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30:結界を張ってみよう

(レベルが上がったし、さっそく結界を張ってみよう)


 翌日、私は使えるようになったスキルを試してみることにした。

 結構体力を消耗する仕様だ。

 カルロとは顔を合わせづらく、私は自分のマンションで過ごしている。

 絨毯の上に座って、スマホを開いた。


結界:レベル1(ダンジョンに結界を張る。体力を100消費する)


 さっそく、チリに詳しい話を聞いてみる。

 ヒヨコはグータラとベッドに寝転びながら私を見た。


「結界を張ってみようと思うの」


 そう言うと、チリが小さなくちばしを開く。


「それでは、スマホの『結界』の文字をタップするのです」

「相変わらず、お手軽仕様ね」


 言われたとおりにすると、マップ画面に円上の画像が現れて徐々に広がっていく。


「それが結界ですよ、モエギ様。緑色の光は、結界が完全な状態であることを表しています。傷つけば黄色に、壊れる寸前だと赤になります。まだ結界のレベルが1で弱いので、どんどんダンジョンの面積を広げてレベルを上げていきましょうね」

「うん、わかったわ」


 せっかく結界を張っても、破られれば意味がない。結界自体を強化しなければ。


(うーん、体力を半分持って行かれるのも地味に辛いなあ)


 ダンジョンの拡張もついでに済ませながら、私はごろんとベッドに寝転ぶ。

 カルロと言い争う形になってしまったけれど、きちんと向き合う必要がある。

 最初は徐々に行動を示して、私が外に出て行かないとわかってもらおうと思った。

 とはいえ、昨日話が通じなかったこともあり、私は少し行動を躊躇している。


(そうだ、先に家の周りを回ってみよう)


