36:余所のヌシが仲間になった
リーリアが書いた地図をもとに、私たちはクローの救出作戦を決行することにした。
予め、フィオレが禿鷲の魔王に「うちのヌシ知らない?」と尋ねたところ、すっとぼけた回答が来たらしいので、容赦なく乗り込んでオーケーとのことである。
リーリアはうちのダンジョンのヌシ(二人目)に勧誘した。チリがものすごく勧めてきたのだ。
彼女本人は人間の大陸へ帰りたいだろうが現状では難しい。
とりあえずの措置として、うちのダンジョンで身柄を保護することになった。
ヒヨコ曰く、ダンジョンに魔王やヌシの制限はないそうだ。
大きなダンジョンにはヌシが何人もいるとのこと。滅多にいないが兄弟姉妹など複数で魔王をしている例もあるにはあるらしい。
これで、彼女の所属は禿鷲のダンジョンではなく、岩山のダンジョンに移った。
農民出身のリーリアは、農作業や農作物の精製スキルに優れている。
精米機や製粉機なしでも白米や小麦粉を作れるのだ。それらに限らず、そば粉やきなこや片栗粉、とある作物を植えれば砂糖も採れるとか。
岩塩の察知能力まであるそうな。
何でも精製できるので薬も作れるようだ。麻薬や爆薬などヤバイものも作れるらしい。
(……罠や武器に使えそう)
リーリアのスカウトは「勧誘」をタップしたら出来た。
それによって、また著しくレベルが上がってしまった。
「モエギ様、ヌシや魔王の勧誘にはボーナスがつくのです!」
とチリが口にしていたが、そういうことはもっと早く教えて欲しい。どうもこのヒヨコは情報の後出しが多い。
ダンジョンレベルが上がって、新たに「隠密」というスキルが現れた。
これは、ダンジョン外で行動する際、自分の身を隠すことが出来るというもの。
レベル差がありすぎる相手や隠密を見破る相手だと効かないらしいが、それ以外の相手には私の姿は見えていないし、気配も感じないということだった。
ちなみに、味方(岩山のダンジョンに所属している者)には私の姿が見える。フィオレにも姿が見えたらしいが……どんだけレベル高いんだ、あの蛇。
一度鑑定したいのだが、彼は中々隙を見せない。
(隠密スキルがあれば、私も禿鷲のダンジョンへ行けるよね!)
留守番はエレノアを始めとした火馬たちが引き受けてくれる。
天馬たちはヴァレリと一緒に禿鷲のダンジョンへ向かう予定だ。羽の生えている種族の方が、峡谷での移動に適している。
飛べない私はカルロに運んでもらうことになった。
禿鷲のダンジョンには人間の奴隷もいるそうなので、同じく人間である私も同行した方が彼らを安心させられると思ったのだ。
カルロは反対していたけれど、フィオレは私がダンジョン外で怪力を使えないことを知らない。
この状況下での不自然な留守番を怪しまれたので、とりあえず行くことになった。
(現地ではボロが出ないようにフィオレと別行動を取ろう)
※
北にある峡谷は垂直に切り立った崖が並ぶ場所で、まばらな緑に覆われている。
下には西へと流れていく川があった。
この川が長い年月を経て山を浸食し、大きな峡谷を作ったのだ。
そんな峡谷の上を、カルロに抱えられた私は飛んでいる。チリは私の胸ポケットの中で震えていた。
(この景色、高所恐怖症の人だったら気絶しているかも……)
リーリアの話では、禿鷲の魔王の従えるモンスターの数は多くないらしい。
魔王本人は少数精鋭を謳っているが、本当のところはただの人手不足。モンスター一匹当たりにかなりの負担がかかっており、彼らの犠牲の上でなんとかダンジョンを維持しているのが現状だ。
人員の誘拐や奴隷制度もそのような状況下で作られたのだとか。
しかし、彼らは限界までこき使われて倒れたら捨てられるとのこと。なんて無情なんだ。
だというのに、禿鷲の魔王はどんどん縄張りを増やし、色々なことに首を突っ込んでいるらしい。
人手不足なのに事業を拡大するブラック企業みたいなものだろうか……
リーリアの地図に記された数カ所の入口のうち、警備の一番緩い場所を選んで侵入する。
結界は張られていないようだ。
「チリ、ここのダンジョン……結界がないわよ?」
「そうですね。ヌシが結界を張るスキルを持っていないと、こういう事態になります。結界のないダンジョンは結構多いですよ?」
「そうなの?」
「モエギ様のスキルは、創世神様が特別に授けられたものです。ヌシの中でもトップクラスに使えるスキルが揃っているはずです」
後出しヒヨコは、今日も通常運転だ。




