもいいかなとは思ったけれど、異世界の人……魔王が箸を使えるかは分からない。

 使えない可能性の方が高いので、とりあえずスプーンにした。


 チリは普通に皿を突いて食べている。見た目はヒヨコなのに、けっこうな勢いで鶏肉を食いちぎっていた。親子丼は気に入ってもらえたようだ。

 私は、カルロに料理の感想を聞いてみた。


「ど、どう……かしら?」

「…………これは」


 魔王カルロは警戒しながら料理を少し口に入れると、無表情かつ無言で咀嚼している。

 しかし、次の瞬間、猛スピードで親子丼を口へと運び始めた。

 仕草は上品だけれど、食べる速度は速く、スプーンが止まらない。

 全てを食べきったあと、彼は美しい唇から一言発した。


「美味い」


 口に合ったようで、ホッとする。


「そう? それなら良かったわ」

「こんな美味い食べ物を口にしたのは初めてだ……」

「大げさよ」


 カルロは艶やかな魔性の微笑みを浮かべていた。


「気に入ったのなら、また作ってあげるわよ。材料があればね」

「ありがとう、モエギ」


 毒々しく甘い笑みを浮かべられ、私は絆されないよう視線を外した。

 どうも、この美形過ぎる魔王は心臓に良くないのだ。

 彼にその気が全くないのは分かっているものの、落ち着かない気分にさせられてしまう。


(とにかく、このあとのことも考えておきましょう)


 目下の悩みは、食料の確保だ。

 創世神のおかげで、死亡後に生きながらえることが出来たものの、このままでは飢えまっしぐら。

 しかも、自分一人ではなく魔王とヒヨコを道連れに……なんて、ちょっと後味が悪い。

 その上、もともと責任感の強い長女気質なので、「彼らを養わなければ」という謎の使命感が湧いてきてしまった。


(何が何でも生き延びたい。というか、生き延びなければならないわね)


 やっぱり死は怖いし飢るのは嫌だ。出来ることならば、回避したい。


(よし。まずは、この部屋から出てみよう。運良く元の部屋を呼べたけど、洞窟の外の様子も気になるし)


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