表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/44

33:再び勧誘をしてみよう

 その日、私は一人で沼地に来ていた。沼地方面へとダンジョンを拡張していたのである。

 東が平原、南が沼地、北が峡谷、西は砂地と川だ。

 ここまで少し距離があったので、召喚した駐車場に停めてあった軽トラを使った。鍵がなくても動くし、ガソリンも減らない便利な車は、整地した岩山をすいすいと走り目的地へ着く。

 私には、沼地でやりたいことがあった。


(リベンジ、勧誘……)


 沼地は水蛇のダンジョンと近く警戒は怠れないが、あの蛇は沼地だろうが川だろうが勝手に現れるので、何をしても無駄な気もする。

 とりあえず、ダンジョンのモンスターをたくさん勧誘したい。

 沼地の隅……すぐにダンジョンに逃げ帰れる位置で、私は勧誘を試みた。ポケットにはチリもいる。

 カルロは馬たちと話し合いをしているので不在だ。今度のことを考えると、色々と取り決めが必要らしい。

 私の仕事はダンジョンの運営。モンスターの統率はカルロの仕事である。

 その間はすることもないので畑を増やしたり、拡張や整備をしたり、結界を強化していた。

 そして、今はここにいる。私は真面目なヌシなのだ。


 目の前をフットラビットが横切ったので、スマホを向けて勧誘の文字をタップする。

 以前は失敗したのだが、今回はスマホ画面に「成功」の文字が出た。上手くいったようだ。

 フットラビットが私の足下に駆け寄ってくる。もふもふした白い毛につぶらな赤い瞳。足が大きいところ以外は普通のウサギで、とっても可愛い。

 私は近くにいたフットラビット全部に勧誘をかけ、仲間にした。フットラビットたちは自分のダンジョンがわかっているようで、ピョンピョンとダンジョン内へ向かう。

 もふもふに癒やされたひとときだった。


 沼地に残っているモンスターは、スライムや蛇だけとなった。

 スライムは少しグロテスクな見た目だし、蛇は誰かさんを彷彿とさせるので勧誘を止めておく。


(さて、そろそろ帰るか)


 ダンジョンも、だいぶ大きくなってきた。

 再び車に乗り込もうとした私だが、背後に気配を感じて立ち止まる。

 振り返ると、泥まみれの少女が立っていた。


「……誰?」


 私よりも年下に見える少女を危険な沼地に放置できない。慌てて彼女に駆け寄った。


「……そなた、新しいダンジョンのヌシだな?」


 思ったよりも落ち着いた声音で少女が喋る。黒くつぶらな瞳に茶色の髪の彼女は、汚れを気にする様子もなく私に近づく。


「ダンジョンのことを知っているの?」

「ああ、同業者の話はアイツに聞いていたからな」

「へ……?」


 首を傾げる私の腕を取った少女は、ニィと笑って口を開けた。鋭い歯が並んでいる。


(人間じゃない……?)


 私の腕を掴んでいる爪は恐ろしく長く、鋭いカーブを描いている。


「あなた、なんのモンスターなの?」

「見てわからぬか? 土竜種だ」

「土竜……モグラ!?」


 言われてみれば、モグラを彷彿とさせる外見だ。この世界では、馬でも蛇でも人型を取る。


「珍しい気配を感じてな、地面の中を移動してきた」

「それで、泥だらけなのね」

「アイツの言っていたとおり、まだひよっこのヌシだな」


 私は黙って少女を見た。「アイツ」に「同業者」という単語。

 そこから導き出せる結論は……


「もしかして、水蛇のダンジョンのヌシ……?」


 尋ねると、少女は笑みを深めた。


「ご名答。会えて嬉しいぞ、岩山のダンジョンのヌシ」


 そんなダンジョン名じゃないけれど、私は普通に頷く。

 水蛇のダンジョンと同じ基準だと、うちのダンジョンは淫魔のダンジョンという名前になってしまう。それでは、あまりにもカルロが可哀想だ。

 今だって、一生懸命自分の種族を隠しているというのに。


「今日は、そなたを見に来ただけだ。私は、クローという。また会おう、ひよっこヌシ」

「ええ。私はモエギというの」

「そうか。またな、モエギ」


 マイペースなヌシは、ずぶずぶと泥の中に潜っていった。

 初めて自分以外のヌシに会った私は、ドキドキしながら軽トラに戻る。

 地面を跳びはねているウサギたちを全員荷台に載せ、洞窟へ向かって出発した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