 結界がちゃんと機能しているか、家の周りを点検してみることにした。チリも一緒だ。

 地図機能でも確認できるが、本当に結界があるのかを目で確認したい。

 洞窟からカフェを通り抜け外へ出ると、空は曇っており雨が降りそうな雰囲気。

 早く確認して、部屋に帰る方が良さそうだ。


「あれ、空が……」


 よく見ると、半透明の膜がダンジョン全体を覆っている。

 これが、結界だろうか。前までは目視できなかったのに、今度の結界は見ることが出来る。

 チリに聞くと、自分で出した結界だから可視できるとのことだった。


 私は小走りで駆け出すと、岩山を下っていった。

 まずは、一番警戒すべき川方面。

 蛇侵入防止のため、きちんと確認しておかなければならない。

 歩いていると、ポツポツと雨が降ってきた。結界は雨粒までは防いでくれないようだ。

 足を速めて川の近くに来ると、結界の……川の向こうに水蛇が立っていた。

 まるで、私が来るのをわかっていたように。


「フィオレ……?」

「結界が出来たのが見えたから、もしかして確認にくるんじゃないかと思って」


 悪びれない笑顔で笑う彼はヒラヒラ手を振りながら川に入り、結界のギリギリまで近づいてくる。


「昨日はごめんねえ? 酔っちゃって……そのせいであんなことをしちゃったんだぁ」

「……本当に?」

「うんうん。君が強いこともわかったし、もうしないよ」


 弱ければ、問答無用で連れ去る気だったということだ。油断は出来ない。

 私が無敵でいられるのはダンジョンの中のみ。この結界の外で私は無力だ。

 そのことを、フィオレは知らないけれど……


「でさ、改めて、君をうちのダンジョンに招待したんだ」

「……全く懲りていないわね?」

「今度は、あの魔王も一緒でいいからさ。余所のダンジョン、気にならない?」

「あるけど。他の魔王の本拠地に二人だけで乗り込むのは無謀だと思うの。それじゃ、私は他の見回りに行くから」


 フィオレに手を振った私は、今度は草原方面をチェックすることにした。

 馬たちと多少仲良くなったものの、まだまだ警戒は怠れない。草原のトップであるヴァレリは魔王の座を狙っている。

 草原方面へ移動すると、今度は結界の外に馬の姿のヴァレリが立っていた。

 馬の蹄が柔らかい草を踏みしめている。


「あら、偶然ね……」

「空からモエギが見えたから、ここで待っていた。結界を張り直したんだな……」

「ええ。出来れば、今度は破らないで欲しいわ」

「なら、もう少し強化するんだな」


 レベル1では破ることが出来るのだと、彼は告げていた。

 ということは、蛇のフィオレも結界を破って来るかもしれない。

 今日は結界の外で大人しくしていたが、彼は嘘つきだから何食わぬ顔で壊して侵入してくる可能性大だ。


「モエギ、あんたに聞きたいことがある」

「何かしら?」

「俺には相手のレベルを測る能力があるんだが、ゴブリン退治の際に気になったことがあって……カルロのレベルなんだが」

「カルロがどうかしたの?」


 少し言いにくそうにしているヴァレリだが、覚悟を決めたように顔を上げた。


「最初に会ったときにはレベルが俺に遠く及ばなかったのに、いつの間にか同じくらいに並んでいる。一体、どうなっているんだ?」

「ああ、それは……このダンションに所属したら、レベルが上がりやすいみたいなのよ。魔王カルロも、ウルフのブルーノもぐんぐん成長しているわ」

「……ダンジョンの力だと!?」


 ヴァレリは、信じられないという顔で私を見る。

 ……顔は馬なのだが、微妙に表情を読むことが出来るのだ。


「ということは、モエギの能力か。岩山に建つ謎の建物といい、ゴブリンを殴り飛ばした力といい、かなり上級の……いや、特級のヌシか」


 ヴァレリは馬から人の姿になると、透き通った赤い瞳で私を見た。


「俺を魔王にする気はないんだよな?」

「ええ、カルロがいるから」

「うーん。攻撃をふっかけるのは、周りの奴らが反対するしなぁ……だが、レベルの上昇速度は魅力的だし。ダンジョンの恩恵も」


 しばらく一人でブツブツ悩んでいたヴァレリだったが、ややあって私に一歩歩み寄る。


「な、何?」


 警戒しつつ尋ねると、彼は吹っ切れたような笑顔を見せた。


「俺たちをモエギのダンジョンに入れて欲しい」

「ええっ!?」


 いきなり重要な話を振られ、私は大きな声を上げてしまった。


「私のダンジョンにって……」

「実は他の馬たちから、ダンジョンに所属したいという意見が出ていてな……最終決定は一任されているんだが、ずっと迷っていた。俺たち馬種は特定のダンジョンに所属していない。けれど、モンスターは本能でダンジョンに帰属していた方が安心できる」

「そうなんだ……」


 馬種は各地を流れて、草原に定住した後も、ずっと自分たちのダンジョンを欲していたらしい。

 とはいえ、味方は同種だけ。

 長であるヴァレリも若い(モンスター基準では)。

 他の魔王を潰してダンジョンを奪う力は持っていなかった。


 そんな折に、すぐ近くにできたてほやほやの低レベルダンジョンが現れたので、ヴァレリはさっそく攻撃を仕掛けようと動いた。

 けれど、ゴブリンの乱入騒動を経て、馬種の中にモエギたちと争いたくないという意見を持つ者が多数現れ始めたようだ。

 気性の荒い馬種だが情に厚い生き物らしく、受けた恩を仇で返すのかとヴァレリが責められる始末らしい。

 困り果てた彼は、モエギと話すことを望んでいた。


「敵対しないなら別にいいけど……ちなみに、ヴァレリのレベルは?」

「……今で120だ」


■ステータス■P1


<ダンジョン>

ダンジョン:<名称未設定>(レベル3)

ヌシ:モエギ(レベル20)

   体力—200/200

   気力—220/220

   特性—創世神の加護(ダンジョン内・自由カスタマイズ)

   装備—

   性質—ダメージ無効(ただしダンジョン内に限る)

