37:禿鷲のダンジョンと奴隷たち
禿鷲のダンジョンは、峡谷全体を跨ぐ小規模なダンジョンである。
崖に開いた穴が内部へと繋がっており、その中心部に魔王がいるそうだ。
内部は私たちのダンジョンと変わらないが居心地が悪い。
風呂やトイレが完備されていないので不衛生なのだ。異臭もするし……
うちのダンジョンは水洗面が完備な上、ゴミだって部屋のゴミ箱に入れると消えるミラクルな作りだ。石鹸などの消耗品はなくなると不便だが、以前呼び出したホームセンターに偶然あったので、銘柄を選ばなければしばらく困らない。
私たちは二手に別れ、ダンジョン内を捜索する。フィオレ率いる蛇たちとそれを乗せた天馬たち、あとはカルロとヴァレリと私の三人組だ。
フィオレたちはクローの奪還を第一に動いており、私たちは囚われの奴隷たちの解放を目指している。
異臭の漂うダンジョンを進んでいくと、一際臭いの酷い場所へ到達した。
敵のモンスターはおらず、ジメジメしていて汚い。奥に朽ちかけた扉がある。
「リーリアの話だと、この中に奴隷が収容されているみたい。用事のあるときだけ呼び出されて、普段はここに押し込められているんだって。彼女もここに閉じ込められていたと聞いたわ」
魔王の中には奴隷を精神操作したり、呪いをかけて逆らえない状態にする者もいるらしいが、禿鷲の魔王にはそういう能力はなく純粋に力のみで支配しているとのこと。
私の説明を聞き、カルロとヴァレリが頷いた。
「不用心な場所だな。私なら、モエギを絶対にこのような場所に置いておかない。ダンジョンの中心部に閉じ込めておく!」
「カルロ、得意げなところ悪いけれど、キリッとした顔で私を見ないでくれる? そんな場所に閉じ込めたら、あなたとは絶交するからね」
「……!!」
動揺し始めるカルロをヴァレリが笑う。
「ぎゃはは、カルロが振られた!」
「振られていない!!」
(この二人、意外と仲がいいのでは……?)
……などと思いつつ扉を開けると、中には衝撃的な光景が広がっていた。
「なに、これ……」
鎖に繋がれた奴隷たちと、元奴隷だったであろう残骸が並んでいる。
酷い臭いの正体は腐臭だったのだ。
床にはおおよそ食べ物とは思えない餌が散らばっており、糞尿も垂れ流されている。
生きている奴隷は人間や弱いモンスターたちだ。
人間は全部で二人、男性と女性が一人ずつ。
モンスターは人型をとれる者が多い。
全員弱っているようで、こちらに危害を加える気力もないようだった。
最初に近くにいた人間たちを保護して話しかける。
私を高位のモンスターと勘違いした二人は怯えたが、自分が人間だということとリーリアの話をすると落ち着いた。
すり切れた服が今にも破けそうだったので、念のため持ってきた上着を二人に渡す。
その後はモンスターたちを解放していった。生きていたのは全部で十体ほどだ。
ウルフが一体と人魚が五体、ハーピーが二体、シルキーが一体、スプリガンが一体。なんで種族がわかったかというと、スキルの「鑑定」を使ったからだ。
だが、彼らは弱っており、自力で逃げるのも辛そうだった。
「人魚は水中の方が回復が早い。皮膚が乾く方が問題だ」
そう言うと、ヴァレリは人魚を背中に乗せて崖の下にある川へ下りていく。
陸に揚げられた人魚は、もって半月ほどの命らしい。間に合って良かった。
その後、天馬を数体呼び寄せ、残りのモンスターや人間を岩山のダンジョンまで運んでもらった。
奴隷全員を解放した私たちは、クローを探しに向かう。
途中でたくさんの鳥型モンスターを丸呑みしているフィオレ(蛇型)に合流した。




