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38:ヌシと魔王の力関係

「クローは見つかった?」

「まだだよ。早く見つけないと……大変なことになりそう」


 人型に戻ったフィオレは一見焦っているようだが、その割に行動に余裕が見える。

 どこから湧いてくるのか、彼の引き連れている蛇がそこら中で蠢いていた。


(まだまだ湧いて出そう)


 うねうねと増殖していく蛇たちは不気味だった。


「モエギ、念のため気配を……」


 カルロの声で、私は隠密スキルを発動した。

 隠密スキルは、私と私が触れているものの気配が消えるみたいだ。

 だから、ポケットの中のチリも気配が消えているはず。

 フィオレが「この奥が怪しい」と言う崖の中に入っていく。

 この峡谷の崖はところどころ穴が開いており、その中にモンスターたちが潜んでいる。

 その中の一つに禿鷲の魔王がいるはずだった。

 確かに、フィオレの指し示す穴は今までで一番大きい。

 敵ダンジョンのモンスターはフィオレがほぼ呑んでしまったので、あまり戦わずに済んでいる。

 戦うのは私ではなく、フィオレやカルロ、人魚を送り届けて合流したヴァレリだけだけど……


 洞窟を奥へ進んで行くと、大きな空間に出た。

 空を見上げることの出来る広い場所に巨大な鳥の巣がある。

 禿鷲の魔王はその中心に眠って……いや、倒れていた。


「あちゃ〜、遅かったか」


 フィオレは笑いながら巣の方へ歩いて行く。


「もう、クローってば。こらえ性がないんだから。勝手にあちこち出かけたあげく、攫われた先の魔王を倒しちゃうなんて。悪い子」


 私は「えっ?」と目を見張って巣の中心を凝視する。

 倒れているのは羽を生やした大柄な男だ。頭が禿げているのは種族の特性だろうか。

 見ていると、男の傍らで何かが立ち上がった。

 黒いフードを被った、見覚えのある少女だ。


「クロー!」


 隠密のスキルを解除して声を上げると、驚いた彼女が私を見る。


「おお、モエギ! 会いたかったぞ!」

「え、えっと、無事なの?」


 ドキドキしながら問いかけると、彼女は心外だとばかりに手を腰に当てた。


「何を言う。私がこんな低級相手に後れをとると思ったか?」

「いや、でも……」


 戸惑っている私に、フィオレが話しかけてくる。


「大丈夫だよ〜。クローは僕より強いから〜」

「へっ!? で、でも、助けに行くって……」

「僕は『迎えに行く』っていったよ〜。助けるとは言ってない」

「……そ、そんなぁ〜」


 こ、この嘘つき蛇!

 クローのことをものすごく心配していたのに。


(それにしても、クローってフィオレより強いの? 嘘でしょう!?)


 私の前に歩み出たクローは、胸を反らして口を開く。


「ふん。私がこんな蛇小僧より弱いわけがなかろう。生きている年月が違う」


 小僧って言っちゃった!


「クローは、フィオレより年上なの?」

「無論だ。こんな洟垂れ小僧と一緒にするな」


 私たちの会話に当のフィオレが入ってくる。


「酷いなあ。僕、これでも一人前なんだけど……そこのお子様魔王や子馬より格上なんだけど〜?」

「私から見れば全員小童だ。この禿鷲の魔王もな。というわけで、魔王を落としてやったぞ。感謝しろ、フィオレ」

「やったね! また領地が増えた。持つべきものは、頼りになるヌシだよねぇ!」

「お前、茨のダンジョンが気に入っていただろ? だが、あそこは狭い。この峡谷か岩山を落とそうと思っていたが……ちょうどいい具合に禿鷲の馬鹿が私を攫ってくれてなぁ。だから、こちらを手に入れることにした」

「ものすごく悪い顔してるね、クロー……」


 二人が会話を続けていると、禿鷲の魔王がうめき声を上げる。


「くそ、お前ら……例のダンジョン荒らし共か」


 禿鷲の魔王の言葉に、私は首を傾げる。


「ダンジョン荒らし?」


 カルロもヴァレリもよくわからないという風に首を横に振った。

 そんな私たちを見て、フィオレが苦笑しながら言う。


「いっぱいダンジョン潰していたら、いつの間にかそんな風に呼ばれちゃって〜。でも、荒らしているわけじゃないよ? 快適で楽しいダンジョンを探し求めているだけで」

「そうそう。ついでに冒険心を満たしているだけだ! フィオレはよく働く魔王で助かる。片付けもしてくれるしな」

「えへへ、褒められた」


 嬉しそうに笑ったフィオレは、蛇型になって禿鷲の魔王を飲み込んだ。


「……っ!」


 ペースの狂う二人に、私たちは何も言えずにいる。

 というか、今回の件……私たちはフィオレにまんまと利用されてしまったのではないだろうか。

 嘘つき蛇め! 許さん!

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