面積:4000平方メートル

   拡張—レベル21で可能(+100平方メートル)

地形:洞窟・岩山・砂地・川

<モンスター>

魔王:カルロ(レベル125)

ウルフ:ブルーノ(レベル35)


 カルロのレベルは、いつの間にかヴァレリを追い抜いていた。

 とはいえ、5という微々たる差。ほぼ同じと言える。


「早くモエギのダンションに所属すればするほど、強くなれるということだろ」

「まあ、レベルは早く上がると思うけど」

「なら、異論はない。決定は俺に一任されているし」

「私としても、味方が増えることはありがたいの……だけれど」


 魔王の意見も聞いておいた方がいいだろう。

 しかし、ただいまカルロとは決別中。

 私は洞窟内に閉じ込められるのはごめんだし、彼はそうしないと安心できないと言い張る。

 とても話が出来る状態じゃない。出来るかもしれないが……したくない。


「魔王と何かあったのか?」

「いいえ? な、何でもないわよ? わかった……あなたたちが仲間になってくれるならありがたいわ」


 私がそう言うと、チリがトコトコと歩いてきて足の上に乗った。


「モエギ様。『勧誘』をタップです」

「えっ? あの、こういう場合も『勧誘』になるの?」

「そうです。『勧誘』をタップしなければ、ダンジョンに登録されません。ちなみに、モエギ様のレベル2で味方に出来るのは下級モンスター。本来、彼レベルのモンスターは仲間に出来ません。けれど、本人が心からダンジョンへ属したがっている場合に限り、条件なしで味方にすることが出来ます」

「そういう仕様? なら……『勧誘』っと」


 私はスマホの先をヴァレリに向け「勧誘」の文字をタップする。

 すると、ヴァレリがピクリと動き、続いて彼の体から淡い光が発せられた。

 しばらくするとそれは収束し、スマホ画面に「成功」の二文字が表示される。


<モンスター>

魔王:カルロ(レベル125)

火天馬:ヴァレリ(レベル120)

ウルフ:ブルーノ(レベル35)


 チリは、さらに説明を続けた。


「他の馬種の方々も、一人一人の『勧誘』が必要です」

「ちょっと面倒ね」

「勧誘のレベルが低いうちは、一人ずつしか勧誘できません。レベルが上がると、群の長一人を勧誘すれば、自動的に彼の味方も登録されることになります」

「なるほど」


 ヴァレリの勧誘が終わると、またレベルが上がる。


「え、何これ?」


■ステータス■P1


<ダンジョン>

ダンジョン:<名称未設定>(レベル10)

ヌシ:モエギ(レベル40)

   体力—400/400

   気力—440/440

   特性—創世神の加護(ダンジョン内・自由カスタマイズ)

   装備—

   性質—ダメージ無効(ただしダンジョン内に限る)

   技能—鑑定(相手の情報を見ることが出来る)

面積:4000平方メートル

   拡張—レベル21で可能(+100平方メートル)

地形:洞窟・岩山・砂地・川・草原

<モンスター>

魔王:カルロ(レベル250)

火天馬:ヴァレリ(レベル245)

ウルフ:ブルーノ(レベル80)


※ダンジョンレベルが10を越えましたので、召喚特典は終了しました。



 ヴァレリ一人を仲間にすることによって、恐ろしいレベルアップを引き起こしてしまった!

 しかも、そのせいで召喚特典が消えている!

 なんということだ! こんなことなら出し惜しみせずに、もっと色々召喚しておくんだった!


「チリ、先に教えて欲しかったな……」

「特典の消失に関しましては、存じ上げませんでしたので。おそらく召喚は、創世神さまが面白がって付けられた特典だったのでしょう」

「うう、勿体ないことした」


 とりあえず、その後はヴァレリの許可をもらって草原方面へダンジョンを拡張していく。

 そして、出会った馬から「勧誘」していった。

 馬全員を勧誘し終えた頃には、ダンジョンのレベルが20になっていた。


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